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お話し小箱。「好きに動かしてみよー」22 




  



長い沈黙の後、イワイシはふうっと大きなため息をついた。
気持ちを切り替えようとしているようだった。
そして、テーブルの上の巾着袋をつかんで、
ポケットに突っ込んだ。
「今回の話・・・
 受けないってハッキリ言ったんだけど、
 暁子サンから、三人でオーナーの家を見てきてくれって
 頼まれた」
 
 
 
「何で? 暁子サンが見てくればいいのに」
 
 
 
「俺もそう思うんだけど・・・」
イワイシは憂鬱そうに言った。
 
 
 
暁子サンは、イワイシを他人と関わらせたいんだろうなと、
透は直感的に感じた。
でも、なんだかんだ言って、
石絡みのことで毎週のように会っているのを、
彼女は知らないんだろうか?
 
 
 
「見てくるって、ただ見てくればいいのか?」
 
 
 
「さあ・・・見ればわかることがあるんだろうよ」
イワイシはうんざりした表情だった。
家を見てくるようにと頼まれたときに、
他にもいろいろ言われたのかもしれないと透は思った。
 
 
 
「三人でってことは、川瀬クンもご指名ってことか」 
 
 
 
イワイシは黙って頷いた。
「・・・何か厄介なことがあるのかもしれない。
 感覚だけで、根拠はないけど」
 
 
 
「厄介なこと?
 あの呪いの石みたいなこと?」
 
 
 
「・・・呪いの石?
 ハシバは面白いこと言うなぁ。
 あれは、確かに呪いの石かもしれないけど」
イワイシは笑った。
「そういう 具体的なモノじゃなくてさ、
 場とか、空間とか、
 大きくて漠然としたもののような気がする」
 
 
 
「またお祓いみたいなことが必要になるとか?」
 
 
 
「オハライ!!」
イワイシは爆笑した。
 
 
 
「何がおかしいんだよ。
 場所とか空間だったら、地鎮祭とかやるじゃないか」
 
 
 
「あれはさ、土地の神様を鎮めて、
 その場所を使う許可をもらうようためだよ。
 あと、無事に工事が終わりますようにとか」
 
 
 
「・・・なんでそんなに詳しいんだよ」
 
 
 
「別に詳しくないよ。
 ネットとかで調べりゃ、わかることだろ?
 そういうんじゃなくてさ、何かこう・・・
 どう言ったらいいのかな・・・
 三人いることが必要になるような・・・
 
 確かに、そういう意味では、ハシバが言った
 <呪いの石>みたいなことに近いかもしれないな」
 
 
 
イワイシの言葉に透は不安になった。
表情に出たらしく、イワイシはすぐに言葉をつないだ。
 
 
 
「ハシバが本気で身を守らなきゃならないような事態は
 起こらない。
 それは大丈夫。
 でも、これまでに渡したお守りグッズは必ず
 持ってきてほしいけど。
 日曜日の9時にS駅のロータリーに来られる?」
 
 
 
透が頷くと、
「じゃあ、ケムリのバカにも知らせておこう」
と言って、イワイシはメールを打ち始めた。
 
 
 
 
 
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「で、オーナーの家ってどこにあるんだ?」
後部座席に座っているケムリの声は、ひどく眠そうだった。
 
 

日曜日午前9時。
前日からの冷たい雨は止まなかった。
 
 
 
「XX市のはずれ。
 クルマで3時間弱ってとこかな」
イワイシはロータリーから出るべく、
右方向からくる車の流れを見ながら言った。
 
 
 
「家を見てこいって、どういう趣旨なんだ?
 ただ見てくればいいのか?」
 
 
 
「ハシバも同じような質問をしてたよ」
 
 
 
「そりゃ、誰だって疑問に思うだろうよ。
 ・・・そんなの、暁子サンが見てくりゃいいの に。
 自分の目で確かめるほうが確実だろ?」
ケムリも透と同じことを考えたようだった。
 
 
 
「いろいろご指導したいことがあるんだろうよ」
 
 
 
「ご指導? 俺たちに?」
 
 
 
「いや、彼女がご指導したいのは、イワイシさん。
 一人でコソコソやってんじゃねーよってとこだろ」
イワイシの口調はふざけているようではあったものの、
本気で嫌がっているようでもあった。
 
 
 
しばらく沈黙が続いた。
 
 
 
透にとっては、この沈黙がとても居心地が悪かった。
「家を見て・・・それでどうするんだ?」
 
 
 
「見てみないと何とも言えないな。
 わざわざ3人で行かせる理由が あるんだろうよ。
 
 途中に面白そうな道の駅があるから、
 そこに寄ってから行く」
 
 
 
