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お話し小箱。「好きに動かしてみよー」26 

 

 
 
 
  
 
 
「・・・なんだか不思議な感じがしますね」
イワイシが答えると、おじいさんは、すぐに質問を重ねた。
 
 
 
「もっといろいろあるだろ?
 
 私がコレに気がついたのは本当に
 つい最近なんだ。
 ずっとこのあたりに住んでいるんだけどね。
 
 視線を感じたって言ってたけど、
 それだけで正確な位置までわかるのかい?」
 
  
 
「・・・うーん・・・単純にこのへんかなって
 思っただけなんですけど」
 
 
 
「じゃあ、あそこにクルマを停めようと思ったのも、
 なんとなくだった?」
おじいさんの質問にイワイシは頷いた。
 
 
 
「なんとなくではあるんですけど、
  ずいぶん大きな家があるなぁって思ったので・・」
 
 
 
「昔からある家は大きいんだよ。
 大勢で住んでたしね。
 
 その家を建て替えるにしても、
 極端に小さくすることは難しいんだ。
 家族が少なくなったとしても・・・
 
 親戚が大勢集まることがあるからっていうのも、
 理由の一つではあるけど、
 自分の代で家を小さくしたくないって見栄もある。
 自分が継いだ以上は、前の家とほぼ同等に
 しなきゃいけないって、どこかで思ってるんだろうな。
 
 ・・・立ち話もなんだから、お茶でも飲んでいかないかい?」
 
 
 
「いえ、その・・・」
 
 
 
「ふらっと立ち寄ったってことは、
 急ぎの用事があるわけじゃないだろ?」
  
  
 
おじいさんは、ポケットから携帯を出すと、
ボタンを押して耳にあてた。
「おう、これから、お客さん3人連れていくから。
 若い人だから、紅茶がいいな」
それだけ言うと、携帯をポケットに突っ込み、歩き出した。 
 
 
 
 
おじいさんは、イワイシたちが立ちつくしているのに気がつくと
よく通る声で言った。 
「一休みして行ってくれよ。
 長くは引き留めないから」
 
 


 
* * * * * * * * * * * * * * * * * * * * *  
 
 


おじいさんの家は、遠目から見た以上に立派だった。
光崎さんの家よりもだいぶ新しかったが、
とても落ち着いた雰囲気で、上品な感じだった。
 
 
 
おじいさんは、玄関には回らず、
手入れの行き届いた庭の方へ歩いていき、
縁側の沓脱石で靴を脱ぐと、部屋の中に入って行った。
 
 
 
「・・・どうするんだよ?」
透がささやいた。
 
 
  
「どうするって・・・どうしようもないだろ」
イワイシは面白がっているようだった。
 
 
 
「大丈夫だよ、たぶん。
 嫌な感じはしないし」
ケムリが低い声で言った。
 
 
 
「紅茶を用意したから・・どうぞ」
おじいさんは縁側に戻ってきて、3人に声をかけた。
 
 
 
「お邪魔します」
イワイシは、靴を揃えてから家に入った。  
 
  
 
(イワイシみたいな外見のヤツが
 ああいう動作を自然にやるのは、
 やっぱりヘンな感じがするよな・・・
 動きはキレイなんだけど・・・)
 
 
 
透はイワイシの様子をぼんやり見ていたが、
ケムリにつっつかれて、部屋の中に入った。
 
 
 
八畳くらいの和室を横切ると、
廊下なのか、それとも何か道具を置いたり作業したりする場所なのか
よくわからない広いスペースがあった。
 
 
 
そこに折りたたんで収納できそうな、
木製の四角いテーブルとイスが置いてあった。
 
 
 
テーブルの上には、
いい香りの紅茶が置かれていた。 
 
 
 
「適当に座って」
おじいさんに促されて3人はイスに座った 。
 
 
 
「紅茶、冷めないうちに・・・
 ウチのばあさんが淹れた紅茶はなかなかいいよ」
 
 
 
 
 
 
 
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おじいさんと向かい合う位置にイワイシが座り、
透とケムリが向かい合う形になった。
 
  
 
おじいさんは、紅茶をおいしそうに飲んだ。
 
 
 
