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お話し小箱。「好きに動かしてみよー」19 

 



 
 
 
「この石は・・・何のためのものなんですか?」
透はさりげない口調で訊いてみた。
暁子サンは何て答えるだろう?
  
 
 
「そうねぇ・・・
 どう説明したらいいかしら。
 当初はお守りとか、そういう類のものだったはずよ。
 
 それがいつの間にか呪術の道具になっちゃったのよね。
 
 自分が幸運を得るには、誰かが不幸にならなきゃいけないって
 考える人がいたんでしょうね。
 幸せの数は限られているって信じているなら、
 そういう発想になってもおかしくないと思うわ。
 誰かのものを奪わなければ、得られないってことなんでしょう。
 イワイシさんはどんなこと言ってた?」
 
 
 
「怨恨みたいなのが強いって言ってました」 
 
 

「ふーん。
 予想はしていたけど、ホントに翌日返してくるとはね。
 私と別れた後、すぐにこの石の作業をしたんでしょ?」
 
 
 
「はい」
 
 
 
「3人で?」
 
 
 
「メインはイワイシさんですけど、
 僕と・・川瀬クンも多少は手伝いました」
 
 
 
「川瀬クンはどういうことを手伝ったの?」
 
 
 
「アンテナの位置をイワイシさんに知らせていました」
 
 
 
「アンテナ?」
 
 
 
「エネルギーを集めている部分らしいです。
 細かいことはよくわからないですけど」
  
 
黒い線みたいだったと言おうとしたが、やめておいた。
川瀬クンに、白い光でイメージを送る能力があるということまで
暁子サンと先生に知らせるのは、あまり得策でないような気がした。
 
 
 
「・・・あの二人って、年齢は違うみたいだけど、
 幼馴染とか?」
 
 
 
「さあ、どうなんでしょう・・・訊いたことないです」
 
 
 
「見た目はイワイシさんの方が年上に見えるけど・・・
 実際はどうなのかしらねぇ。
 なんか違和感があるのよね。
 華子サンと話すときのモードのイワイシさんだったら、
 また違うんでしょうけど」
 
 
 
「川瀬クンっていうのは、どういうタイプなんですか?」
先生が口をはさんだ。
 
 
 
「彼もね、華子サンのお気に入りよ。
 イワイシさんや透クンとはかなり違う雰囲気だけどね。
 パッと見にはソフトな印象だけど、実際はどうかしら?
 ・・・意外とオレ様かもしれないわ」
 
 
 
「ほう・・・なんだか面白い人みたいですね。
 華子サンのお気に入りということは、
 容姿には相当恵まれているってことですな」
 
 
 
「ええ、そうよ。
 昨日、このテーブルで、目の保養をさせてもらったわ」
暁子サンは、笑いながら言った。
 
 
 
「そうですか・・電話したのはまずかったですかね」
 
 
 
「ええ、かなりまずかったわねー
 私としてはもう少しおいしい役割を堪能したかったわ」
 
 
 
「それはそれは失礼しました・・・申し訳ない。
 
 ところで・・・あの石と箱を元に戻せたのなら、
 イワイシさんは、他にもいろいろできるってことですよね?」
 
 
 
 



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「そうねぇ。
 非常に高い能力を持っているのは間違いないけど、
 今すぐ何かを頼むのはかわいそうよ。
 
 イワイシさんレベルの人であっても、
 普通の場所で・・まあ、一般的な住宅でってことだけど、
 そういうところであの手の作業したんだから、
 ものすごく消耗したはずよ。
 
 しかも、透クンと川瀬クンを守りながら、ですからね。
 一人で作業してたら、それほどでもなかったかもね。
 
 その仲間意識を私たちにも向けてほしいんだけど、
 ものすごく警戒してるのよね・・・
 食事会のこともあったし」
 
 
 
透は、中華料理店でのイワイシと暁子サンの
「睨みあい」を思い出した。
あの時に感じた恐怖が蘇ってきた。
 
 
 
「石の博物館の部屋を作る作業の時も、
 先生が隠し撮りしたのに気づいてたらしいし・・・
 データまで消しちゃうとは思わなかったけど」 
 
 
 
思わず反論しそうになったが、透はなんとか平静を保った。
ケムリのことを言うわけにはいかない。
カンのいい暁子サンのことだ。
即座に川瀬クンと結びつけるに違いない。
もっとも、ケムリのことも川瀬クンのことも
とっくにわかっているのかもしれないが。
 
 
 
