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お話し小箱。「好きに動かしてみよー」21 

 







イワイシはポケットから携帯を出した。
「暁子サンと話すよ」
いくつかボタンを押して、携帯を耳に当てると、
透とケムリから少し離れた。
 
 
 
「暁子サンですか? 今よろしいですか?
 ・・・さっきメールをいただいたお話ですけど・・・
 
 私からはアクセスしません。
 でも、先生は、透さんに接触するでしょう。
 透さんが困ることがないようにしておきます。
 ええ・・ちょっとした情報があるので。
 ・・・たぶん大丈夫だと思います。
 そうですね・・・基本的には受けないつもりです。 
 でも、透さんに断らせるわけにはいかないので、
 暁子サン経由での回答ということにしておきます。
 
 ・・・はい・・・では、そういうことで」
 
 
 
「面白いくらい声が変わるんだな」
イワイシが通話を終えたところで、
ケムリが言った。
 
 
 
「そうか? 自分じゃ、そう思ってないんだけどな」
イワイシは携帯をポケットに突っ込むと伸びをした。 
 
 
 
「ちょっとした情報って?」
透が質問した。
 
 
 
「ああ、コピーの石のことだよ。
 ハシバに貸すからさ、俺が持ってるって知らせた上で
 先生に見せてくれないかな?
 
 “今回のお話の石は、こういう感じの石ですよね?”
 みたいなことを言って、後は黙っててほしい。
 
 さっきも話が出たけど、先生自身、
 ばあちゃんが持ってる石とは
 違うってわかってるはずなんだ。
 だから、出方をみたい。
 もっとも、無言になっちゃうかもしれないけどね。
 
 いつものお守りがあるし、さっきのコインもあるし、
 いずれにしても、ハシバはしっかり守られてるから、大丈夫。
 困った事態にはならないはず」
 
 
 
「うーん・・・
 自信たっぷりに言われると、大丈夫だって思えるけど、
 先生が相手だからなぁ」
 
 
 
「先生はハシバに一目置いてるんだ。
 自分の思い通りに話を進められるなんて思ってない」
 
 
 
「そうかなぁ・・・
 今回の話を受けるかどうかは、
 俺からは答えられないけど、
 先生も期待してないよね?」
  
 
 
「暁子サン経由で回答するって言っておけばいいよ。
 ハシバをつっついても意味がないことは、
 先生もわかってるはずだから」
イワイシは駐車場を出ていくクルマのテールランプを
眺めていた。
 
 
 
「それから・・・何度も言ってるけど、今回の話は受けない。
 部屋を作っても意味がないから。
 環境がどうであれ、あの石は長くは持たない。
 そのために多額のお金を払ってもらうのは嫌だし、
 自分を消耗させるのも嫌なんだ」
  
 
 
 
 
 
 

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夕方のラッシュが始まる少し前。
電車から降りた透は、自動改札に向かってゆっくり歩いていた。


 
自動改札を出たところに先生が立っていた。
予想していたことなので、透は驚かなかった。
 
 
 
近づいていって挨拶すると、
「時間ある? ちょっといい?」
先生は、いつもの調子で訊いてきた。



「はい」
透が答えると、先生は無言で頷いた。
これまで通り、先生が先を歩き、透が後に続いた。
 
 
 
先生の首と肩のあたりには、
薄墨色のもやが漂っているように見えた。
 
 
 
ファーストフード店に入ると、先生は透を振り返って 
「座って待ってて」
と言った。
透は、奥のテーブルのプラスチックのイスに腰を下ろした。
 
 
 
すぐに先生は二つの紙コップをトレーに乗せて運んできた。
 
 
 
「僕に会うことになるって知ってたみたいだね」
コーラの紙コップが透の前に置かれた。 
 
 
 
「・・・あ、ありがとうございます。
 そのー・・・なんとなく、そんな気がした程度です」
 
 
 