透がティーカップに手を伸ばしたとき、 
クルマの中でイワイシが言ったことをふっと思い出した。



“もっとも、オーナーの家だって、
 危険って感じはしないけどな。
 ・・・めんどくさいかもしれないけど”


 
(めんどくさいって、もしかして、このことだったのか??
 確かに自分のことを話すハメになったら、
 イワイシにとってはとてつもなく面倒だろうなぁ)
 
  
「最初に、奇妙な話に理解があるんじゃないかと言ったけど・・・
 
 私は、昔から不思議なものが好きで、
 ちょっと変わったものをいろいろ集めているんだ。
 
 それで、君たちに、私が集めた石を見てもらいたい。
 どう思ったか、教えてもらいたいんだ」
 
 
 
「・・・どうして僕たちなんですか?
 なんで、初対面の人間に見せたいんですか?」
ケムリが川瀬クンの口調で訊ねた。
 
 
 
おじいさんは笑った。
「もっともな質問だね。
 納得してもらえるかどうかわからないけど・・・
 君たちが私の知っている人に、
 よく似ているからなんだ。

 さっきも言ったけど、本当に眼がよく似ている。

 その人は、<特別な石>を集めていた。
 だいぶ前だけど、彼の友達だという人から、
 その<特別な石>を見せてもらったんだ。
 ・・・かなり小さいものだったが・・・
 大袈裟に聞こえるかもしれないけどね、
 実に神秘的だった。
 
 一目見て、欲しくなった。
 石を見せてくれた人の話だと、
 こういう石は、日本各地にあるらしい。
 でも、彼じゃないと見つけられないと言っていた。
 石でありながら、石じゃないから
 何か世話が必要だとか、
 よくわからないことも言っていた。
 
 私は、彼と接点を作ろうとして努力したよ。
 でも、とにかく忙しい人だったようで、
 結局、個人的に会うことは叶わなかった。
 
 彼でないと絶対に見つけられないという話だったが、
 石を探しに行く予定だった場所というのを教えてもらって、
 行ってみた。
  
 長いことかかって、やっとそれらしいのを
 何個か見つけた。
 
 でも、見せてもらった石と本当に同じ仲間なのか、
 どうもよくわからない。
 
 もちろん、ほかの石・・・宝石とか、
 パワーストーンなどと言われる石と比較しても、
 全く違う印象を受けるのは確かだ。
 
 <特別な石>を見せてもらったのが、
 ずいぶん昔のことなので、
 どういう感じだったのか、
 記憶が曖昧になっている気がするし、
 石の印象をどこかで書き換えている可能性もあるし・・・」
  
 
 
「それで、僕たちに聞いたら、何かわかるんじゃないかと
 思われたんですか?」
ケムリは、遠慮なく質問するキャラを演じる気になったらしい。
  
 
 
「そういうことだ。
 それにね、ますます頭がおかしいと思われそうだが、
 私は直感的に感じたことを重視している。
 
 ふっと思いついたこととか、
 言葉として聞こえてきたこととか。
 実際に、何度も・・・本当に何度も
 直感的なものに助けられてるんだ。
 
 それで、今回は、
 君たちに石を見てもらう必要があるって感じたわけだ。
 こちらの一方的な都合で申し訳ないが・・・
 石なんて全く興味無いだろうけど、
 美味しい紅茶に免じて、とりあえず見てほしい」
おじいさんは席を立って、
後ろの壁の目立たないドアをあけると、姿を消した。
数秒後、階段を上るような足音が聞こえた。  
 
 
 
「・・・ふー・・・いきなり本題かよ」
ケムリが大きく溜息をついた。 
 
 
 
「やっぱり、似てるのかな・・・死んだおじいさんに」
イワイシはそう言って紅茶を飲んだ。
  
 
 
「直感って・・・あのおじいさんっていうかオーナーも、
 いろいろ見える人っぽいな。
 本人は自覚してないって言うか、
 ちょっとフツーとは違ってる程度の認識みたいだけど」
 
  
そう言いながら、透は、イワイシやケムリから見たら、
オーナーと同じく、自分自身も、<見えること>について
自覚がないと思われているのかもしれないなと思った。 
  

 
 