「イワイシさんは自分のことが話題になるのを
 徹底して避けてるのよね。
 あのガードの固さは異常だわ。
 透クンに対してもそうなの?
 自分のことは話さないの?」
 
 
 
「そうですね・・・話したことないです」
 
 
 
(態度とか表情を、あれだけ変えられると、
 話題になんかできるわけないじゃんか)
 
 
 
「そう・・じゃ、川瀬クンとはどういう話をしてるの?」
 
 
 
「どういう話って・・・この間の石の博物館の作業で
 初めて会ったから、まだそんなに話してないです」
 
 
 
「ふうん・・・」
暁子サンは透の目をちらっと見てから、ティーカップに
視線を落とした。
 
 
 
「なんかこう・・・回りにくい歯車みたいだわ。
 先生もそう思うでしょ?」
 
 
 
「そうですねぇ。
 でも、まあ 、こっちの出方が悪かった部分もあるから、
 現時点で歯車がかみ合わないのは、ある程度は仕方ないでしょう。
 
 ただ、イワイシさんにはもうちょっとうちとけてもらわないとね。
 今後のことを考えると、あのガードの固さは
 ちょっと困るな」
 
 
 
「でも、彼はガードを緩めてくれるかしら?
 今回の依頼で、少しは手のうちを見せてくれるかなって
 期待してたんだけど、そうでもなかったわ。 
 私の想像以上に、彼の能力が高いことは
 よくわかったけどね」
 
  
 
 
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「完全に別格ですよね、彼は・・・
 簡単に全体像をつかめないタイプでしょう」
先生はカバンから手帳を取り出した。
 
 
 
「イワイシさんに、何か頼みたいことがあるの?」
 
 
 
「ええ・・・ちょっと急ぎの案件があるんですけど、
 今、頼むのはかわいそうってお話でしたので。
 どのくらい時間をあければ大丈夫なんでしょうか?」
 
 
 
「変色した石を何とかしてほしいって程度だったら、
 別に時間をあける必要はないわよ。
 イワイシさんにお願いしなくても、
 透クンだって対応できるし」
 
 
 
「そういう作業も含むんですけどね・・・
 この間みたいに、部屋を作ってほしいんです。
 石をしっかり守って、長い間保管できるような部屋を」
 
 
 
暁子サンは怪訝な表情を浮かべた。
「どういうこと? 
 華子サンがお持ちの石とは別の話ってこと?」
 
 
 
「そうです。
 石の博物館には遠く及びませんが、
 そこそこの数をお持ちの方がいるんですよ」
 
 
 
「・・それはホンモノなの?
 本当に、<石>なの?」
 
 
 
「いくつか見せてもらいましたけどね。
 私はホンモノだと思いましたよ。
 変色してしまったものも見せてもらいましたが、
 ・・・やはり、ホンモノの<石>だと」
  
 
暁子サンは先生の表情から何かを感じたようだった。 
「先生が仲介する形で、
 イワイシさんにお願いしたいというわけね」
 
 
 
「ええ、そういうことです」
 
 
 
(ばあちゃんが関係なければ、先生は
 思う存分、好奇心を満たせるんだろうなぁ・・・
 部屋の作業のこと、すごく興味を持ってたみたいだし。
 ただ、イワイシがこの話を受けるかどうか・・・) 
   
 
「ふうん・・・でも、どうかしらねぇ?
 イワイシさんは話を受けるかしら? 
 透クンはどう思う?」
 
 
 
「は? えーと・・・そのー
 すんなりとは受けないと思います。
 何か条件みたなものを出すかも・・・
 本人に聞かないとわかんないですけど」
 
 
 
「条件?」
先生が聞き返した。
 
 
 
「・・・あの、僕はあんまりわかってないですけど、
 部屋を作る作業は、イワイシにとっても
 すごく大変みたいなんで・・・」
 
 
 
「そうよね・・・
 とにかく、イワイシさんとよく話し合った方がいいわ。
 部屋を作る作業はかなり高額よ。
 それを納得していただいた上でのお話なのかしら?」
 
 
 
「もちろんです。
 それを承知してもらわないと先に進めませんからね」
 
 
 
 
 
 
 
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「ふーん・・・
 今のところ、先生から連絡はないけどなぁ」
携帯から聞こえてくるイワイシの声は
いつもとあまり変わらず、疲れている感じはなかった。
 
 
 
「じゃあ、先生と暁子サンで話してる最中なのかなぁ?」
透は、先生が部屋を作る作業の話をした時の
暁子サンの表情が気になっていた。
・・あまり好意的な雰囲気ではなかった。
 
 
 
「そっち行くから。今いる場所から動かないでくれ」
電話が切れた。
 
 
 
どういう意味だ?
そっち行くって??
 
