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お話し小箱。「好きに動かしてみよー」24 

 



 
 
 
「・・・すっげー腹減ったんだけど」
ケムリが疲れた声で言った。
 
 
 
「道の駅でなんか喰えばよかったのに」
イワイシは素気ない口調で応じた。 
 
 
 
「じゃあ、コンビニに寄ってくれ。
 食い物、買うから」
 
 
 
「・・・それでいいならそうするけど。
 俺はコンビニ飯はあまり好きじゃないから、
 違うものを喰うけどな」
 
 
 
「よさそうなレストランとか、見つけてあるのか?」 
 
 
 
「・・・まあな。
 レストランじゃないけど。
 
 で、ケムリは明るい色の服、用意してきたんだろうな?」
 
 
 
「この下に着てる。
 どっかで暁子サンに会わなきゃいけないのか?」
 
 
 
「暁子サンには会わないけど、
 彼女の親戚んちに行くことになる。
 
 ・・・自分の関係者にできるだけ結び付けたいらしい」
イワイシはうんざりしたように言った。
 
 
 
「昼飯って、もしかして暁子サンの親戚の家で喰うのか?」
ケムリは驚いたようだった。 
  
 

「ああ・・・そういう話になってる。
 気が進まないんだけど。
 
 親戚のおばさんっていうのが、
 暁子サンの料理の師匠らしい」
 
 
 
「・・・暁子サンのおばさんって、
 暁子サンの親のお姉さんか妹ってことだろ?
 おばあさんって年齢じゃないのか?」
 
 
 
「ハシバは面白いところに注目するんだな。
 そうだな、高齢者って言 える年齢だと思うよ。
 でも、タダモノじゃない雰囲気で、
 超元気なヒトらしい。
 華子サンとはかなり違うバージョンらしいけど」
 
 
 
「全然知らないガキどもが行っても、
 その親戚の家の人は平気なのかねぇ?」
 
 
 
「暁子サンが寄越す人間なら大丈夫だと思ってんだろ。
 そういう信頼関係みたいなものを、
 俺に見せたいのかもしれないな。
 
 それに、詳しくは聞いてないけど、
 暁子サンのおばさんってひと、
 不思議な声が聴こえたりするタイプらしいから」
 
 
 
「暁子サンは、自分以外の人間が、
 俺たちに対して、
 どういう感想を持つのか知りたいのかも。
 
 おばさんってひとの、
 メッセージみたいなものを受け取る能力に関しては
 暁子サンは一目置いているのかもしれない。
 だから会わせたいんじゃないかな?」
 
 
 
「それって、今、ふっと浮かんだことなんだろ?
 ハシバのその感覚、
 当たってることが多いからなぁ・・・ 
 料理の師匠のごはんは食べてみたいけど、
 気が重くなってきた」
イワイシは憂鬱そうだった。
 
 
 
 
 
  
 
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「さてと・・・暁子サンにご連絡しないとな」
 
 
 
イワイシは路肩にクルマを停めた。
 
 
 
「おばさんの家ってここから近いのか?」
 
 
 
「ああ、この道を真っすぐ行けばつく」
 
 
 
「でも、 田圃や畑ばっかりで、
 家があるようには見えないけど」
 
 
 
「でも、ところどころに、
 木が固まって生えてるところがあるだろ?
 ああいうところには家が建ってる」
イワイシは携帯を出して、いくつかボタンを押すと
耳にあてた。
 
 
 
「・・・イワイシです。
 今、よろしいですか?
 教えていただいた神社の脇の道にいます。
 ・・・はい・・・
 じゃ、クルマはそこに停めればいいですね。
 ・・・そうですね・・・わかりました・・・
 何かあったらまた連絡します・・・失礼します」
 
 
 
「暁子サンの声で切り替わるんだな」
ケムリがからかった。 
 
 
 
「超重要顧客だからな・・・礼儀正しくしないとね」
 
 
 
「神社って、どこなんだ?」
透が不思議そうに言った。
 
  
 
「見てみるか?」
イワイシはエンジンを切り、シートベルトを外して
クルマから降りた。
透とケムリもそれに続いた。
 
 
 
「これが神社??」
透は目を丸くした。
 
 
 
とても小さな鳥居と、大きな木が数本あるだけだった。
 
 
 
「あれ? 全然わからなかった?」
 
 
 
「このサイズじゃ、
 運転席に座ってないと気付かないよ」
 
 
 
「いや、見た目の話じゃなくて・・・
 事前に話を聞いてないとわからないのかなぁ?
 ・・・この神社、存在感はスゴイんだけど。
 何か感じないか?」
 
 
 
「・・・うーん・・ わかんないなー」
透は目を閉じてみたが、何も感じなかった。
 
 
 