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「お前が持ってた石、さっき粉々になったみたいだが・・・
 同じタイプの石を持ってこられても大丈夫なのか?」
ケムリが訊くと、イワイシは平然と答えた。
「問題ない。今回は気をつける。
 さっきは、予想外っていうか、
 考えもしなかった事態だったからな。
 意識してれば大丈夫だろ」  
 
 
 
階段を降りてくる足音が聞こえた。
 
 
 
「ケムリもハシバも、
 石に触らない方が無難だな・・・
 
 持ってみろって言われたら困るけど」 
 
 
 
オーナーが、桐の箱を持って戻ってきた。
そして、テーブルの上に静かに置くと、蓋をあけた。
 
 
 
内側にはワインレッドの別珍が貼ってあった。
ちょっと値が張るチョコ レートの箱のように
きれいに区切ってあり、
その中に石が一つずつ収められていた。 
 
 
 
透は仕切りの数を数えてみた
(3×6。でも5つ空いてるから13個か・・・
 足りない5つはイワイシが持ってたのかな?)
 
 
 
パッと見の感じでは、石の博物館のものと
さほど変わらないようだった。
 
 
 
<特別な石>という表現を使っても、
おかしくない感じだった。
 
 
 
(でも、なんか違う・・・
 イワイシが持っていたのとも
 微妙に違うような・・・
 
 ああ、そうか・・・これ、弱ってきてるんだ。
 最初はもっと光っていたはず・・)
 
 
 
イワイシもケムリも無表情だった。
じっと石の入った箱を眺めていた。
 
 
 
「・・・何か感想を聞かせてもらえないかな?
 手にとって見てもらっても構わないよ」
 
 
 
「仕切りが空いているのは、どうしてですか?」
ケムリが石から視線を上げて訊ねた。
 
 
 
「ここにある石以外にも、
 あといくつかあるはずだから・・・
  
 つまり、私が見つけられたのは13個だったけど、
 見つけた場所には20個近くあったような気がして
 仕方ないんだ。
 
 もっとも、これは直感的なものだから、
 他人から見れば、単なる思い込みでしかないだろう・・・
 
 諦めきれなくて、何度か行っているんだが、
 まだ見つけられない。
 これだけ探しても見つからないってことは、
 誰かが見つけて、持って行ってしまったのかもしれないな」
  
  
 
(気のせいかもしれないけど、
 石からどんどん元気がなくなっていってるみたいだ・・・)
 
 
 
「・・・君たちは、この石の輝きが
 徐々に落ちているのがわかってるみたいだな」
 
 
 
透はビックリした。
表情に出てしまったに違いない。
 
 
 
「ある人から、この石を元の状態に戻して、
 輝きを保ったまま管理する方法があるという話を聞いた。
 
 君たちは、もしかして関係者か?
 ・・・失礼だけど、どう見ても学生に見えるんだが・・・」
 
 
 
 
 
 
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「関係者じゃないです」
イワイシが答えた。
  
 
 
「ただ、少しだけ、微妙な雰囲気がわかるくらいです」
 
 
 
「少しだけじゃないだろう?
 
 プライベートなことを聞かれたくないかもしれないが、
 岸崎という苗字の親戚って、いないかい?」
 
 
 
「岸崎姓の親戚はいないです」
ケムリが<親戚はいない>という部分を強調して答えた。
 
  
 
(・・あ、ばあちゃんは<岸崎華子>だったっけ・・・
 そっか、死んだおじいさんは岸崎って苗字か)
 
 
 
オーナーは、一瞬、怪訝な表情を見せたが、話題を変えた。
「・・この石、元に戻せるかい? 
 もっと鮮やかな色で強い光があったはずなんだ」
 
 
 
イワイシはしばらく黙っていたが、オーナーの顔を
まっすぐ見て答えた。
「残念ながら、戻せません。
 たぶん、あと数カ月で変色して砕けてしまうと思います」
 
 
 
オーナーは目を見張った。
ショックを受けたようだった。
大きなため息をつくと右手で額を押さえた。 
「この石は・・・
 あの人が集めていた<特別な石>とは違うものだったのか?
 それとも、<特別な石>というのは、時間が経てば砕ける運命なのか?」
 
 
 
「ここにある石は<特別な石>じゃないと思います。
 とてもよく似ていますが・・・」
 
 
 
「やっぱり、石のことを知っているんだな・・・」
 
 
 
