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お話し小箱。「好きに動かしてみよー」18 

 
 
 
 
 
「なんで?」
 
 
 
 
「この石の実体は見た目の半分以下。
 ゴツゴツしてみえる黒い部分は、
 ものすごくネガティブなイメージが、固まったもの・・・
 イメージが固まるのかよって
 ツッコミたくなるかもしれないけど、実際そうなんだ」
 
 
 
「ものすごくネガティブなイメージって、どういうもの?」
透が尋ねると、イワイシはげんなりした表情を浮かべた。 
 
 
 
「・・・正直見たくないんだけどなぁ」
そう呟くと、シャボン玉の中に浮かんでいる石を凝視した。
 
 
 
「・・・気持ち悪くなりそうだ・・・
 怒り、恨み、妬み、憎悪・・・
 怨恨みたいなのがものすごく強いなぁ」
 
 
 
「なんでそんなのが集まるんだ?」
 
 
 
「コイツは、そういうのを集める仕組みを持ってるんだ。
 ・・・アンテナみたいなのはどこにある?
 あんたには見えてるんだろ?」
イワイシはケムリに訊いた。
 
 
 
「仕組みに気づいているのに、見えてないのか?」
 
 
 
「何となくわかるけど、正確な位置はわからない」
 
 
 
「ふうん・・・」
ケムリからイワイシに白い光が流れた。
 
 
 
「あ・・・!」
透が小さな声を上げると、イワイシはすぐに
「ハシバにも送ってくれ」
と言った。
 
 
 
「了解」
ケムリの返事と同時に、透の脳裏に黒い石のイメージが浮かんだ。
端の方に、定規で引いたような黒い線があった。
 
 
 
「白い光の意味、わかっただろ?
 こんな感じで情報のやり取りをしてる・・・
 この黒い線が・・・アンテナっていうか、
 ネガティブなエネルギーを集めてる部分なんだ」
 
  
 
「で、どうするんだ?」
ケムリが尋ねた。  
 
 
 
「壊すしかないだろ。
 この玉の中にある限り、
 追加のエネルギーは集められないはずだから」
 
 
 
「線みたいに細いけど、結構強そうだ。
 簡単には壊せないかもしれない」
 
 
 
「そうなんだろうなー
 ものすごく強力なエネルギーを集めてるんだから。
 でも、壊さなきゃいけないんだ。
 ・・・あの指輪、返してくれ 」
 
 
 
ケムリは首から下げていた指輪を鎖ごとイワイシに渡した。
 
 
 
「えーと・・・ハシバは大丈夫そうだな」
イワイシは目を細めて透を見た。
「自覚がないにしても、
 そういう風に自分を守れるっていうのは、
 スゴイことなんだぞ」
 
 
 
それからケムリに向かって言った。
「厄介なことにはならないように努力するけど、
 あんたは自力でプロテクトしろよ」
 
 
 
 
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イワイシはケムリが返した指輪を鎖から外し、
右手の中指にはめた。
そして、シャボン玉の中に浮かんでいる黒い石を見つめた。
 
 
 
「箱はそのままでいいのか?」ケムリが尋ねた。
 
 
 
「ああ・・・失敗したら、箱に戻す。
 この箱も、なんだか変だ。
 実体はもっと小さいかもしれない」
 
 
 
透はイワイシの横顔を見ていた。
ものすごく集中しているようだった。
瞳の色が紫に変わっていった。
 
 
 
(何が見えてるんだろう・・・・)
その時、白い光が自分の方に流れてきた。
 
 
 
頭の中に黒い石のイメージが浮かんだ。
イワイシが<アンテナみたいなもの>と
言っていた黒い線が鈍い光を放っていた。
 
 
 
イワイシの紫色の瞳は次第に赤みを帯びていく。
それに合わせるかのように、黒い線の光も
輝きを増していった。
 
 
  
「少し離れた方がいい」
ケムリが 低い声で囁いた。
無意識のうちに透はシャボン玉に近付いていた。
 
 
 
我に返った透は、あわてて後ろに下がった。
黒い石のイメージが消えかけたが、
白い光がすっと流れてくると、
また鮮明なイメージが見えてきた。
 
 
 
黒い線は綿のようなもので蔽われているように見えた。
 
   
 
綿のようなものはしばらくの間、もわもわと動いていた。
その動きの中からオレンジ色の鋭い光が見え隠れした。
 
 
 
