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お話し小箱。「好きに動かしてみよー」17 

 

 
 
 
 
「あなたが川瀬クンなのね・・・
 
 
 三人並ぶと、確かにものすごく豪華ねー!
 華子サンがはしゃぐのもわかるわ」
 
 
 
「はしゃぐ?」
 
 
 
「あら、彼女ったら、あなたたちの前では澄ましてるのね」
暁子さんはクスクス笑った。
 
 
 
「三人連れて吟行にいきたいとかって言ってたけど、
 あなたたちは、そんなの、行きたくないわよねぇ」
 
 
 
透にとってはこれで三回目になるビルの中の喫茶店。
今回も奥のテーブルに案内された。
 
 
 
テーブルが大きかったので、暁子サンと向かい合うにして
三人が並んで座る形になった。
 
 
 
控え目なデザインでありながら、
パッと見に高そうな雰囲気のスーツを
自然に着こなしている暁子サンは、
いつもよりずっと<タダモノではない感>が強かった。
笑うと幾分薄らぐものの、それでも、<別格>という印象は
消えなかった。
 
 
 
紅茶とアップルパイが四人分運ばれてきた。
 
 
 
「川瀬クンは甘党?」
 
 
 
「ええまあ・・・あの、アップルパイは大好きです」
アップルパイはすごく嬉しいけど、
質問されるのはあまり嬉しくないというのが
よくわかる返事だった。
 
 
 
「ならよかったわ。
 召し上がってくださいな。
 このお店のアップルパイは、ホントにおいしいのよ」
 
 
 
「そうですか。いただきまーす」
そう言うと、ケムリと同一人物とは到底思えない表情としぐさで
アップルパイを食べ始めた。
 
 
 
透はその横顔を呆然と眺めていた。
 
 
 
「透クン、どうしたの?」
 
 
 
「あ、いえ、なんでもないです。
 ・・・いただきます」
 
 
 
「あなた、なんだか雰囲気が変わったわね」
 
 
 
「え・・・そうですか?
 自分じゃわからないですけど」
 
 
 
「学校でお友達から何か言われたりしない?」
 
 
 
「はあ・・特に言われたことないです」
 
 
 
「ホントに?」
 
 
 
「え? あの、面と向かっては、言われてないですよ。
 僕が知らないと ころで何か言われてるのかもしれないですけど。
 でも、そういうことってないと思うんだけどな・・・」
 
 
 
暁子サンは一瞬目を細めるようにして透を見たが、
すぐに視線を外し、ティーカップを手に取った。
 
 
 
 
 
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「川瀬クンって、どのくらい石に詳しいの?」
 
 
 
「えーと・・・どのくらいって言われても・・・
 そういうのって、どう説明すればいいんですか?」
戸惑っているのがはっきりわかる口調だった。
 
 
 
(ホントに別人だな・・・あり得ない・・)
透は、表情を見てみたいと思いながらも、
暁子サンに怪しまれるのを警戒して、
手元のティーカップを見ていた。
 
 
 
「イワイシさんは、石全般についてのエキスパート。
 透クンは、石を変化させることができるわ」
暁子サンはなんだか面白がっているように見えた。 
 
 
 
「・・・そういうのはできないです、僕は。
 あの・・・石がどう思ってるかは、多少はわかるって、
 自分では思ってますけど」
自信なさそうな口調も全くケムリらしくない。
 
 
 
「あら、珍しい能力をお持ちなのね」
 
 
 
「・・・ホントに石がそう思ってるのかを
 証明しろって言われてもできないですよ」
 
 
 
それを聞いて、暁子サンは笑った。
「・・・そういうのは、たいていは<感じ>だからね。
 証明しろなんて言わな いわよ」
そして黒いハンドバックの中から、金色の小ぶりのポーチを
取り出した。 
 
 
 
「この石は、今、どういう状態?
 どう思っているのかしら?」
そう言って、ポーチの中から透明な薄紫の雫型の石を出して
テーブルの中央に置いた。
 
 
 
「これって、採用試験なんですか?」
 
 
 
「採用も何も・・・イワイシさんが推薦する人なら
 全く問題ないわ。
 あなたは、石の気持ちがわかるそうだから、
 私のお気に入りの石が何を考えているのか知りたいのよ」
 
 
 
ケムリが石に手を伸ばした時、
テーブルの隅に置いてあった暁子サンの携帯が点滅し、低い音をたてた。
「ごめんなさい・・・ちょっと席をはずすわね」
暁子サンは携帯をつかむと席を立って、入口のほうへ歩いて行った。
 