 
 
歩きながら話していた透は、足を止めた。
周囲を見回すと、コンビニがあった。
店の中に入るわけにはいかないので、
入口近くに並べられた分別ダストボックスの横で
イワイシを待つことにした。
 
 
 
「・・・ハシバでも気づかないんだな」
いきなり声がしたので、透はびっくりした。
すぐ横にイワイシが立っていた。
その後ろにはケムリがいた。
 
 
 
イワイシは野球帽を目深にかぶり、分厚いレンズの
黒縁メガネをかけていた。
声を聞かなかったら、イワイシだとはわからなかっただろう。
ケムリは、いつもと同じ黒っぽい服装だったが、
長身という以外は、目立った特徴がないように見えた。
 
 
 
透は無言のまま二人を見ていた。
突然声をかけられたので、言葉が出なかったというのもあるが、
イワイシの雰囲気がいつもと全く違うことに驚いた。
 
 
 
帽子をかぶろうが、眼鏡をかけようが、
イワイシの周りには独特の「特別な感じ」があるのだが、
今日はそれが全く感じられなかった。
殻のようなものに包まれているという印象があった。
 
 
 
「何だよ、いきなり・・・
 気配を消すようなこと、やってるだろ」
 
 
 
「ああ。
 魔法使いのおばちゃんの指輪はなかなか便利だよ」
 
 
 
「気配ってそんな簡単に消せるものなのか?
 ・・・イワイシの感じ、いつもと全然違う」
 
 
 
「徒歩で移動するときは、便利だよ。
 完全に人混みに溶け込めるからな。
  
 暁子サンたちの話を早めに聞いておきたいと思ったからさ、
 この近くをうろうろしてた」
 
 
 
「そっち行くって言ってたけど、
 俺がどこにいるのか、わかってたのか?」
 
 
 
「ああ。
 ハシバもこの指輪を使ったことあるだろ?
 情報が残るらしくて、大体の場所がわかる。
 どういうふうにわかるのかっていうのは、
 言葉じゃ、うまく説明できないけど。
 
 ・・・監視されてるみたいで不快だと思うなら、情報を消すよ。
 どうやって消すのか、まず調べないとわからないから、
 すぐには消せないけどな」
 
 
 
「別にいいよ。
 俺の行動範囲なんて、すっごく限られてるから、
 そんなものがあろうとなかろうと、
 イワイシなら見当がつくだろうし・・・
 それより、先生の話、受けるのか?」
 

 
 
 
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「今の段階で返事するとしたら、受けない。
 どういう場所に作ろうとしているのかわからないし、
 本当に<石>かどうかもわからないし・・・」
 
 
 
イワイシの声の調子から、
たとえ、いろいろなことがクリアになっても、
積極的にやる気持ちはなさそうだと透は感じた。
 
 
 
「わざわざそういう話を見つけてきたって感じがするな。
 ばあちゃんが持ってる石に関しては、完全に蚊帳の外だから、
 自分に決定権がある領域を作ろうとしている気がする」
ケムリが言った。
 
 
 
「そうかもしれないな。
 だいたい、先生みたいなタイプが
 自分がすっごく興味を持ってる分野について、
 蚊帳の外状態にずっと甘んじてるわけないもんな。
 暁子サン、乗り気じゃなかっただろ?」
 
 
 
「そうだね。そんな感じだった」
 
 
 
「イメージを見せてよ。できるだろ?」
 
 
 
「え? どうやって?
 そんなによく覚えてないんだけどな」
 
 
 
「記憶には残ってるから大丈夫。
 今回は送らなくていい。取りに行くから。
 ・・・目、つぶって」
 
 
 
(取りに行く? どういうことだ?)
 