しかし、実際に見えているのは、
大きなシャボン玉とその中に浮いている
黒い石と茶色っぽい箱だけ。
 
 
 
二重のイメージは面白いと透は思ったが、
頭がクラクラしてきた。
イワイシの横顔がダブって見える。
部屋の空気が急に熱くなった。
 
 
 
「大丈夫だと思うけど、しゃがんでた方がいい」
ケムリが言った。
透が腰をおろした瞬間、
ハウリングのような、耳をつんざく高い音が響き渡った。
透は両手で耳を押さえて顔を伏せた。
 
 
 
 
 
 
 
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高い音がもう一度響いた。
耳に突き刺さるようだった。
透はきつく目を閉じ、耳を塞いだ。
 
 
 
瞼の裏側に、黒い石のイメージがはっきりと見えた。
石からまっすぐ伸びている黒い線の周囲には
線香花火のような火花が飛び交っていた。
 
 
 
火花はだんだん激しくなっていった。
それにつれて、黒い線は少しずつオレンジ色の光を帯び、
さらに輝きを増していった。
 
 
 
「!!」
何の前触れもなくオレンジ色に輝く直線が消えた。
深緑の残像だけが残った。 
 
 
 
耳から手を離すとイワイシの大きな溜息が聞こえた。
続いてケムリの声。
「おい、大丈夫か? 顔色悪いぞ」 
 
 
 
「ふう・・・ やっと壊れた・・・」
疲れきった声。 
 
 
 
透が顔を上げると、イワイシが床に座り込んでいるのが見えた。
シャボン玉は先ほどと同じ位置にあり、
中に浮かんでいる石は白っぽくなっていた。
茶色い箱は神社の鳥居のような鮮やかな朱色に変わっていた。
 
 
 
「ちょっとだけ休ませてくれ」
イワイシは座った姿勢から、そのままラグの上に仰向けに倒れた。
ケムリが言うように顔色がひどく悪く、
唇は青味がかっているように見えた。
 
 
 
「・・イワイシは・・・大丈夫なんですか?」
透はケムリに訊いた。
 
 
 
「たぶんな。意識を失ったとかじゃなくて、寝てる」
 
 
 
「は? 寝てる? 一瞬で眠ったってこと?」
 
 
 
「ああ。限界まで頑張ったらしい。
 
 ・・・ここ、フツーのマンションだから、
 壁とか壊すわけにはいかないからな。
 
 周囲に影響が出ないようにしつつ、
 この球体の中の頑丈なモノを壊すなんて、
 相当なエネルギーを使わないとできないはず。
 
 それにしても、戻ってきてすぐに作業を始めるなんて、
 放っておくのがよっぽどイヤだったんだろうなぁ」
 
 
 
「耳が痛くなるくらいの音だったけど、
 隣の部屋とかにも聞こえてたのかな?」
 
 
 
「あれは大丈夫だと思う。
 普通の音じゃないから。
 ハシバくんみたいなタイプだと辛いけどな」
 
 
 
「どういう意味ですか?」
 
 
 
「普通の人が、感じないものを感じられるタイプってこと。
 
 ・・・それにしても、コイツ、行き倒れてるみたいだな。
 ラフな格好してたら、ゴロ寝してるように見えるんだろうけど、
 ちゃんとした服装で床に転がってるっていうのは、
 ものすごくヘンだ」
 
 
 
「眠ってるなら、何かかけてあげた方が・・・」
透は、ソファの端に畳んで置いてあったブランケットを
イワイシの上に広げた。
ほんのちょっとしか時間が経っていないのに、
顔色の悪さはだいぶ薄らいでいた。
 
 
 
「ハシバくんは気がきくね」
 
 
 
「いや・・そんなんじゃないですよ。
 俺のおばあちゃんは、誰かがうたた寝とかしてると、
 必ずタオルケットとか毛布とか、掛けてあげてたんです。
 だから、なんか放っておけないっていうか・・・」
 
 
 
 
 
 
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「もう少ししたら・・あと2,3分くらいで、
 コイツ、起きると思う」
 
 
 
「何でわかるんですか?」
  
 
 
ケムリの肩のあたりから白い光が流れてきた。
それと同時にイワイシの右手の黒い石の指輪から、
穏やかな金色の光の波が広がって、イワイシの身体の上を
ゆったりと流れていくイメージが見えた。
 