「波長が合う人間じゃないと
 わかんないんじゃないのか?
 俺も全然わからない。
 小さな鳥居と大きな木があるってことだけだな」
 
 
 
「ふーん・・・そうなんだ。 
 暁子サンに試されたのかもしれないな。
 この神社の存在に気づくかどうかが、
 何かの判断基準になっているのかもしれないな」
イワイシはため息をついた。
 
 
 
「さっきの道の駅で・・おじいさんと話してただろ?」
透は神社とは何の関係もないのに・・・と思いながらも、
アタマに浮かんだことを話し始めた。
 
 
 
「包帯みたいな長くて白っぽいものが、
 イワイシのまわりを飛んでたんだけど」
 
 
 
 
 
 
 
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「包帯みたいなもの? なんだそりゃ?」
イワイシは怪訝な表情を見せた。
  
 
 
「俺も見た。
 丸まったり伸びたりしてたなぁ。
 
 その時は・・・なんだか知らないけど、
 あまり変だとか思わなかったんだよな。
 いつ消えたのかもよくわかんないんだけど」
ケムリの肩から白い光がイワイシに流れていった。
 
 
 
「ふーん・・・
 心当たりがないなぁ。
 
 この長いへんなモノ、
 情報収集してるっぽい・・・
 
 でも、特に何も感じなかったな」
 
 
 
「なんとなくだけど・・・ 
 イワイシの周囲の空気の感じを調べてたのかも」
 
 
 
「空気の感じ?」
 
 
「気配を消さない限り、
 誰かいる、人がいるって感じ、あるだろ?
 そういう類のモノを調べてたんじゃないのかな?
 ・・・よくわかんないけど」
自分が言っていることが、
急に的外れのような気がしてきて
透は言葉を濁した。
 
 
 
イワイシは鳥居の後ろの高い木を見上げた。
「包帯みたいなやつ、この神社から来たんじゃないかな。
 
 ・・・ハシバは直感的に気づいたから、
 話題にしたんだろ、きっと」
 
 
 
「この神社から来たって・・・
 祀られているものと関係あるとか?」 
 
 
 
「無関係じゃないだろうけど・・・
 それ以上にこの神社と暁子サンは、
 何か結びつきがありそうな気がする」
 
 
 
「包帯みたいなやつを見つける前に、
 ハシバくんのブレスレットが反応したんだ。
 
 光が急に大きくなって、
 すぐにまた元の状態に戻ったけど」
 
 
 
「ちょうど到着したタイミングだったんじゃないかな?
 その包帯みたいなやつってのが」
 
 
 
イワイシの言葉を聞いて、透とケムリは
ブレスレットを確認したが、変化はなかった。 
 
 
 
「今はいないみたいだよ。
 
 ・・・包帯みたいなやつって、なんかこう、
 盛んに動きまわるとか、高速で移動するようなそういう存在みたいだな。
 今は、そういうタイプの気配は感じられないなぁ。
  
 ここの木は、結構高く伸びてるけど、
 樹齢は何百年とかじゃないと思う。
 でも、 この場には、巨大な岩とか、巨木とかから
 感じられるものに近い印象がある。
 
 何かおそろしく古いものが、
 この下には埋めてあるのかもしれない。
 
 すっごく興味あるけど、今はダメだ。
 日を改めてまた来ることにしよう。
 先方もお待ちかねだろうし・・・」
 
 
 
 
   
 
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「そのままの状態で行くのか? 
 イワイシさんじゃなくていいのか?」
ケムリが訊ねると、イワイシはきょとんとした顔をした。
 
 
 
「え?
 ああ・・・そういうことか。
 
 そうだな・・・本当はイワイシさんの方がいいんだけど。
 
 でも、あんたとハシバが一緒だから、
 ラクな方にしておこうって思ったんだ。
 いろいろわかっちゃう人が相手だからな。
 これでホントにいいのかどうか、自信ないけど」
  
 
 
対向車とすれ違うことが一度もないまま、
まっすぐな道を進んでいくと、
木が固まってはえている場所がいくつかあった。
 
 
 
「あれかな?」
これまで見たよりも、ずっと高い木ばかりが
固まって生えているのが見えた。 
 
 
 
「左折したら4本目の木の下に停めろって言われたけど
 暁子サンは頻繁に行ってるのかなぁ」
 
 
 
 
 
一本道から左折すると、
<4本目の木の下>と言われた理由は
すぐにわかった。
 
 
4本目の木だけ植え替えられたばかりなのか、
まだ細くて、他の木のように枝が張り出していなかった。
 
 
 