「そう?
 やっぱりなって顔してたよ。
 ・・・実際、いろいろわかってるんだろ?」
 
 
 
「いろいろって・・・どういうことですか?」
そう言い終わった途端、何かよくわからないものが、
身体の中を通り抜けて行ったような気がした。
不快な感じはなく、<何か>が通り抜けた後に、
しっかりしたものが残っているような感覚があった。
 
 
 
透の顔を見ていた先生の眉がかすかに動いた。
 
 
 
「・・・いや、いいんだ。
  それより、この間の話・・・
 暁子サンからイワイシさんに伝わってるんだろ?」
 
 
 
「ええ。
 ・・・今回のお話の石は、こういう感じの石ですよね?
 これ、イワイシさんから借りてきました」
透は、自分でも違和感を覚えるほど冷静に言うと、
制服のポケットの中からコピーの石を取り出して、
先生の前に置いた。
 
 
 
昨日、イワイシは、小さな巾着袋に石を入れてから透に渡した。
透はそれをカバンの内側にある
ファスナー付のポケットに入れていた。
いつ制服のポケットに移したのか、
巾着袋はどうしたのか、全く記憶がなかった。
  
 
 
先生は再び眉を動かすと無言で石を見つめた。
そして紙コップに手を伸ばし、コーヒーを飲んだ。
 
 
 
透も黙ってコーラを飲んだ。
 
 
 
「イワイシさんも、コレを持ってたのか・・・」
先生は、紙コップを両手で包むようにして持って
目を閉じた。
  
 
 
「そうか・・・やっぱり持っていたのか」
 
 
 
 
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「やっぱりって・・・予想してたんですか?」
 
 
 
「彼、必要なものは大抵手に入れているみたいだからね。
 どうしてわかるのか、ホントに不思議だよ。
 もっとも、こちらから説明する手間は省けるんだけど。
 
 石の図書館にあるのとはちょっと違うタイプだから
 引き受けるのを嫌がっているのかな?」
 
 
 
「さあ・・どうなんでしょう?」
 
 
 
「ま、この話は暁子サンを経由することになっているからね。
 彼女を通じて、問い合わせてみるよ。
 受けて欲しいんだけどね。
 部屋を作ることに関しては、
 どうしても訊きたいことがあるし」
 
 
 
先生は、テーブルの上の石には触ろうとしなかったが、
コーヒーの紙コップを持ったまま、じっと見つめていた。
 
 
 
「透くんは、石の違いがわかってるんだろ?
 僕は、それほどハッキリはわかってないんだけど。
 ・・・こっちの石は、なんとなく優しい感じがする」
 
 
 
「そうなんですか?
 先生ほどには・・・わかってないと思います」
 
 
 
「で、どう思う?」
 
 
 
「え?」
 
 
 
「ここにある石と、石の図書館にある石と
 どっちが好き?」
 
 
 
「・・・好きとか嫌いとかって対象じゃないです。
 僕にとっては、勝手に変化する、
 わけわかんないものですから」
 
 
 
透の答えを聞いて、先生は豪快に笑った。
先生の首と肩のあたり漂っていた薄墨色のもやが
見えにくくなり、いつもと変わらない雰囲気に見えた。 
 
 

「Naturalって言葉、知ってるだろ?
 あれって、“自然な”って意味がメジャーだけど、
 “天性の”とか“うまれつき”とかって意味もあるんだよね。
 神様からプレゼントされた才能があるみたいな・・・
 英語、得意みたいだから、知ってたかもしれないけど。
 石に関しては、透くんはNaturalだと思うんだけどな」
先生の目はとても優しそうだった。 
 
 
 
「イワイシさんに言われたことをやってるだけです。
 なんだか知らないけど、期待された通りの結果になる。
 自分が持ってる力だとは思えません」
石との関わりから感じていることを透は素直に話した。
 
 
 