 
 
「これは・・・」
 
 
 
「この指輪も謎なんだけどな・・・
 どっかから強力なエネルギーを持ってきてるらしい。
 さっきの石みたいな、アンテナっぽいのはないんだけど。
 
 金色の光の流れがだんだんゆっくりになってきているんだ。
 最初はものすごく速かった。
 あと少しで止まると思う。
 そしたら、起きるんじゃないかな。
 
 俺がこの指輪を借りてたときには、
 こんなことができるなんて思いもしなかったなぁ。
 
 この指輪自体は、エネルギーを作り出すことはできないはず。
 でも、どこからどうやって持ってきてるのかが全くわからない。
 
 それにしても、どうしてコイツがこの指輪を持ってるんだか・・・
 
 これが似合うなんて言ったら殺されそうだけど、
 この指輪のオーナーは、現時点では、奴が一番ふさわしいんだろうな。
 指輪自身もそれを望んでる感じがするし」
 
 
 
「この指輪のこと、前から知ってたんですか?」
 
 
 
「多少はね。ただ、入手経路を確認してからじゃないと、
 迂闊なことは言えないな」
 
 
 
「・・・そうですか。
 ところで、あれは、放っておいていいんですか?」
透は宙に浮いたままになっている、透明なシャボン玉を見上げて言った。
 
 
 
「イワイシは眠り込んでるけど、
 アンテナは壊してあるし、妙なことにはならないと思う」
  
 
 
白い光が流れてきて、シャボン玉のイメージが見えた。
肉眼では全く見えないものの、シャボン玉の周りを取り囲むようにして、
金色の雲が浮かんでいた。
イワイシの指輪から広がっている光の波の色とよく似ていた。
 
 
 
「この雲みたいなのが、シャボン玉を囲んでるから・・・
 これがなんだかわからないけど、
 黒い石から受けたのと対極の印象を感じる。
 ポジティブというか安心できるというか」
 
 
 
「そうですか・・・」
 
 
 
「この部屋、見た目は普通だけど、
 イワイシがいろいろ小細工してるっぽいな。
 
 初めてここに来たとき、何か感じなかった?」
 
 
 
「・・そうですねぇ・・・
 落ち着くっていうか、居心地がいいって思いました」
 
 
 
「ハシバくんならそうだろうな。
 普通の人なら、シンプルで片付いてる部屋っていう
 印象しかないかもしれない」
  
 
 
 
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「ニャーン」
ソファの影からまっ白いふかふかの猫が出てきた。
 
 
 
「あれ? アンジェロ、隠れてたのか」
 
 
 
アンジェロは、透の方をちらっと見たが、
まっすぐにイワイシに向かって歩いていった。
そして、イワイシの顔に白い頭をこすりつけた。
「ニャア、ニャア」
 
 
 
「・・・なんだよ、腹減ったのかよ・・・」
イワイシは眩しそうに目を細めた。
アンジェロはイワイシの身体に飛び乗った。
 
 
 
「重っ・・・重いよお前・・マジで腹減ってんのかよ」
イワイシは手をのばして、アンジェロの背中に触った。
「起きるから降りてくれ・・・重い・・・」
アンジェロは床に降りた。
意味が分かっているように見えた。
 
 
 
イワイシは両手を上にあげて、のびをしてから
ゆっくり起きあがった。
「ん?  ああ、そうか・・・」
まだ完全に覚醒していないようなぼんやりした表情で
宙に浮いているシャボン玉を見上げた。 
 
 
 
それから、自分の方を見ているケムリと透を眺めた。
「ああ、毛布かけてもらってたのか・・・
 なんだかものすごくよく寝た気がする」
 
 
 
「時間としては、数分ってとこだな。
 床に転がった瞬間、眠り込んでたけど」
  
 
 
 
「アンテナを壊したところで、限界だったんだ・・・」
そう言いながら立ち上がると、シャボン玉の下に手を入れた。
朱色の箱がイワイシのてのひらに落ちてきた。
 
 
 
「なんだかおめでたい雰囲気になっちゃったな」
イワイシは箱をケムリに渡した。 
 
 
 
「ホントだ。めでたい上に普通っぽい。
 おどろおどろしいところが全然なくてつまらん」
 
 
 
