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お話し小箱。「好きに動かしてみよー」 15 

 

 
 
 


 
 
夕方のラッシュが始まる少し前。
電車から降りた透は、自動改札に向かってゆっくり歩いていた。
後ろから肩を叩かれて振り返るとケムリが立っていた。
 
 
 
「時間ある?」
 
 
 
「え、あ・・・ああ、大丈夫ですよ」
 
 
 
「じゃ、前に行った喫茶店でちょっと話そう」
 
 
 
改札を出て、山からの帰りに寄った喫茶店へ向かう途中、
透は前から気になっていたことを質問した。
 
 
 
「どうして俺が乗ってる電車がわかったんですか?
 暁子サンも先生も、この駅で声かけられたんですよ。
 毎回同じ時間の電車に乗ってるわけじゃないのに」
 
 
 
「野生のカン」
 
 
 
「は?」
 
 
 
「俺は、パッとひらめいたことに従ってるだけ。
 たぶん暁子サンも先生もそうだと思う」
 
 
 
「そんなんでわかるんですか?!」
 
 
 
「どの電車に乗るか、直前まで決めてないんだろ?
 本人だってわかってないんだから、
 どうやって決めようと、当たる時は当たるんだよ」
 
 
 
 
 
5分ほど歩いて、小さな喫茶店についた。 
前回と同じ位置の白いテーブルをはさんで、
透はケムリと向かい合って座っていた。
 
 
 
「ご注文は?」
人懐っこい笑顔を浮かべたマスターが、
透たちのテーブルに来て、
水の入ったグラスを二つ置いた。
 
 
 
「俺はいつもの。この人には、チャイ。
 今回もちょっとだけ甘さ控えめで」
 
 
 
「はい、了解。
 ・・・もしかして、**高校?」
マスターは透の制服をちらっと見て訊いた。
 
 
 
「あ・・・そうです」
 
 
 
「へえ・・・じゃ、僕は大先輩なんだな。
 ゆっくりしてってね」
 
 
 
 
 
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「・・・今度の日曜日のことだけど」
ケムリは水を一口飲むと話し始めた。 
 
 
 
「俺は全然行きたくないし、
 イワイシもすげー嫌がってる。
 ま、仕事だから、奴の場合は、
 しれっとしてこなすだろうけど」
 
 
 
「・・・僕も行くことになってますけど、必要あるんですか?」
 
 
 
「もちろん。いてくれないと困る」
 
 
 
「どうしてですか? 
 イワイシさんが川瀬クンを紹介すれば
 済む話じゃないんですか?」
 
 
 
「表面上はそうかもしれないけど、実際は違う」
 
 
 
「どういうことですか?」
 
 
 
「その場にいることが重要なんだ。
 俺には見えなかったけど、山に行った時、
 緑色の髪の女の人がいただろ?
 彼女、三人で行動するようにって言ってたみたいだけど、
 それってあの山での行動に限ったことじゃないらしい。
 ・・・イワイシが言ってたんだけどね。
 
 で、あいつは、その必要性を実感したらしい。
 俺にはわかんないけど。
 
 今回の場合は、オトナぶったイワイシと、
 川瀬クンという最悪な取り合わせだから、
 ハシバくんがいてくれないと間が持たない。
 だから絶対に来てもらわないと困るって思ってるんだけど」
 
 
 
「僕がいたら間が持つんですか?」
 
 
 
「もちろん。
 それと、イワイシが言うには、川瀬クンの不審な点が
 目立たなくなるらしい。
 不審な点って、俺のことなんだけどね」
 
 
 
 
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ケムリは水を飲むと言葉を続けた。
「川瀬クンっていうのは、役柄みたいな存在だから、
 俺としての意識や記憶や感情が当然ある。
 なるべく出さないようにしてるけどね。
 でも、ばあちゃんが薄々感づいてるくらいだから
 暁子サンは間違いなく気づくだろう」
 
 
 
「僕がいたら、不審な点が目立たなくなるって・・・
 暁子サンにバレないで済むってことですか?」
 
 
 
「バレないで済むとは思えない。
 でも、バレたとしても、暁子サンは黙ってるかもしれない。
 いずれにしても場の空気は、かなり微妙だろうなぁ。

 川瀬クンとハシバくんがフツーに会話してたら、
 ビミョーな空気が和らぐのかもしれない。
 ・・・違うかもしれないけど。
 
 ま、ええかっこしぃのイワイシさんのことだから、
 絶対にボロが出ない方法を必死で考えているんだろうよ」
ケムリの言葉が途切れたところでかすかな電子音が聞こえた。
 
 
 