 
 
透は目を閉じた。
ケムリが送ってくれたような鮮明なイメージは
到底描けそうになかった。
 
 
 
「喫茶店で話してた時の場面を呼び出すんだ。
 
 ・・・イメージは浮かばなくてもいい。
 奥のテーブルに座ってたんだろ?
 テーブルの様子とか、飾ってあった花とか
 暁子サンや先生の服装とかを思い出してみて」
 
 
 
さっきの喫茶店の場面がぼんやりと浮かんできた。 
 
  
 
「先生が部屋の話を持ち出したときは、
 どういう言い方だった?
 正確じゃなくていい・・・
 こんな感じだったっていうのでいいから」
 
 
イワイシの声を聞きながら思い出そうとしたとき、
   
 『 この間みたいに、部屋を作ってほしいんです。
   石をしっかり守って、長い間保管できるような部屋を 』
 
不意に先生の声が耳の奥ではっきりと聞こえた。
それを聞いた時の暁子サンの表情が見えたような気がした。
  
 
 
「はい、おしまい。
 これでかなりわかってきたぞ」
イワイシの声を聞いて、透は目を開けた。
 
 
 
「わかってきた?
 取りに行くって言ってたのは?」
 
 
 
「ハシバは、自分ではイメージが得意じゃないって
 思ってるみたいだけど、かなり鮮明に描けてるんだ。
 白い光に乗せて送るのは、ちょっと練習がいるけどさ、
 こっちから取りに行けば、別に送らなくてもいい」
 
 
「???
 なんだかよくわからないけど・・・
 で、何がわかったんだ?」
 
 
「やっぱり、先生はヘンだ。
 あのひとでも、ああいう状態になるものなのか?」
ケムリが憂鬱そうに言った。
 
 
 
 
 
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「敢えてやってんじゃないのかな?
 彼は、効率を重視するタイプだからさ、
 イチイチ悩まなくても済むようにって」
イワイシは面白がっているようだった。
 
 
 
「敢えて??
 考えられないことはないけど、
 危険だとか思わないのか?」
 
 
 
「自信があるんだろ。
 対抗心もあるだろうし。
 さっきも言ったけどさ、
 先生みたいなタイプが、
 他人に押し切られっぱなしってありえないし。
 ささやかであっても、多少は抵抗しないと、
 納得いかないんだろ」
 
 
 
「先生は何か危ないことをやってるのか?」
透は二人の会話についていけなくなって、口をはさんだ。
 
 
 
「あ、ごめん。
 ハシバには見えてなかったんだな。
 こういうことなんだ」
イワイシの肩のあたりから白い光が流れてきた。
 
 
 
先生のイメージが見えた。
首のあたりに黒っぽいフワフワしたものが
巻きついているのが見えた。
 
 
 
「・・・これは??」
 
 
 
「何て言ったらいいのかなぁ。
 おどろおどろしい言い方すると、
 この黒っぽいのは、先生に憑依してる」
  
 
 
「・・憑依?! 悪霊とかそういうやつ??」
 
 
 
「そんなんじゃないけどね。
 人間とは全く関係ない存在だ」
 
 
 
「こういうのって、この辺にはいないはずなんだけどな。
 一体どっから出てきたのか」
ケムリは焦点が合っていないような不思議な目をしていた。

 

「確かに、このあたりにはいないよな。
 先生が呼び寄せたか」
 
 
 
「憑依って・・ヘンなことにならないのか?
 操られたりするんじゃないのか?」
 
 
 
「だから、<敢えて>なんだよ。
 自分がやろうとしていることが、
 暁子サンはもちろん、ばあちゃんだって
 歓迎しないのは先生もわかってる。
 
 ばあちゃんは<石=死んだおじいさん>だからさ、
 誰かが持ってるなんて話を聞いたら、
 どうやって入手したかなんて経緯はすっとばして
 石の博物館で管理すべきだって主張するよ。
 
 先生はばあちゃんに対しては、
 全く頭が上がらないから、
 敢えてヘンなものを取り込んで
 そいつに操られる形にして、
 強行突破しようとしてるんじゃないのかな。
 
 憑いているのが何なのかよくわからないけど、
 ヤバくなったら自力で消せると思ってるんだろ」
 
 
 
「暁子サンは気づいてないのか?」
 
 
 
「気づいてると思うよ。
 どこまで把握してるかはわからないし、
 どういう理解でいるのか、見当つかないけど」
 
 
 
「けど、どうなんだろうなぁ。
 先生のエネルギーが強い分、
 コイツは、予想以上に強くなるかもしれないぞ」
ケムリは心配しているようだった。 
 
 
 
「確かに・・・
 でも、暁子サンは、そういうとこまで見抜いてるだろ。
 非常事態になったら、彼女が助けるよ。
 無意識かもしれないけど、
 先生は、暁子サンがいるから大丈夫って
 思ってるところがあるかもしれない。
 
 それにしても、ホントに恐ろしく好奇心が強いんだな。
 自分が知りたいとなったら、手段を選ばないし、
 その結果どうなるかなんて全く考えてないんだろうよ」
 
 
 
 
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