「茶色っぽかった時より小さくなってませんか?」
透はケムリから箱を受け取って言った。
 
 
 
「この箱も、石と同じく、ヘンなのがいっぱいくっついていたからな」
 
 
 
「ヘンなのって?」
 
 
 
「あの石は、ネガティブな想念を集めて、エネルギーを作ってた。
 だから、この箱・・・それを封じこめるための対抗措置も
 どんどん強くなってったんじゃないかな。
 
 たぶん、所有者の手に負えなくなると、
 次の所有者の手に渡る・・・みたいな感じで、
 複数の人間がかかわってると思う。
 
 なんだか古い温泉旅館っぽい雰囲気があったなあ。
 脈絡なく建物や部屋を作って、迷宮にしちゃったような」
 
 
 
イワイシの言葉を聞いていたケムリが笑い出した。
「古い温泉旅館って・・・すっごくわかりやすいな。
 そういう状態になってるの、何度か見たことある。
 
 この箱もそうだったのか・・・
 雑多なエネルギーがめちゃくちゃに重なり合ってるのはわかったけど。
 アンテナは見えなかったのに、こういうところはわかるんだな」
 
 
 
「・・・まあ、いろいろあるからな。
 最後にハシバに作業してもらって休憩しよう」
 
 
 
「俺が? 何をすればいいんだ?」
 
 
 
「コレに触って、いつもみたいに、
 太陽とかのイメージを浮かべてくれればいいよ」
イワイシはシャボン玉を眺めて言った。 
 
 
 
透は立ち上がって、空中に浮いているシャボン玉にそっと触れてみた。
見た目よりずっと強度があるようだった。
ひんやりしていて、ガラスの球体に触っているような感じがした。
ゆっくりと目を閉じる。
 
 
 
しばらくすると、イワイシの声が聞こえた。 
「はい、おしまい。お疲れ様ー」
 
 
  
  
 
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透は目をあけて、自分が触れている球体を見た。
「あ・・・」
 
 
  
白っぽくなっていた石は、
平べったい小判型の 黄緑色の石に変わっていた。
 
 
 
「完全に無害化したみたいだな」
イワイシが手をのばして、シャボン玉の表面をつっついた。
すると、シャボン玉は音もなく消えてしまった。
イワイシは、落下を始めた石が床に落ちる前にパッとつかんだ。
 
 
 
「石もベツモノになっちゃったな」
イワイシはてのひらに乗せた石を目の高さに持ち上げ、
しげしげと眺めた後、
「見てみろよ」
と言って、ケムリに渡した。
 
 
 
「この石、それなりに価値があるかもな。
 どこの川だったか、限られた場所でしか見つからない石のはず。
 
 その川の流域の神社が、神事に使ってたとか
 聞いたような気がするなぁ。
 
 昔から何か神がかった力を持つ石だとかって
 思われていたのかもしれない」
ケムリは石を透に渡した。 
 
 
つるんとしていて、特殊な感じは一切なかった。
全体的には黄緑色だが、細かいヒビのような模様が入っていた。
人為的に描いたのではないかと思える部分もあった。
 
 
透は石をじっと見つめた。 
「このへんの模様・・・なんだか人工的な感じがする。
 他の部分と線の太さは変わらないから、
 たぶん、偶然こんなふうになったんだろうけど。
 
 これをありがたがって、何か特別なことが起こるって
 期待したんだろうな」
 
 
 
「ありがたがって期待するレベルで留まっていれば、
 よかったのにな。
 ある行動をとるように人を動かすとか、
 何かを恐れるように仕向けるとか、
 そういう意図を持った人物とか集団が、
 それが実現するようにいろいろなイメージを作り上げて、
 この石にかぶせたのかもしれない。
  
 最初はハシバが言ったみたいに、
 素朴でささやかなものだったんだろう。
 
 だから、こんなにおめでたくてのっぺりした印象だった・・・
 もしかしたら、他者を怖れでコントロールしようとしたから、
 ああいうおどろおどろしい路線に変わったのかもしれないな。
 
 ・・・箱に戻してくれ」
 
 
 
透は朱色の箱に石をいれるとふたを閉めて
イワイシに渡した。
 
 
 
