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お話し小箱。「好きに動かしてみよー」16 

 
 
 
 
 日曜日。
K駅の改札に向かって歩いていた透は、数メートル先に、
ケムリらしい後ろ姿を見つけた。
 
 
 
(あの人、ケムリかなぁ・・・もう少し背が高かったかも?)
 
 
 
その人物は改札を抜けると左に曲がり、人の流れから離れて、
振り返った。やっぱりケムリだった。透を見て笑った。 
 
 
 
「ハシバくんって目力あるんだねぇ」
 
 
 
「は??」
 
 
 
「目力なんていうと語弊があるけど、目で圧力をかけられるみたいだ。
 視線が強いよ。後ろにいるってすぐわかった」
 
 
 
「はあ・・・」
透はどう反応すればいいのかわからなくて、曖昧な言葉を返した。
 
 
 
「別に悪いことじゃないけどね。
 探さなくても、どこにいるのかすぐにわかるし。
 そういう眼をしてるから・・・」
その時、女子高生の一団が大騒ぎしながら透とケムリの横を
通り過ぎていった。
ケムリの言葉は、聞き取れなかった。
 
 
 
「じゃ、行こう」
何事もなかったようにケムリは歩き出した。
聞き返したかったけれど、タイミングを逸したような気がして、
透は話しかけられなかった。
 
 
 
「イワイシのマンションに行くのはこれで二回目?」
赤信号で立ち止まったときに、ケムリが訊ねた。
 
 
 
「はい。あのスゴイ店より、こっちの方がいいです」
 
 
 
「スゴイ店ってそんなにすごいんだ」
 
 
 
「居心地悪くて、落ち着かないです。僕は完全に浮いてます」
 
 
 
「ふーん・・・スゴイ店には何度か行ったの?」
 
 
 
「一回だけです。もうこりごり」
 
 
 
「正直だなぁ」
ケムリは笑った。 
 
 
 
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「どこで暁子サンと会うことになっているんですか?」
白いマンションが見えてきたあたりで透はケムリに訊いてみた。
 
 
 
「喫茶店らしいけど、詳しい場所は聞いてない。
 ハッキリ言って気が進まないなぁ。
 
 俺が元凶なんだけどさ。
 でも、イワイシは自分のミスだと思ってる」
 
 
 
「ふーん・・・
 僕は全然何もわかってないんですけど、
 いいんですかね?」
 
 
 
「イワイシが話さないのが悪いんだ。
 俺は、余計なこと言うなって釘を刺されてるし。
 でも何が余計なんだか」
 
 
 
「・・・自分のことを知られたくないんじゃないかな?」
 
 
 
「お、鋭いな。たぶん、そうなんだろうなぁ」
 
 
 
「でも、ケムリさんは、イワイシのこと、
 かなり知ってるんでしょう?」
 
 
 
「うーん・・・どうかな?
 奴が何を考えているかなんて知らないし
 アイツが関与している出来事について、
 イワイシ自身がどう考えているかはわからない。
 俺の意見を言うと、知ったような口を叩くんじゃねぇって
 またブチ切れるんだろうな」
 
 
道路から少し入ったころにある自動ドアを通り、
ガラスの自動ドアの横のオートロックシステムの
操作盤の前で立ち止まると、ケムリはテンキーで
「1104」と押した。
すぐにガラスのドアが開いた。
 
 
 
二人は住人専用のロビーを左に曲がり、集合ポストの先の
エレベーターに乗った。
 
 
 
エレベータを降りて、イワイシの部屋の前まで来ると
ケムリがブザーを押した。
 
 
 
ドアが開いてイワイシが顔を出した。
「駅から一緒に来たのか?」
 
 
 
「ああ。ハシバくんの目力に呼び止められた」
 
 
 
「はあ? なんだそりゃ?」 
前回のように、イワイシはリハーサル中の俳優とかダンサーのような
ラフで動きやすい格好をしていた。
 
 
 
室内に入ると、おいしそうな匂いがただよっていた。
 
 
 
「午後から出かける。昼飯は用意してあるから」
 
 


 
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「で、どうするつもりなんだ?」
白っぽいラグの上に腰をおろしたケムリはイワイシを
見上げて言った。
 
 
 
「どうするって?」
銀色のトレーに水の入った透明なコップを運んできた
イワイシが聞き返した。
 
 
 