 
 
「・・・今のは偶然か?
 作戦タイムが必要だと思ってくれたとか?」
ケムリの声は、いつものトーンに近いものがあったが、
川瀬クンの声とも言えそうな、微妙な感じだった。 
 
 
 
「さあね。
 で、あんたは、言った通りのことがホントにできるのか?」
 
 
 
「やってやれないことはない。
 マズイことにはならないよな?」
ケムリはいつもの口調で言った。 
 
 

「暁子サンに怪しまれないかってことか?」
 
 
 
「いや・・・もうとっくに怪しまれてるんだろ?
 そうじゃなくて、川瀬クンじゃない人間の存在・・・
 つまり本性がバレることにならないかってことだ」
 
 
 
「それは大丈夫。
 すごく怪しいんだけど、
 どこがどう怪しいのかは、わからないはず」
 
 
 
ケムリはテーブルの上に置かれた石を手に取り、
両手で包むようにして目を閉じた。
 
 
しばらくすると、
「へぇー・・・なるほどねぇ」
感心したように呟くと目を開けた。
 



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「何か、わかったんですか?」
透にとっての石は、勝手に変化するもので、
こちらに何か情報を与えてくれる存在ではなかった。
なので、ケムリが何を読み取るのか、とても興味があった。
 
 
 
「暁子サン、お気に入りって言ってたけど、
 石の方も、彼女のエネルギーが好きらしい。
 
 ・・・そんなに感心するなよ。
 ハシバくんだってやろうと思えばできるよ、こんなの」
 
 
 
「今はハシバに触らせるなよ」
イワイシが強い口調で言った。
 
 
 
「その石、なんか変な感じがする。
 気のせいかもしれないけど・・・
 ハシバが触ったら、たぶん色が変わると思う」
 
 
 
「ふーん・・・そうかねぇ。
 暁子サンがいる間、ほとんどしゃべってないけど、
 ずっと黙ってるつもりか?」
 
 
 
「今日はオブザーバーなんでね。
 質問には答えるけど、自分から話すつもりはない。
 別に困るようなことはないだろ?」
 
 
 
「まあね。
 でも、ずっと黙っていられると、それはそれでやりにくい」
 
 
 
「そうか?
 川瀬クンとイワイシさんの会話のほうが
 よっぽどやりにくいと思うけどな」
  
 
  
「イワイシさんの無言の圧力がコワイんだよ。
 余計なこと言ったら、すごい目で睨まれそうだ」
 
 
 
「・・・暁子サンを前にして、そんなことするわけないだろ。
 ハシバにもっとしゃべらせればいいんだ。
 暁子サンとの会話がつらくなったら、ハシバに振れよ。
 あんたは真ん中の席に座ってんだから、
 暁子サンとハシバと両方見て話せばいい。
 
 ・・・そろそろ暁子サンが戻ってくる」
 
 
 
「電話かけてきたの、どうもセンセイっぽいな」
透が呟いた。
 
 
 
「やっぱり、そう思う?
 ホント、知りたがり屋だよな、あのヒト。
 
 川瀬クンのことも蚊帳の外だから気に入らないんだろうなー
 まあ、あのヒトに、俺から紹介する気はないけど・・・
 もっともセンセイの方も俺に頼みたくないだろうな。
 ・・・戻ってきたぞ」
イワイシは声をひそめて言うと、テーブルの上の
水の入ったコップを手に取った。
 
 
 
「ごめんなさいね。
 えーと・・・そうそう、私の石は何を考えていたのかしら?」
 
 
 
「石は、満足してるみたいですよ。
 それと、好奇心がとても強い感じがします」
 
 
 
(一瞬で川瀬クンになったなぁ・・・
 あの声は、どっから出てるんだか)
 
 
 
「満足してるならよかったわ。
 好奇心が強いっていうのはとっても意外。
 いろいろな所に連れて行ってあげないとね」
暁子サンはケムリの答えに素直に反応しているように見えたが、
川瀬クンの表情や声のトーン、言葉の使い方について、
アレコレ考えているんだろうなと透は思った。 
 
 
 
「川瀬クンは、かなり感覚が鋭いようね。
 じゃあ、これを見てどう思う?」
暁子サンは黒いハンドバックの中から、
濃紺の巾着袋を取り出した。
その中から、茶色っぽい箱を出すと、テーブルの上に置いた。
 