「さてと、誰がこれを暁子サンに返すのかな」
イワイシは箱を巾着袋に入れて、紐を引いて口を絞った。
 

「ハシバくんじゃないかなー
 明日の学校の帰りに、ホームで暁子サンに会うと思う。
 っていうか、暁子サンが待ち伏せしてるよ」
ケムリはそう言って笑った。
 
 
 
「えーーー 俺が渡すんですか?
 嫌だなあ・・・でも、確かに明日会いそうな気はするけど。
 じゃあ、返しておきますよ。
 
 いろいろ訊かれたら、何て返事すればいい?」
 
 
 
「ハシバが覚えている通りのことを言えばいいよ。
 別に隠すことはない。
 
 川瀬クンがアンテナを見つけたことを話したところで、
 暁子サンは驚かないし。
 
 ・・・あ、もしかしたら先生もいるかもしれないなー
 川瀬クンに会いたいって言い出すだろうなぁ、間違いなく 」
 
 
 
「俺を間に入れないで、イワイシが暁子サンや先生と
 直接話してくれればいいのに。
 お互いに探り合ってるみたいだ。
 それに、伝言係をやるのは、正直、気が進まない」
 
 
 
「そのへんにはオトナの事情ってやつがあるかもしれないなぁ。
 
 ・・・イワイシも、強気に出りゃいいのに、
 あの二人が相手だと、どうも一歩退くところがあるよな?」
ケムリはイワイシを見た。
 
 
 
「しょうがないだろ、お客なんだし。
 今のところは、波風立てる気はないんだ。
 っていうか、あまり深入りしたくない」 
イワイシはケムリの視線を避けるようにして
身体をかがめ、アンジェロを抱き上げると、
キッチンに入って行った。
 
 
 
(暁子サンや先生がイワイシ個人に関心を向けているのが
 嫌なんだろうな・・・)
 
 
 
「人嫌いってわけじゃないんだろうけどさ、
 一定の距離以上は、絶対に他人を近づかせないんだよな。
 
 アイツの見た目も能力も、人目を惹いちゃうんだけど」
ケムリが低い声で呟いた。
 
 
 
 
 
 
  
 
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夕方のラッシュが始まる少し前。
電車から降りた透は、自動改札に向かってゆっくり歩いていた。
 
 
 
「透クン!」
名前を呼ばれたので振り返ると、暁子サンが立っていた。
 
 
 
(ああ、やっぱり・・・予想通りだ。
 先生は外にいるのかな)
 
 
 
「やっぱり会ったかーって顔してるわね」
暁子サンはそう言ってケラケラ笑った。
 
 
 
「お渡しした石、持ってきてるんでしょ?
 時間あるかしら。
 いろいろ訊きたいことがあるんだけど」
 
 
 
「はぁ・・・大丈夫です」
 
 
 
「よかったわ。じゃあ行きましょう。
 
 二日連続で申し訳ないけど・・・
 アップルパイのお店で先生が待ってるのよ」
 
 
 
(うーん・・・二人掛かりで質問するのかよ。
 嫌がってるのはわかるけど、
 イワイシが対応する方がいいと思うんだけどなぁ)
 
 
 
  
* * * *
  
 
 
 
  
日曜日と同じく奥のテーブルに案内された。
本を読んでいた先生が顔をあげてニッコリ笑った。
 
 
「おまたせ・・・透クン、私に会うのを予想してて、
 石を持ってきてくれたわ」
 
 
 
暁子サンと透が席に着くとウェイターは
水の入ったコップをテーブルに置いた。
 
 
 
すぐに別のウェイターが来て、ティーカップとティーポット、
アップルパイの載ったお皿を静かに並べた。
 
 
 
「ありがと」
暁子サンが声をかけると、ウェイターは一礼して下がった。
 
 
 
 
透はカバンから巾着袋を出し、テーブルの上に置いた。 
 
 
 
「無事終了ってことね。
 ま、イワイシさんがいれば、当然だけど」
 
 
 
暁子サンは袋の口をあけて、中から箱を出した。
 
 
 
「え?・・・箱が・・・」
暁子サンの手元を見ていた先生は驚いたようだった。
 
 
 
「ああこれ? あの箱のモトの状態よ。
 なんとまあ、おめでたい色だこと。
 完璧に戻してくれたのねー」
暁子サンは箱の蓋を開けた。
  
  
  
「中の石も、元通りってことね。
 ふうん・・・こんな感じだったのねぇ。
 私が予想していたよりもだいぶ小さいわ」
 


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