「暁子サン対策。川瀬クンのこと、怪しんでいるんだろ?」
 
 
 
「ああ。でも、ハシバがいるし、お守りもあるし、なんとかなる。
 怪しまれてるのは事実だけどな。
 正直に説明するっていっても、何をどう話せば
 納得してもらえるのかわからないし。
 ・・・それに、あんたがマトモに説明できるとも思えない」
 
 
 
ケムリは一瞬ムッとした表情を見せたが、何も言わなかった。
 
 
 
「暁子サンに隠し事ができるとは思えないんだけど。
 ・・・本当に何もしなくていいのか」
透は心配になった。
 
 
 
「暁子サンが質問するにしても、ごく一般的な内容のはず。
 どうやって自分が知り得たか、
 説明しなきゃならないような点については
 質問しないよ、たぶんね。
 俺がキレるのはわかってるだろうから。
 まあ、気づかれないように細心の注意を払って、
 川瀬クンの情報を得ようとするかもしれないけど。
 違和感があるってこと、ばあちゃんは絶対に話すし。
 
 でも、何もしないわけじゃない。
 だから事前に来てもらったんだ」
イワイシは水の入った三つのコップをローテーブルに置い た。
そのうちの一つを手に取ると、中の水を飲み干した。
そしてケムリに向かって
「ハシバに調整してもらったんだろ、お守りを見せてくれ」
と言った。 
 
 
ケムリはポケットから赤い石を取り出すと、イワイシに渡した。
 
 
 
イワイシは天井の光にかざすようにして、石の中を覗き込んだ。 
「・・・やっぱりスゴイなぁ」
 
 
 
「何がスゴイんだ?」
透が尋ねると、イワイシは石を差し出した。
 
 
 
「見てみろよ」
 
 
 
透が石の中を覗き込むと、中の針金は、渦巻きのような形に
なっていた。
水の流れのようにも見える。
本当に何かが流れているようだった。
「前に見たときと違うなぁ・・・」
 
 
 
「それ、ハシバがやったんだぞ」
 
 
 
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「・・・ふーん。
 俺がやったなんて言われてもなぁ。
 渡された石を持っただけなのに」
 
 
 
「そうだろうな。
 自分の力とか、そいういう実感なんかないだろ?
 なんだかよくわかんないけど、
 勝手に変化しちゃったって感じなんじゃないか?」
 
 
 
「うん、ホントにそんな感じだ。
 別に石に触るのは俺じゃなくてもいいんじゃないかとか、
 誰がやったって勝手に変わるんじゃないかって
 思えるよ」
透が答えると、イワイシはケムリの方を見て言った。
「・・・シンとかなんとかって言われてもさ、
 ハシバと同じで実感なんかねーんだよ。
 自分の意志とは関係なしに、
 勝手にいろいろなことが起こるだけだ。
 それをあーだこーだと言われ続けるのは、不愉快なんだよ」
 
 
 
ケムリが何か言いかけたが、イワイシはそれを遮った。
「別に責めてるわけじゃない。
 言わされてる部分があるのはわかってる」



イワイシはケムリから視線を外すと、低い声で呟いた。 
「・・・自分の力って感じがないんだから、
 やり方なんかわからないし、どうしてそうなるかもわからない。
 いつできなくなってもおかしくないんだ」
  
 
 
(確かにそうだよな・・・
 これまで、俺が石を持つと何かしら変化が起こってたけど、
 それがこの先も続くかどうかはわからないし、
 自分の力でやっているって感覚もない。
 毎回確実にできるかだってわからない・・・
 
 だけど、イワイシの場合は違う気がする。
 わからないこともそれなりにあるのかもしれないけど、
 わかってることの方が多いような気がする)
 
 
 
「でも、全部が全部そうじゃないだろ?」
ケムリが静かな声で言った。
「わからないのもあるだろうけど、わかってるのもあるはずだ。
 でも、自分がわかってるって認めたくないんだろ?
 お前がコントロールできる力ってことになるからな。
  
 ・・・こういう話題がムカつくのはわかってるけどさ、
 俺だってある程度は把握してるって言っておいた方が
 よさそうだからな」
 
 
 