 
 
箱を一目見た透は、<禍々しさ>を感じてギョッとした。
思わずケムリの方に視線を向けた。
  
 
 
「どうしてこんなものを・・・
 川瀬クンを試すにしても危険すぎます」
イワイシが低い声で言った。
 
 
 
 
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「試すわけじゃないわ。
 川瀬クンは、これを無邪気にあけるようなひとじゃないって
 わかってるから出したのよ。
 それに、貴方と透クンがいるしね。 
 この箱・・・わかるわよね?」
暁子サンはケムリの顔を見つめた。
   
 
 
「わかるって・・・
 何を言えば<わかる>ってことになるんですか?」 
 
 
 
「そうねぇ・・・じゃあ、何を感じたか教えてくれない?」
 
 
 
「この箱の中の石はどこから来たんだろうって思いました。
 この箱が必要になるって、どういうことなんだろうって」
  
 

「あら! 石が入っているってわかるのね!!」
暁子サンは驚いた口調で言ったが、
透には、驚きを演じているように感じられた。 
   
 
 
ケムリの整った横顔には変化がなかった。
平然としているようだった。
  
 
 
「僕は、こういう・・・何ていうのかな、
 呪術って言えばいいんですか? 
 そういうものにちょっと興味があるんです。
 
 蓋にいろいろ書いてあるのは、読めるわけじゃないけど、
 これって、護符みたいなものですよね?
 それもかなり・・というか相当強い力を持っているはず。
 
 中に石が入ってるのかどうかはわかりませんが、
 話の流れから考えれば、石じゃないかなと思いました」
ケムリは箱を見ながら、 淡々とした口調で語った。 
 
 
 
「ふうん・・・貴方は感覚だけのひとじゃないのね。
 見た目のイメージと、中身はかなり違う感じがするわ」
 
 
 
「こんなものを持ち出して、どうするつもりなんですか?」
イワイシが咎めるように言った。  
 
 
  
「せっかくご足労いただいたから、
 お仕事の依頼もしておこうと思って」
暁子サンは、全く意に介していないようだった。
 
 
 
「仕事? この石のことですか?」
 
 
 
「そうよ。三人でどうにかしてほしいの。
 無害化できればイチバンいいけど、
 最悪の場合は消してもかまわないわ。
 
 箱は返してほしいけど、ムリだったら、
 こちらも一緒に消しちゃって も結構よ。
 
 イワイシさん一人で処理できるだろうけど、
 私としては三人でやっていただきたいわ」
  
 
 
「どうしてですか?」
 
 
 
「・・・理由は・・・わかってるでしょ?
 
 透クンと川瀬クンに経験を積ませるという意味でも
 三人でやってくださいな。
 仮に何かあったとしても、イワイシさんなら
 どうにかできる範囲でしょうから」
そういうと暁子サンは紅茶を飲み、腕時計に目をやった。
 
 
 
「申し訳ないけど、次の約束があるの。
 私はこれで失礼するわ。
 お会計は済ませておくから、ゆっくりしていってね」
暁子サンはさっと立ち上がると、
あっという間に店を出て行ってしまった。
  
 
 
 
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「・・・なんだありゃ?」
ケムリが呆れたように言った。
 
 
 
「センセイに呼び出されたんだろうよ。
 それにしても、こんなものを置いていきやがって・・・」
イワイシはテーブルの上の箱を見てため息をついた。
 
 
 
「この箱・・・本当に石が入ってるのか?」
 
 
 
「なんだよ、ハシバはわかんないのか?」
 
 
 
「石かどうかわからないけど、すっごくイヤな感じはする」
 
 
 
「イヤな感じがわかれば十分だよ。
 ケムリだって、危険なものだってわかってたんだろ?」
 
 
 
「まあね。
 相当ヤバい感じがしたけど、大騒ぎするのもアレだし・・・
 川瀬クンが怪しいのは覆せないにしても、
 普通っぽい受け答えの方がいいだろうと思ったから」
 
  
 
「・・・引き返していいか?」
イワイシがぼそっと言った。 
 
 
 
「引き返す? おまえんちに戻るってことか?」
ケムリはコップに残っていた水を飲み干した。
 
 
 
「ああ。
 こんなものを放っておくっていうのが全く理解できない。
 暁子サンは何を考えているんだか」
 
 
 
「これが、そんなに危険?
 確かにイヤな感じはするけど、
 危険っていうほどじゃないと思うんだけど」
 
 
 