「家を見ることよりも、そっちが目的みたいだな」
ケムリがからかった。
 
 
 
「まあな。
 でも、道の駅へ行けって言うのも、
 暁子サンのご指示なんだ」
 
 
 
「え? そこにも何かあるのか?」
透は<お祓い>のイメージを感じて心配になった。 
 
 
 
「そこで売ってる味噌と醤油を買ってきてって
 頼まれたけど、それだけじゃないだろ、たぶん。
 
 ・・・たぶんっていうより、道の駅にも何かありそうだ」
 
 
 
「何かって?」
 
 
 
「何だろうねぇ。
 こっちは、厭な感じはあんまりしないんだけど。
 もっとも、オーナーの家だって、
 危険って感じはしないけどな。
 ・・・めんどくさいかもしれないけど」
 
 
 
「お前の言う<めんどくさい>って、
 たまに危ないこともあるからなぁ・・・」
 
 
 
「危ない? そんなことないだろ?
 多少のことなら、あんたは自力でプロテクトできるんだし。
 
 ハシバだって、大抵のことはなんとかできる。
 ・・・本人は全然そう思ってないけどな」
 

 
 
 
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「なんとなくなんだけど、
 別行動にしたほうがいいような気がする。
 30分後に、またクルマに戻るってことでいいかな?」
道の駅の駐車場にクルマを停め、エンジンを切ってから
イワイシが言った。
 
 
 
「うーん・・・結構広そうだけど、
 30分もいらねーなぁ。
 時間、持て余しそうだ」
 
 
 
「カフェみたいなところがあるから、
 隅っこで寝てろ。
 時間通りに来なかったらおいてくからな。
 
 それと・・・コレ、渡しておく。
 今朝、こういうのを用意しておいたほうが
 いいような気がしたから」
イワイシは透とケムリに黒っぽい小さな玉を連ねた
ブレスレットを渡した。
 
 
 
「こういうのつけてる人、よく見かけるけど、
 男の場合は、もっと大きい石をつけてると思う」
透は左手首にブレスレットをつけてみた。
その瞬間、身体がふわっと持ち上がるような感覚があった。
「うわっ・・・何? なんか変な感じがする」
 
 
 
「ケムリはともかく、ハシバは・・・
 自覚があるかどうか知らないけど、
 わかるひとにはわかるんだよ。
 他とは違うってね。
 だからそれをごまかすっていうか、そういうゴリヤクが
 そのブレスレットにはあるっていうか・・・
 あるはずなんだけど」
 
 
 
「あるはずって、自信なさそうだな」
ケムリはブレスレットに目を近づけて
石をじっと見つめた。 
 
 
 
「作ったばっかりで、まだ試してないんでね。
 二人が人混みに入って行って、
 目立たなければ成功ってことになる」 
 
 
 
「実験台かよ」
 
 
 
「そういうことだ。
 けど、失敗したからって、どうってことないだろ?」
 
 
 
「ホントにどうってことないのか? 
 これが必要だって思ったのなら、
 何かあるんじゃないのか?」
 
 
 
「相変わらずハシバは心配症だな。
 別行動って言っても、俺は二人がどのへんにいるか
 だいたいは把握しておくつもりだし、
 仮に何かあったとしても、どうにかするから。
 
 ケムリのバカが好き勝手に徘徊しない限りは
 問題ないはずだけどな」
 
 
 
「徘徊って・・・ひでーな」
 
 
   
三人はクルマの外に出て傘を広げた。 
雨は出発したときよりも、強くなっているようだった。
「クルマの位置を覚えておいてくれよ。
 あの時計台が目印になりそうだな」
 
 
 
 
 
 
建物に向かって歩き出すと、透の左手が急に重くなった。
「??」
 
 
 
「やっぱりヘンだと思った?」
後ろからケムリが声を掛けてきた。
「いきなり重くなっただろ?」
 
 
 
「それ、何かに反応してるんだよ」
イワイシが言った。
帽子とメガネで顔を隠しているせいもあるが、
<魔法使いのおばちゃんの指輪>をつけているのか、
さっきとは全然違う、目立たない雰囲気になっていた。
 
 
 
「何かって?」
 
 
 
「さあ・・・何だろうね 。
 今朝、用意しておいたほうがよさそうだと思った原因が
 あの建物の中にあるんだろうなぁ、たぶん」
 
 
 
 
 
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「ここからは別行動。
 じゃ、30分後に」
イワイシはそう言うと、さっさと物販のコーナーへ
行ってしまった。
 