「確かにね、わかってる部分はある。
 わかりたくなかったけどな。
 でも、知らないほうがよかったってわかるのは、
 知った後なんだ。
 
 ハシバに説明するのは簡単だ。
 でも、知らない方がいいこともたくさんある」
 
 
 
(知らない方がいいこともたくさんあるって、
 イワイシは何度も言ってるよな・・・
 よっぽど知りたくなかったんだろうな)
 
 
 
「知らないほうがいいって、
 ハシバにはしつこいくらい 何度も言ってるなぁ」
イワイシは自嘲気味に言った。
 
 
 
「でもホントなんだ。
 知ることで見えてくるものがあるのは事実だけど、
 見なくていいものまで見えてしまうこともある。
 ・・・知らないままでいるほうが安全だって結論になった。
 安全っていうか幸せっていうか。
 まあ、どっちでもいいけど。
 
 ケムリにとっては、俺は秘密主義者みたいなんだろうな。
 もしくは、自分のことを話したくないって理由で、
 すべてを伏せる方向に持っていってるって感じなんだろ?
 
 どう思われてもいいけどさ、
 意地悪してるわけじゃないってことは、わかってもらいたいな」
 

 
ケムリは無表情でイワイシの話を聞いていた。
言葉を返すつもりはなさそうだった。
しばらく沈黙が続いた。



「・・・この話はここまでにして、本題に移ろう。
 辺鄙な場所までご足労いただいたんだからな。
 必要なものを持ってくるから、水、飲んでおいてくれ」
そう言ってコップの水を飲み干すと、イワイシは部屋を出て行った。
 
 
 

 
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イワイシが出て行くと、ケムリは大きなため息をついた。
「やれやれ・・・やりにくいなぁ」
 
 
 
「イワイシは、かなりわかってると思います。
 知らないことのほうが少ないんじゃないかな」
 
 
 
「やっぱり?・・ハシバくんもそう思うだろ?」
 
 
 
「はぁ・・ちゃんとした理由があるわけじゃなくて、
 なんとなくの感じなんですけど」
  
 
 
「それが結構当たってるんだよ。
 アイツは妙なところでヘンな責任感を持つからなぁ。
 自分で自分の首を絞めてるようなところがある」
 
 
 
「でも、本人はそう思ってないです・・・たぶん。
 これも、なんとなくの感じなんですけど、
 何かうしろめたいことがあって、ラクしちゃいけないって
 思ってるように見えます。
 あの、うしろめたいって表現があてはまるのかどうかは、
 わかりませんけど」
 
 
 
「あー・・・なるほどね。
 うしろめたい・・・実際そうかもしれない。
 ハシバくんの<なんとなく>は侮れないっていうか
 それ、信じたほうがいい。本質に近いものを見抜いてるよ」
 
 
 
ケムリがひどく感心したように言うので、透は急に照れくさくなり、
水の入ったコップに手を伸ばすと、中身をゴクゴクと飲み干した。
 
 
 
「その<なんとなく>だけどね、ひけらかすことはないけど、
 気のせいみたいに扱うなよ。
 もっともハシバくんは他人に自慢するタイプじゃないけどさ。
 石を扱う力についても、たまたまとか、一時的なものみたいに
 思わないでほしい。
 
 自分の力だって実感がないのは当然だ。
 石に変化を起こしているのは、ハシバくん自身じゃなくて、
 ハシバくんを経由して流れる、ある種の力だから」
そう言うとケムリも水の入ったコップを手に取り、中身を飲み干した。
それからポケットから携帯を取り出し、ちらっと眺めると、
またポケットに戻した。
 
 
 
「じゃ、始めよう」
大きな紙袋を持ってイワイシが部屋に戻ってきた。
壁にかかっている時計をちらっと見てから紙袋を床に置き、
テーブルの上のコップを片づけた。 
 
 
 
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「で、何をやるんだ?」
ケムリが紙袋を覗き込んだ。 
 
 
  
「あんたが石の博物館に行きたいって言った時、
 コイツがあれば大丈夫だと思ってたんだ」
イワイシはポケットをごそごそやって何かを取り出した。
<魔法使いのおばちゃん>の指輪だった。
 
 
 
(あれ・・・?
 真ん中の黒い石、あんなに黒かったっけ??)
 