「?? ハシバはなんか変だな・・・」
イワイシは椅子を引いて、後ろ側から透を見た。
瞳の色が紫色っぽく変化していた。
 
 
 
「・・・シールド? 
 ふーん・・・そういうこともできるのかー」
 
 
 
イワイシがひどく感心している様子だったので、
透は聞き返した。  
「え? シールド? 何のことだ?」
 
 
 
「え? ・・・自分では意識してないとか?」
 
 
 
「俺は何もしてないぞ」
 
 
 
「無意識にやってるとしたら、すごすぎるなぁ」
ケムリは透の頭の上の空間を見ながら言った。
「自分のエネルギー使ってるんじゃなくて、
 別の場所から持ってきてる」
 
 
 
「は?」
 
 
 
「本能的にやっているのか、
 それとも守ってくれてる存在がいるのか・・・
 いずれにしても、イワイシが気を揉まなくても、
 おそらく自動的に安全な状態になるんだよ、きっと」
 
 
 
「自分じゃ全然わかんないけど・・・」
 
 
 
「別にわかんなくてもいいよ。
 安全ならそれに越したことはないんだし・・・
 
 とりあえず、ここを出よう」
 
 
 
 
 
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三人はイワイシの部屋に戻った。
部屋に入るとすぐ、
「あの石を出してくれ」
とイワイシがケムリに向かって言った。
 
 
 
ケムリがカバンの中から、濃紺の巾着袋を出して、
中から箱を取り出そうとすると
「ちょっと待って」
イワイシがそれを制した。
そして、右腕を上に伸ばすと、空中に円を描いた。
次の瞬間、その空間に大きなシャボン玉のようなものが現れた。
 
 
 
「袋ごと渡してくれ」
ケムリから濃紺の巾着袋を受け取ると、
イワイシはそれをシャボン玉の中に投げ込んだ。
巾着袋はシャボン玉の真ん中で静止した。
 
 
 
「へぇ・・ ・そんなこともできるのか」
ケムリが目を見張った。
 
 
 
イワイシがシャボン玉の表面をそっとなでると、
巾着袋の口が開き、中から茶色い箱が出てきた。
「この袋、スゴイなぁ・・・
 すっごくほしいけど、暁子サンはくれないだろうなぁ」
そう言って、イワイシはシャボン玉の下に左手を入れた。
すると、巾着袋がシャボン玉の中から落下し、
パサリと音をたててイワイシの手のひらにおさまった。
 
 
 
「その袋って何がすごいんだ?」
透が訊くと、イワイシは
「持ってみろよ」
と言って、透に巾着袋を渡した。 
 
 
「え・・・?!」
渡された袋は、空っぽのはずなのに、
ずっしりと重かった。 
サテンのようなつるつるした布地で、
柔らかい感触だったが、異常な重さだった。
 
 
  
「すげー重い・・・」
 
 
 
「俺にも貸してくれ」
ケムリが手を伸ばしてきたので、
透は巾着袋をケムリに渡した。 
 
 
 
「へー・・・確かに見た目からはあり得ない重さだな」
 
 
 
「この袋から箱を出すまで、
 危ない感じは一切なかっただろ?
 コイツが遮断してたんだ」
 
 
 
「やたらと重たい以外は、
 何の変哲もない巾着袋に見えるんだけどなぁ」
 
 
 
「暁子サンは、いろいろ変わったものを持ってるよ。
 どこでどうやって手に入れてるんだろうなぁ・・・
 さてと、おしゃべりはこの位にして作業を続けないと」
イワイシは、もう一度大きなシ ャボン玉の表面に
右の手のひらを静かに滑らせた。
 
 
 
茶色っぽい箱のふたがゆっくり開いた。 
中から、黒いごつごつした石が浮かび上がった。
 
 
 
「この玉の中に入ってるから、大丈夫だけど、
 実際は、近づくだけでも相当ヤバイと思う」
 
 
 
「・・・コレ、なんかヘンだ。
 見た目はゴツゴツしてるけどさ、
 触ったら、水を含んだスポンジみたいに
 ブワブワしてんじゃないのか?」
 
 
 
「ハシバ、すげーじゃん。
 外から見ただけでわかるんだな。
 そうだよ、たぶん、かなり柔らかいはず。
 ・・・もっとも、コレが発しているエネルギーを
 直に感じたら、絶対に触ろうなんて気にはないけどな」 
  
 
 
 


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