 
 
「さて・・・我々はどうする?」
ケムリが訊いてきた。
 
 
  
「あんまりウロウロしたくないです。
 コレが重いってことは何かあるってことみたいだし」
透はブレスレットに触ってみた。
指先がビリビリした。
何か目に見えないエネルギーのようなものを
発しているような気がした。
 
 
 
「イワイシから受け取った時より、
 ずっと重くなっている気がする。
 もっとも、そういう感じがするだけで、
 重さを測ったら、大して変化してないのかもしれないけど。
 
 カフェみたいなところがあるって言ってたな。
 そっちへ行こうか」
 
 
 
 
 
* * * * * * * *
 
 
 
 
 
「全然期待してなかったけど、
 ここのコーヒー、結構おいしいな」
窓際のテーブルに座って外を眺めながら
コーヒーを口にしたケムリが満足そうに言った。
 
 
 
「そうですね。
 コーヒーの味はよくわかんないけど、
 これは飲みやすい気がします」
 
 
 
「この石が光ってるの、わかる?」
ケムリが左手首を持ち上げて、ブレスレットを見せた。
 
 
 
「光ってる?」
透の目には、ツルツルした石の表面に
蛍光灯の光が映りこんでいるようにしか見えなかった。
 
 
 
「普通に見るんじゃなくてさ、
 焦点をぼかす感じで見る・・・
 石そのものを見るんじゃなくて、
 周りの空気を見る、みたいな」
 
 
 
「周りの空気って・・・難しいな・・・」
瞬きをして、目の力を抜こうとした時、
周囲の空気が冷たくなったような感じがした。
 
 
 
ケムリのブレスレッドを金色の淡い光が縁取っていた。
 
 
 
「・・・金色っぽい光のこと?」
 
 
 
「そう。
 この光、やわらかい感じがするけど・・・
 結構パワーがあるのかもしれない」
 
 
 
「ふーん・・・そういうことまでは
 わかんないです」
  
 
 
光はゆらゆら揺れていたが
急に眩しくなり、大きく膨らんだ。
そしてまた、スッと小さくなった。 
 
 
 
「え? 今の何?」
 
 
 
「・・・この近くを<わかる奴>が通ったんだろ、たぶん」
ケムリが声を落して囁いた。
 
 
 
カフェは、道路情報のモニターが並んでいるコーナーと
お土産コーナーの間にあり、
真ん中の通路をはさんで、テーブルが置かれていた。
通路を行き来する人は結構多かった。
 
 
 
「イワイシが言ってた、他との違いがわかる人が、
 今、通ったってことですか?」
 
 
 
「たぶんね。
 このブレスレットのゴリヤクで
 気がつかなかっただろうけど。
 もっとも仮に気づいたとしても、
 何もできないよ。
 
 全然知らない人間に向って、
 ほかの人と違いますね、なんて言えるわけないだろ?」
 
 
透は頷いたものの、喉のあたりに
もやもやしたものが絡みついたような
嫌な感覚があった。
 
 
  
「ん? どうかした? 何かヘンな感じがする?」
ケムリは透の表情から、不快感を持っていることに
気づいたようだった。
 
 
 
 

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「喉が・・」
言いかけたものの、声がかすれてうまく話せなかった。
 
 
 
「水、飲んだほうがいい。
 ちょっと強い反応が出ただけだ」
 
 
ケムリに促されて、コーヒーと一緒に持ってきた
ガラスのコップの水を一気に飲み干すと、
もやもやしたものがすっと消えていった。
 
 
 
「ふう・・・あ、元に戻ったみたいです」
 
 
 
「このブレスレットが何をやってるのか
 イマイチわからないけど、
 ハシバくんに対しては強く働いたみたいだな。
 <違ってる部分>を隠そうとしたんだろ」
 
 
 
「・・・なんで俺だけ?」
 
 
 
「さあ・・・なんでだろうね。
 イワイシは、わかるのかなあ?
 答えてくれないかもしれないけど、
 後で聞くだけ聞いてみよう」
 
 
 
ケムリのコーヒーカップがカラになっていることに気づき、
透は急いで残っていたコーヒーを飲みほした。
 
 
 
「イワイシはどこにいるのかな?」
 
 
 
「味噌醤油でも買ってるんだろ・・・
 アイツのことだから、自分用にもいろいろ買ってるんじゃないかな。
 物販の方へ行ってみよう」
 
 
 
「・・・歩き回っても大丈夫なんですかね?」
 
 
 
「また、わかる奴とかに会ったら
 反応が出るかもしれないけど・・・
 心配だったら、あそこの自販機で
 ペットボトルの水を買っておいたら?」
 
 
 