 
 
イワイシはそれをケムリに向かって放り投げた。
放物線を描いて落ちてきたのをケムリは右手で受け止めた。
 
 
 
「ふーん・・・やっぱりどうってことないのか。
 ハシバは石の変化に気づいたみたいだけど、
 あんたは気がつかないのか?」
 
 
 
「変化?・・・何だか色が違うような気はするけど」
ケムリは掌の上の指輪をしげしげと眺めた。 
 
 
 
「今の状態の指輪に受け入れてもらえるんだから、
 一応、<先生>やってただけのことはあるな。
 
 コイツ、前よりもずっと強力になってるんだ。
 その分、人嫌いの度合いも強くなってる。 
 
 ・・・その指輪があれば問題ないはずだった。
 暁子サンは待機しててくれることになってたけど、
 同席するわけじゃなかったし。
 
 だからあんたが行きたいって言った時、
 特に反対しなかったんだ。

 けど、俺がヘマしたからな」
 
 
 
「あれは不可抗力だったと思うけど」
 
 
 
「違うんだ・・・まあ、その話はあとでいい。
 その指輪、ハシバに渡してくれ」
 
 
 
ケムリが指輪を持った手を差し出してきた。
透は気が進まなかったが、掌を上に向けて右手を出した。
ケムリはその上に指輪を置いた。
 
 
 
「何ともないだろ?」
イワイシが訊いてきた。
 
 
 
「ああ。でも、前より重い気がする」
 
 
 
「へー わかるんだな。
 そうだよ、いくらか重たくなってるんだ。
 ・・・それを両手で包むように持ってくれ」 
 
 
透は言われた通りにした。
 
 
 
「目をつぶって、白っぽい光を 思い浮かべて・・・
 テキトーなイメージで構わない。
 
 これから簡単な呪文を言うから、
 マネしてくれ」
 
 
イワイシが口にしたのはシンプルな呪文でだった。
しかし、まったく意味不明だった。
2,3時間経ってからもう一回言ってみろといわれても
再現するのは難しい感じだった。
 
 
  
一連の呪文を3回繰り返し終わったところで、イワイシが
「はい、おしまい。お疲れさまー」
と言った。
透は目を開けて、手の中の指輪を見た。

 


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指輪は何も変化していないように見えた。
透は指輪を目の高さに持って、しげしげと眺めた。
 
 
 
「!!」
 
 
 
石の表面で何かが動いた。
なんだろうと思って見ていると、それは自分の目だと気づいた。
自分の目がハッキリと石に映っていた。
「石が鏡みたいになってる・・・」
 
 
 
「<鏡みたい>じゃなくて、鏡になってるよ」
 
 
 
「これ・・どうするんだ?」
 
 
 
「暁子サンに会う時に使う。
 ケムリはこれを首にかけてくれ。
 チェーン、貸すから。
 ただし、外から見えないようにしてくれよ」
 
 
 
「了解。
 ・・・これって何の意味があるんだ?
 またオマジナイとか言われそうだけど」
 
 
 
「反射」
イワイシは短く答えると、紙袋の中から細い鎖を取り出し、
ケムリに渡した。
「これ、使えよ」
 
 
 
透は部屋の天井や窓際の観葉植物が
指輪の石に映るのを眺めてから、ケムリに返した。
 
 
 
「反射って、どういう意味だ?」
ケムリは鎖に指輪を通して首にかけると、
シャツのボタンをはずし、服の内側に入れた。
 
 
 
「暁子サンからのアクセスを反射する。
 要するにそのまま跳ね返して、遮断するってことだ。
 アクセスって表現が適当かどうかは微妙だけど。
 
 彼女、五感以外の方法でも情報を取りに来る。
 たぶん、無意識にやってる部分もあるんじゃないかな。
 
 外からのアクセスも反射するけど、
 中から出て行くものも遮断する。
 
 みんな無意識にいろいろなものを発信してるんだ。
 どんなものをどういう風に発信しているのか、とか、
 どの程度の強さなのかっていうのは人それぞれだけど」
 
 
 
「そんなことをしたら余計怪しまれるんじゃないのか」
 
 
 
「もともと怪しいんだ。
 今更取り繕ってもムダなこと。
 
 怪しまれてるのもわかってるし、
 情報を取りに来てるのもわかってるっていう
 明確なメッセージを送るのも悪くないなって思ったんだ」
 

 
 
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