イワイシは黙っていたが、ポケットに右手を突っ込んでから
テーブルの上に手を置いた。
  
  
 
「ここにある石は、最初はこんな感じでしたか?」
 
 
 
イワイシが手をどけると、
鮮やかな明るいブルーの石があった。
 
 
 
オーナーは息をのんだ。
 
 
 
「・・・石を持っているのか・・・
 もっとも、君は、あの人と同じ眼をしているから、
 <特別な石>と縁があっても不思議じゃない。
 
 ああ、そうだ・・こういう輝きがあった・・・
 
 私の石も最初はこんな感じだった。
 今はくすんだ色になっているが、
 この端っこの石は確かこういう色だった・・・
 こうやって比べてみると、全く違うな。
 私の石には、特別な感じがあると思っていたのに」
 
 
  
 

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オーナーは大きく息を吐くと、立ち上がった。
そして、壁際に歩いて行って、そこに寄り掛った。
 
 
「・・・あの人の石とは違うかもしれないって
 思ったことは何度かあったんだ。
  
 でも、そのたびに打ち消していた。
 違うんじゃないかという感覚を
 信じたくなかったんだ。
 
 石の状態を戻せるかもしれないって話も、
 何かひっかかるものを感じながらも、
 飛びついてしまった・・・」
 
 
 
「具体的な話になっているんですか?」
ケムリが訊ねた。
 
 
 
「・・・どこまでを具体的というのかわからないが・・・
 石に対して、とても熱心な人がいてね、
 その人にもいくつか石を見せた。
 ・・・13個しか持っていないとは思っていないだろうな」
 
 
 
「・・・その人から、輝きを保ったまま管理する方法について
 話を聞いたんですね?
 その方法についての説明はあったんですか?」
ケムリがまた質問した。
 
 
 
「石の保管場所として特別な部屋を作る必要があると言っていた。
 そのためには、かなりの費用がかかるということも・・・
 具体的な金額が示されたわけじゃないから、
 いくらぐらいなのか、全くわからなかったが、
 元の状態に戻せるなら、金に糸目はつけないつもりだった」
 


「その人が言ったことは間違ってないです。
 ここにある石が 、<特別な石>であれば、
 多額の費用を出す意味はあります」
イワイシが言うと、オーナーは顔を曇らせた。 
 
 
 
「・・・この石が、<特別な石>でないなら、
 これは一体何なんだ?
 最初の頃と比べて、こんなに変わってしまったのは
 どうしてなんだ?」
自分の口調の強さに気づいたのか、オーナーは
咳払いして付け加えた。
 
 
 
「いや、その・・・とても残念だったんだ・・・
 この石のことを教えてほしい。
 
 何で知っているのかとか、
 どうやって知ったのかとか、
 君たちの個人的な情報にかかわることは詮索しない。
 
 だから、教えてくれないか・・」
 
 
 
オーナーの真剣な様子を見て、
イワイシは話すことにしたようだった。
 
 
 
「ここにある石は、コピーみたいなものです。
 <特別な石>のレプリカと言ってもいいかもしれません。 
 
 <特別な石>というのは・・・
 石のように見えますが、
 生きている細胞のように自己組織化します。
 自分で自分を作り上げることができます。
 だから、ダメージを修復できるし、
 仲間を増やすこともできるんです。
 
 コピーの石は、すべてコピーされたもの・・
 <特別な石>とよく似ていますが、
 自己組織化はできません。
 時間の経過に伴って徐々に力を失っていきます。
 
 だから、最初の状態は<特別な石>と
 同じように見えるんです。
 でも、時間が経つと、ここにある石のように、
 輝きが消えていきます」
 
 
 
「そうだったのか・・・」
オーナーは深いため息をついた。 
 
 
 
「石に対してとても熱心な人・・・
 彼もまた、貴方と同じように、
 何かが違うと感じていたかもしれません。
 
 でも、<特別な石>の価値を知っているとしたら、
 よく似たベツモノだと認めることは、
 難しいかもしれませんね」
イワイシはそう言うと紅茶を飲んだ。
 
 
 
(先生は、ホンモノだと信じたかったんだろうな。
 <違う>という感覚は持っていたみたいだったけど・・・
 
 俺にとって石はよくわからないモノでしかないけど、
 先生やオーナーにとっては、
 とんでもなく価値があるものなんだろうなぁ・・・)
 