イワイシは木に寄せるようにしてクルマを停めた。
「ここに停めるのはいいんだけど、
 玄関まで、かなり距離がありそうだな。
 ・・・おい、あんたは上着を置いて行けよ」
ケムリに向かって言うと、
イワイシはシャツの襟元から鎖を引っ張り、
<魔法使いのおばちゃんの指輪>を確認して 、
元に戻した。
そして、クルマから降りた。 
  
 
 
 
* * * * * * 
 
 
 
 
砂利道をずっと歩いて行くと、大きな屋根が見えてきた。
「お屋敷って感じだなー
 クルマから見えた家は、木に囲まれてたから
 全体はよく見えなかったけど、
 屋根はみんな大きくてすごそうだった」
透が言うと、イワイシが頷いた。
 
 
 
「金持ちのお屋敷って感じの屋根だったな。
 セキュリティはバッチリなんだろうけど。
 このへんって、暁子サンの一族が住んでるらしい」
 
 
 
「お金を引き寄せる遺伝子って、
 ホントにありそうだな」
ケムリが笑った。
 
 
 
砂利道を進んでいくと、
よく手入れされた、背の高い生垣が見えてきた。
「あれが門か・・・住めそうだな」
 
 
 
華子サンの家の門よりは若干小さいようだったが、
それでも、腕のいい職人が時間をかけて作ったのでは?と
思わせる雰囲気があった。
 
 
 
「呼び鈴とかは、ないんだ」
 
 
 
透がつぶやいたとたん、木製の門の大きな扉がすーっと
奥に開いた。
 
 
 
「こんにちは、よく来てくれましたね。
 さあどうぞお入りください」
 
 
 
大柄な和装の女性が立っていた。
眼の感じが暁子サンにそっくりだった。
 
 
 
きりっとした表情で、背筋がピンと伸びていて、
<暁子サンのおばさん>には到底見えなかった。
 
 
 
「こんにちは、イワイシです」
イワイシは丁寧にお辞儀をした。
  
 
 
「川瀬です」
ケムリがすぐに挨拶した。
 
 
 
「あの・・羽柴です」
透はあわててそれに続いた。
 
 
 
大柄な女性は、暁子サンそっくりな眼を細めて
三人を眺めた。
「光崎と申します。
 ・・・あなたがたの話は、暁子から聞いていますよ」
そしてクスッと笑った。
 
笑顔もまた暁子サンによく似ていて、
真面目な顔をしている時とは、まったく違う印象になり、
一気にお茶目な雰囲気に変わった。
 
 
 
「あら、ごめんなさいねー
 笑ったのはね、
 三人とも素晴らしい目の保養になるって
 あの子が、言ってたからなのよ。
 本当にその通りだなあって思ったから」
  
 
暁子サンでさえ、このひとにとっては
「あの子」になるのか・・・と透は感心した。
 
 
 
「では、こちらへ・・・
 ゆっくりしていってくださいね」
そして家の方に向って歩き出した。
三人はそのあとに続いた。
 
 
 
 
 
 
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高い庭木に隠れて見えなかったが、
家は和洋折衷様式のようだった。
玄関は完全に<洋館>という雰囲気でも、
奥の方に見える屋根は古い日本家屋のような
立派な瓦葺だった。 
 
  
玄関の大きなドアの上にはステンドグラス。
三人揃って見上げていると 
光崎と名乗った女性は、またくすくす笑って
ドアを開けた。
 
 
 
「さあどうぞ」
 
 
 
やたらと広い玄関だった。
平たい大きな石がタイルのように敷き詰めてあった。
正面の白い壁の前には、小さなテーブルが置かれ、
花が飾られていた。
 
 
 
石のタイルから一段高くなったところから、
ピカピカに磨かれた廊下が続いていた。
 
 
 
光崎さんは先に上がると、音もなく家の奥へと進んでいく。
三人はあわてて靴を脱いで揃えると、彼女のあとに続いた。
 
 
 
廊下の右手は壁と襖が続いていたが、
左側の襖は開け放ってあり、
その奥に続く広い座敷、その向こうの縁側、
縁側の先に広がっている日本庭園が見えた。
 
 
  
廊下はまだ続いていたが、
光崎さんは途中で足を止めて、襖を開けた。
 
 
 
「どうぞ、お入りください」
 
 
 
広い畳の部屋には、三人分の食事の準備ができていた。
 
 
 
(旅館の夕食みたいだ・・・)
透の感想を読み取ったかのように
「旅館のごはんみたいでしょ」
と言って、光崎さんは笑った。
 
 
 