『いつできなくなってもおかしくないんだ』
不意にイワイシの言葉を思い出した。
(本当にその通りだよな・・・)
 
 
 
「石のこと、あまり好きじゃないみたいだね」
 
 
 
「うーん・・・そうですねぇ・・・
 先生は好きなんですか?」
 
 
 
「うん、好きだね。
 すごく面白いと思う。
 だから仕事としても扱ってるんだ。

 もっとも、暁子サンに比べたらキャリアはずっと短いから、
 知らないことの方がはるかに多い。
 いろいろ知りたいんだけど、
 一般には、ほとんど情報がないからね」
 
 
 
「石の博物館には、石がたくさんあるじゃないですか」
 
 
 
透の言葉に先生は複雑な表情を浮かべた。
それからコーヒーを一口飲み、ため息をついた。
 
 
 
「あれって、僕のものじゃないから、
 簡単には触らせてもらえないんだよ。
 石の博物館の石は、ある意味“遺品”だからね・・・

 個人的にはいくつか持っているけど、
 たくさんのことを知るには、
 たくさんの石を調べる必要があるんだ」
消えかかっていた薄墨色のもやが再び濃くなった。
先生の目の光はなんだか不気味だった。
一瞬、ガラス玉のような無機質なものに見えた。
不意に悪寒が走り、透は膝の上の手を固く握りしめた。
 
 
 
 
 
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先生と別れて、家の近くまで来たとき、
ポケットの携帯が鳴った。
イワイシからだった。
 
 
 
「今、時間ある?
 帰らないとまずい?」
 
 
 
「1時間くらいなら大丈夫」
 
 
 
「Kスーパーの南側の入口の近くに
 イートインのスペースがあるだろ?
 そこに来てくれ」
 
 
 
「わかった。すぐ行く」
透は自宅の前を通り過ぎ、その先の信号を渡った。
次のブロックの真ん中あたりにKスーパーがある。
イワイシは透がどこにいるのか、
大体把握しているのだろう。
 
 
 
Kスーパーのイートインは、かなり広いスペースで、
週末は大半のテーブルが家族連れで埋まるものの、
平日の夕方は 、部活帰りのジャージの中学生や、
スーパーで買った弁当を食べながら
新聞を読んでいるおじいさん、
スマートフォンをいじりながら、
コーヒーを飲むサラリーマン、
ぐっすり眠っている赤ちゃんを背中におぶったまま、
おしゃべりしている若いお母さん方など、
いろいろな人がいる場所だった。
 
 
 
駐車場の中の歩行者通路を通っている時、
もう一度イワイシから電話がかかってきた。
 
 
 
「入口を背にして、右側の一番奥のテーブルにいる。
 人が多いけど、いつもこんなにいるのか?」
 
 
 
「うん、ガラガラってことはほとんどない。
 ・・・もうすぐ着くから」
 
 
 
 
 
 
* * * * * * * * * 
 
 
 
 
 
「へえ・・・そんなにあっさり引いたんだ。
 予想はしてたけど、それほどあっけなかったとはね」
イワイシは透の話を聞いて、ちょっと驚いたようだった。
帽子を目深にかぶり、黒縁の眼鏡をかけて
頬杖をついて透の話を聞いている様子は、
完全に周囲の人たちに溶け込んでいて、
ごくごく平凡な若者に見える。
 
 
 
「ほかに、何か気になったことは?」
 
 
 
「灰色っぽい・・すっごく薄い黒っていうのかな、
 もやみたいなのが・・・憑依だっけ・・・
 先生の首と肩のまわりに見えたんだけど、
 あれって見えにくくなるくらい消えかかったり、
 ハッキリ見えたりするんだね。
 
 いつも通りの先生だなって感じる時は、
 すごく薄くなる」
 
 
 
「ふーん・・・
 自分でコントロールしているのか、
 なりゆきに任せているのか、
 どっちなんだろうなぁ?
 お互いに益するところがあって
 うまく共存してるんだろうけど。
 