 
 
「教えてくれて、ありがとう。
 よくわかった・・・
 
 この石には罪はない・・・仕方ないことだ。
 
 徐々に力を失って・・・
 その後、どうなるのか、君は知ってるのか?」
 
 
 
「砕けて砂のようになると思います。」
 
 
 
「・・・砂になるのか・・・」
オーナーは大きなため息をついた。
そして、しばらくの間、宙を見つめていた。


 
大きく息を吸って吐くと、
気を取り直したように、張りのある声で言った。
「それにしても・・・
 どうしてこれが20個くらいあると思ったのか・・
 確信に近い感覚だった」
 
 
 
「実際にそうだったからでしょう・・・
 ここにあるもの以外はすでに砕けてしまいましたが」
 
 
 
「もしかして、君が持っていたのか?」
  
 
 
オーナーの質問にイワイシは無言で頷いた。
 
 
 
 
 
 
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「君は、ホンモノの<特別な石>を探すこともできそうだな」
 
 
 
「<特別な石>を手に入れたいのであれば、
 石に対してとても熱心な人に話してみるとよいと思います」
  
 
 
「彼を知っているんだね。
 でも・・・彼を知っているとハッキリ言いたくないし、
 私とコンタクトしたことを彼に知られたくない・・・そうだね?」
 
 
 
オーナーの言葉にイワイシは苦笑した。 
「素晴らしい直感ですね。その通りです」
 
 
 
「彼は・・・とりあえずミスターと呼んでおこうか・・
 ミスターは自分が<特別な石>を扱ってるなんて
 一言も口にしなかったけどな」
 
 
 
「・・・いろいろ理由があるからですよ」
 
 
 
「ソフトな口調を保っていたけれど、
 特別な部屋をとても作りたがっているように感じられた。
 
 私の方がずっと年上だから、
 もちろん、言葉にはしなかったが、
 お金のことを気にしているなら、
 自分が出してもいいと考えているようだった・・・
 私の直感が教えてくれたことだが」
 
 
 
「本気なんです。
 あの人は・・・ミスターは、こうと決めたら、
 どんな障害があろうと、本気で進んでいくんです」
 
 
 
オーナーは笑った。
「確かにね。
 見た目はクールな印象だけど、
 石の話をしているときの彼の眼を見れば、
 内側に溶鉱炉があってもおかしくはないな。
 
 ・・・ミスターは私に<特別な石>を
 売ってくれるだろうか?
  
 これまでの経緯だと、
 とにかく部屋ありきという雰囲気だった・・・
 とても頭のいい男だから、それをあからさまに
 表現することはなかったが、
 私には<絶対に部屋を作らなければ>というのが
 実にハッキリ感じられたよ」
 
 
 
 
「そうですか・・・
 
 昔、貴方に<特別な石>を見せてくれた方と、
 コンタクトできますか?」
 
 
 
「いや、彼は、だいぶ前に亡くなったよ」
 
 
 
「・・・その方を経由して、<特別な石>のことや、
 岸崎氏のことを知った んですよね?」
 
 
 
イワイシの質問にオーナーは頷いた。
 
 
 
「そのことをミスターに話したことはありますか?」
 
 
 
「いや、話していない・・
 そういう話題になったことはなかった」
 
 
 
「では、その話をしてください。
 そして、集めた石は、<特別な石>とは違うことがわかったと
 知らせてください。
 
 ミスターは・・・岸崎氏の奥様の親戚にあたる人です」
  
 
 
オーナーは目を見張った。
「君はどうして・・・あ、すまない。
 こういう質問はダメだったね。
 聞かないよ。
 
 ・・・わかった。そうするよ。
 私は、本物が欲しいんだ」
 
 
 
その時、布をこするようなかすかな音がして、
石の入った箱が一瞬光った。
 
 
 
「・・・石が砕けたようです」
イワイシは箱を覗き込むことなく静かな口調で言った。
 
 
 
オーナーは箱に視線を向けた。
「ああ・・本当だ・・」
 
 
 