「そうします」
 
 
 
コーヒーカップを食器返却口に戻し、
自販機で水を買うと、二人はイワイシがいると思われる
物販コーナーへ向かった。
 
 
 
「あ、あそこにいた」
透がイワイシを見つけて歩き出そうとしたとき、
ケムリが透の肩を引いて押しとどめた。
 
 
 
透が驚いて振り返ると、ケムリがささやいた。
「イワイシのまわりに・・・見えるか?」
 
 
 
透がもう一度イワイシの方を見ると、
彼の身体のまわりを、包帯のような、
長くて白っぽいものが漂っていた。
 
 
 
「あれは・・?」
 
 
 
「攻撃的なエネルギーは感じないけど・・・
 ・・・何が起きてるんだ?
 イワイシ自身も、よくわかってなくて、
 野菜を見ているフリして、探っているのかもしれない」
 
 
 
「・・・どうすれば・・・」
 
 
 
「今はここで様子を見てる方がよさそうだ。
 パンフレットでも眺めていよう」
 
 
 
 
 
 
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ラックに並べられた数種類のパンフレットの中から
目についたものを選んで手に取ると、
透はイワイシの方を窺った。
 
 
 
イワイシは、野菜売り場のおじいさんと話していた。
包帯のようなものは、丸まったり伸びたり、
生き物のように動いていた。
 
 
 
何を話しているのかわからないものの、
おじいさんが窓の外を指さす様子や、
身振りとか表情から、
道順とか場所を教えているように見えた。
 
 
 
イワイシは軽く会釈すると、
こちらに向かってきた。
そして、ケムリと透に気づくと、 
「あれ? もうコーヒー飲み終わったのか?」
と、言った。 
 
 
 
「ああ・・・
 今、何話してたんだ?」
ケムリが訊いた。
 
 
 
「なんだかヘンな気配みたいなのがあったから、
 ここらへんに、昔、何があったのか聞いたんだ。
 ・・・外、出るぞ」
イワイシは味噌や醤油が入っていると思われる、
重そうな白いレジ袋をカサカサさせながら外へ出た。
 
 
 
雨はだいぶ弱くなっていて、
傘をささなくても、なんとかなりそうだった。
 
 
 
「おい、クルマはあっちだぞ。
 どこ行くんだ?」
 
 
 
「せっかく場所を聞いたからちょっと見学」
 
 
 
「見学って、何を?」
 
 
 
「キョウカイ」
 
 
 
「この辺にわざわざ見に行くような教会があるのか?
 それらしい建物はなさそうだけど・・・」
道の駅の周辺には、
田圃や畑、原っぱのようなものが広がっているだけだった。
  
 
 
「建物じゃない。
 境界線とかの境界・・サカイってこと」
イワイシはなんだか楽しそうだった。 
 
 
 
「境? 何の境があるんだ?」
 
 
 
「行ってみないとわからないなー
 でも、境なんてどこにでもあるじゃないか。
 橋だって境だし、クルマで道路を走っていれば、
 市町村の境があるし、県境もある」
 
 
 
「確かにそうだけど、そんなのイチイチ意識しないだろ、普通。
 境とヘンな気配って何の関係があるんだ?」
 
 
 
「境には昔からいろいろあるんだよ。
 道祖神って知ってるだろ?
 村の境界とかに祀ってあって、
 ヘンなものが入ってこないようにするんだ。
 恐ろしいもの・・悪霊とか厄病神とか、お化けとか」
 
 
 
「このへんにドウソジンとかいうのがあったってことか?」
 
 
 
「本当にあったかどうかわからないけど、
 大昔・・・どのくらい前だか知らないけど、
 このあたりに村境があったらしい。
 
 ヒトの動きとか、ヒトに関係するモノゴト・・・
 どこに何があるかとか、
 重要人物がどこに住んでいるかとか、
 どの道をよく使うかとかによって
 町とか村の中心って決まるだろ?
 中心が決まると、ハズレっていうか、周縁部が決まる。
 
 この辺りの今の印象は、賑やかな中心部って感じでもないけど、
 さびれた郊外って感じでもない。
 でも、昔はどうだったかは、調べてみないとわからない。
 
 ここまで津波が来たとか、
 ここに家を建てちゃいけないって
 彫ってある石碑が、山の中とか、
 荒地から見つかることがあるらしいけど、
 そういう場所って、
 昔はそれなりに人通りがあったってことなんだろうな。
 そうじゃなきゃ、わざわざ石碑なんか作らないし」
 

 


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