 石のこと、何か言ってた?
 俺が関わるかどうかとかじゃなくて、
 先生自身の石に対する考えとか」
 
 
 
透の耳の奥で、先生の声がはっきり聞こえた。
『石の博物館の石は、ある意味“遺品”だからね・・・』
そのとたん、右の肩が熱くなり、
白い光がイワイシの肩に流れていくのが見えた。
 
 
 
「・・・今、送ろうとして送った?
 それとも、勝手に送られちゃった?」
イワイシが不思議そうに訊ねた。
 
 
 
「え?」
 
 
 
「白い光で情報送るの、ちゃんとできてるよ。
 しかも、ものすごーーーく鮮明に」 
 
 


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「先生の言葉を思い出したとたんに
 右肩が熱くなって・・・」
透は状況を説明しようとしたが、
言葉が出てこなかった。 
  
 
 
「ふーん・・・勝手に送られちゃったみたいだな。
 知らせたいと思ってた?」
 
 
 
「話しておかないといけないなって程度には」
 
 
 
「伏せておこうとは思ってなかったんだろ?」
イワイシの質問に透は頷いた。
 
 
 
「それならいいけど。
 意に反して勝手にってことだと、
 後々困ることになるからさ・・・
  
 勝手に送られちゃうのが続くようだったら
 言ってくれ」
 
 
 
「わかった」
 
 
 
「先生はずいぶんと石に思い入れがあるんだなぁ・・・
 死んだおじいさんに憧れてたらしいから、
 石の図書館にはもっと関わりたいんだろうな。
 
 ばあちゃんがほんのちょっとだけでも
 譲歩してくれれば、かなり状況は変わるんだけど、
 彼女にとっても石の図書館は、
 格別な存在だからなぁ。
 
 ばあちゃんから見れば、先生は、未だに
 しょーもないガキに見えるみたいだし」
 
 
 
「先生がしょーもないガキだったら、
 俺達はもっとしょーもない存在なんじゃないのか?」
 
 
 
「死んだおじいさんに似てるっていうのが
 ものすごいアドバンテージなんだろうよ。
 彼の写真を見たわけじゃないから、
 断言するわけにはいかないけど、
 客観的にはさほど似てないような気がする」
 
 
 
「俺とイワイシだって、ちっとも似てないし。
 ケムリは似てるって言うんだけど」
 
 
 
「アイツ、そんなこと言ってたのか?」
 
 
 
「うん、結構真顔だったな。
 イワイシとケムリの方が似てると思うんだけどな。
 雰囲気みたいなものが特に・・・」
 
 
 
一瞬、イワイシはひどく驚いたような表情を見せたが、
すぐにうつむいて、ため息をついた。
その様子は、内心の動揺を隠そうとしているように見えた。
 
 
 
透は、話題を変えた方がよさそうだと感じた。
「借りてた石、返すね」
 
 
 
ポケットに突っ込んでおいた石を探ると、
布の感触しかなかった。
おかしいと思いながら、引っ張り出すと、
いつの間にか巾着袋がポケットに入っていた。
石はその中に入っていた。
 
 
 
「これ、なんだか変だな」
透はテーブルの上に巾着袋を置いた。
 
 
 
「ヘンって?」
イワイシが顔を上げた。
 
 
 
「この袋から石を出し入れした記憶がないのに、
 石が外に出てたり、中に入ってたりするんだ」
 
 
 
「・・・そういうことって珍しくないと思うよ。
 ハッキリした記憶がないのに、
 モノゴトが勝手に進んでる・・・
 自分が何かやった結果だっていうのはわかってても、
 実際には何一つ覚えてない。
 
  いちいち気にしてたらキリがないから、
 そういうこともあるって思うようにしてるけど・・・」
イワイシはテーブルの上の巾着袋に目を落としたまま
暗い声で言った。 
  
 
 
 

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