箱の区切りの中には、
乾いた泥団子のようになった石が並んでいた。
形を保っているものもあったが、
ほとんどが細かく割れてい た。
ワインレッドの別珍は、白っぽい粉を
まぶしたようになっていた。
 
 
 
「どうして・・急に・・・」
透が言うと、オーナーが答えた。
 
 
 
「この石に対する、私の執念みたいなものが
 消えたからなんじゃないかな。
 
 どこかで違うと感じながらも、
<特別な石>だと信じたかった・・・
 
 徐々にくすんだ色に変わっていくのは、わかっていたし、
 不可逆な変化だと直感が教えてくれていたけど、
 絶対に元の輝きに戻ると思いたかったんだ。
 
 でも、今はそういう気持ちが全然ない。
 あんなに強く思っていたのに・・・」
 
 
 
 
  
 

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オーナーは、石の入った箱の横に置かれたままになっていた
鮮やかな明るいブルーの石に手を伸ばした。
「これ、見せてもらってもいいかい?」
 
 
 
「どうぞ」
イワイシが頷いた。 
 
 
 
オーナーは石をてのひらに乗せた。
「ああ・・・やっぱり・・・
 違うものだったんだ・・・」
そう呟くと、しばらくの間、石に見入っていた。 
 
 
 
「・・・これを売ってもらえないだろうか?」
 
 
 
「それは、貴方に合う石ではありません」
 
 
 
「えっ?」
 
 
 
「石との相性があるんです。
 貴方には、赤系統の石の方がいいと思いますが、
 ミスターとお話ししてください。
 ・・・彼がその役目ですから」
  
 
 
「わかった・・そうするよ」
オーナーはイワイシに石を渡した。
 
 
 
イワイシは、受け取った石をポケットに突っ込み、
「そろそろお暇します。
 紅茶、ごちそうさまでした」
と言って、軽く頭を下げると、オーナーは笑った。 
 
 
 
「あなたは、実に不思議な人だね。
 
 日本語が上手な外国人の友達が何人かいるから、
 流暢な日本語に違和感はないが、
 ちょっとした仕草や振舞まで、
 日本人と全く同じっていうのは・・・
 
 ・・・いや、詮索したいわけじゃないよ。
 
 でも、もっと不思議なのは、
 あなたの雰囲気が学生のように感じられたり、
 ずっと年上のように感じられたりすることだ。
 
 私が考えているよりずっと、
 いろいろな経験をしてきたんだろうね・・・
 
 変わり者の年寄りの相手をしてくれてありがとう」
 
 
 
イワイシはオーナーの言葉にもう一度頭を下げると
イスから立ち上がった。
 
 
 
オーナーは、さっき入ってきた縁側の方へ歩いて行った。
「見送りをさせてもらうよ」
 
 
 
オーナーを先頭にして庭を歩いていくと、
彼は足を止めて振り返った。
「ミスターには、君たちのことは絶対に話さない。
 カンのいい男だから、何か気づくかもしれないが」
 
 
 
(暁子サンが、オーナーの家を見に行かせたという話をしなければ、
 気がつかないはず・・・
 今は、先生にいろいろ教えるつもりはないと思うし)
 
 
透はオーナーの様子をぼんやり眺めていた。
傾き始めた日の光が当たっているせいかもしれないが
ぼんやりとした金色の光が、身体を囲んでいるように見えた。 



「ミスターを介して、近い将来、
 また君たちにお目にかかれそうな気がするよ。
 でも、初対面を装うから、安心してくれ」
別れ際、オーナーは名残惜しそうな目をしていた。 
 
 
 
* * * * * * * * * * * * * * * * * * * * *
 
 
  
 
「ホントにまたあの人に会うことになりそうだな」
クルマが走り出してしばらく経ってから、
透が言うと、イワイシが笑った。
 
 
 
「俺もそう思ってた。 
 オーナーが初対面のフリをしてくれても、
 先生には通用しないかもしれないな」
 
 
 
「暁子サンにはなんて報告するんだ?」
ケムリが尋ねると、イワイシはしばらく考えてから、 
「・・・おいしい紅茶をごちそうになったとでも
 言っておくかな。
 オーナーと接点があったことは、
 知らせておいた方がいいだろう。
 
 ま、彼女の場合は、こっちが何も言わなくたって
 いろいろわかってるだろうけど」
 
 
  


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