「私の親戚がね、長年旅館をやってたのよ。
 私は料理を手伝ってたの。
 
 腕のいい料理人がいたんだけど、
 その人が急に病気になっちゃってね。
 数か月の代役の予定が、病気が回復しなくて
 結局、ずっとになっちゃって・ ・・
 
 旅館はそれなりに賑わってたんだけど、
 高速道路が開通して
 都心から日帰り圏内になってからは、
 イマイチだったわね。
 
 親戚が年を取って
 体力がなくなってしまったっていうのも、大きいけど。
 いろいろあって、3年くらい前に旅館は閉めたわ。
 
 あら、しゃべりすぎたわね。
 お座りくださいな」
 
 
 
どこに座ったらいいんだ?と透が迷っている間に、
イワイシとケムリはさっさと座ってしまったので、
透はあわてて空いている席に着いた。
 
 
 
「食器はね、旅館で使っていたのをもらったの。
 伯父が食器にこだわっていたからね、
 けっこういい器なのよ」
そう言って、小さな鍋の下にセットされた
卓上固形燃料に火をつけた。
「このお鍋のお料理はもうちょっと待っていただくけど、
 他のお料理から召し上がってね」
光崎さんは部屋を出て行った。 
 
 
 
「・・・落ち着かないな」
ケムリがつぶやいた。
 
 
 
イワイシはきれいに並べられた料理を
興味津津といった表情で見ていたが、 
「そーだなぁ。
 スキャンされてるような気がしてならない。
 確認しないようにしてるけど・・・
 彼女がやってるわけじゃないだろうから」
と、声を落して応じた。 
  
 
 
「彼女がやってるわけじゃない?
 
 ああ・・そうか。
 彼女にメッセージを送っているっていう存在が
 チェックしているってことか」
透の脳裏に金色の光が浮かんだ。
 
 
あれ?? コレ、どこかで見たような気がする・・・
  
 


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「とりあえず、食べよーぜ」
イワイシはそう言って手を合わせると、
いただきますと小声で言って料理に箸をつけた。
 
 
 
「こんなすごいご馳走を食べて、
 食べ終わったら、サヨナラでいいのか?」
ケムリは箸を取り上げたものの、迷っているようだった。
 
 
 
「暁子サンは、
 腕をふるう機会をプレゼントしたことになるから、
 気にすることはないって言ってた。
 光崎さんにとっては、すごく嬉しいことなんだってさ。
 ・・・見た目もきれいだけど、すごくいい味だなぁ」
イワイシは、どんどん料理を口に運んでいた。
 
 
 
「・・・それは本当っぽい気がするな。
 でも、それだけじゃなくて、
 暁子サンの話を聞い て、俺たちがどういう人間なのか、
 見たくなったっていうのもあるかもしれないなぁ。
 そういう風になるように
 暁子サンがうまく話を持って行ったんだろうけど」
透も料理に箸をつけた。
 
 
 
「確かに・・・
 暁子サンと光崎さんが、
 普段、どういう話をしているのかわかんないけど、
 暁子サンが超人的な感覚を持ってることを知っているなら、
 興味を持つかもしれないな」
  
 
 
「あまり詮索するなよ。
 ボロが出るぞ・・・
 うまいんだから、早く食え」
なかなか箸をつけないケムリをイワイシが急かした。
 
 
 
三人が黙々と食べていると、襖がスーッと開いた。
「お茶をお持ちしましたよ」
光崎さんがお盆に急須と湯呑を載せて入ってきた。
 
 
 
「私のこと、あの子は何て紹介したのかしら?」
 
 
 
「おばに当たる人で、料理の師匠という説明でした」
イワイシが答えると、光崎さんは、ふわっと笑った。
 
 
 
「それだけ?」
 
 
 
「ええと、その・・・
 何か不思議な声を聞くことがあると」
 
 
 
「そういうのって電波系って言うんですって?」
光崎さんはケラケラ笑った。
 
 
 
「いえ、その・・・そういうのとは違うんじゃ・・・」
素なのか、それとも敢えてやっているのか、
イワイシにしては珍しくしどろもどろになっていた。
 
 
 
「でも、あなた方もお仲間よね」
光崎さんはきっぱりと言った。
そして、反応を窺うように三人を見つめた。
強い光を放つ瞳は本当に暁子サンそっくりだった。
 
 
 
「おばあちゃんと仲間なんて言われたら、
 気を悪くするかもしれないけど、
 <私が>そう思ってるわけじゃないからね。
 ・・・どういう意味か、わかってるでしょ?
 
 三人ともすごいのねぇ。
 あの子の話以上だわ」
 
 
 
「すごいって、なにが、ですか?」
ケムリが川瀬クンの口調で尋ねた。
 
 
 
「いろいろと。
 ・・・それにしても・・・・
 よっぽどすごいってことなのねぇ」
光崎さんは感心しているようだった。 
「食事が終わったら、少しお話しさせてくださいな。
 そんなに時間はかからないから」
 
 

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