「ごめん、ちょっと確認させて」
ケムリはポケットから携帯を出した。
 

透は暗くなり始めた空をガラス越しに見上げた。 
 

  
「お待たせしました」
マスターがコーヒーとチャイを運んできた
 
 
 
マスターはコーヒーをケムリの前において 
「二人は親戚なんですか?」
と訊ねた。
 
 
 
「・・・似てるかな?」
 
 
 
「ええ、雰囲気っていうか、なんとなくの印象が似てますね。
 もし、お姉さんがいるなら、ぜひともお会いしたいなぁー」
マスターはチャイを透の前におくと、くりくりした目で透を見た。
透は困惑して目をそらした。
 
 
 
「親戚じゃないんだけど、似てるって言われたことは二回目ですよ。
 雰囲気が似てるって、どういうことなのかイマイチわかんないけど」
 
 
 
「目鼻立ちとかじゃなくて、全体から受ける印象がね・・・
 この店のサイトを作るとしたら、二人がこうやってコーヒーとか
 飲んでる写真を使うといいんだろうなぁ・・
 もっとも、女性客ばっかりになっちゃうだろうけど」
マスターは伝票をテーブルの隅に置くと、
「ごゆっくりー」
と言って、キッチンの方へ戻っていった。 
  
  
 
「ん? 何? 顔になんかついてる?」
ケムリが怪訝そうに言った。
 
 
 
「あ、すみません・・・マスターが似てるって言ったから、
 どこが似てるのかなぁと思って」
 
 
 
「・・・似てないと思うよ。
 ハシバくんとイワイシは、似てるけどな」
 
 
 
「は? 顔も雰囲気も全然違いますよ」 
 
 
 
「もしかして、俺がイワイシのことガキくさいって言ったから
 一緒にされたくないと思ってる?」
 
 
 
「いや、そういうわけじゃ・・・」
 
 
 
「ばあちゃんが似てるっていうの、わかるよ。
  死んだおじいさんの顔は知らないけど。
 
 イワイシに会ったのは、先生とか暁子サンとかの紹介だろ?
 二人並べてみたくなる気持ちはわからなくもない」
 
 
 
「なんですか、それ・・」
 
 
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ケムリは香りをゆっくり味わってからコーヒーに口をつけた。
「イワイシさんにも似てるけど、
 ハシバくんはイワイシによく似てるよな。
 
 ・・もっとも、自分では全然似てないと思ってる人物に、
 似てるとかソックリって言われるのは不本意だろうし、
 気分が悪いと思うから、この話は終わりにするよ。
 
 ハシバくんと俺が似てるっていうのは、俺も納得できないなぁ」
 
 
 
「あの・・・今度の日曜日のこと、
 イワイシと話したんですよね?
 なんて言ってました?」
 
 
 
「いろいろあるんだけどね・・・
 えーと、まず、手伝ってもらいたい重大な作業があるんだ」
ケムリはポケットに手を突っ込んだ。
 
 
 
「これ、イワイシに作ってもらったんだけど、
 ハシバくんに調整してもらえって」
ケムリはテーブルの上に乳白色の小さい石を置いた。
 
 
 
「・・・調整? 僕が?」
石はオパールのような虹色の光を帯びているように見えた。
手にとってみたいと思いつつも、何となく手を出しかねていると、
「触っても構わないよ。中を見てみろよ」
とケムリが言った。
 
 
 
透は慎重に石を つまみあげた。
指が触れた瞬間から、眉間のあたりがピリピリする感じがしたが、
目の高さに持ち上げると、それがさらに強くなった。
 
 
 
石の中には、透が持っているお守りと同じように、
規則的な模様のようになった針金の塊が入っていた。
 
 
 
「これって・・・あの・・・あなたのお守りですか?」
透はケムリをどう呼べばいいかわからず、とりあえず
“あなた”を使ってみたものの、違和感がありすぎて苦笑した。
 
 
 
ケムリは透の状況を察知したようだった。 
「・・・ケムリでいいよ。
 川瀬クンのときは、カワセクンにしてくれ」 
 
  
 
「はい・・・でも、あの、調整って・・・?
 どうやって?」
透は左手の人差し 指と中指で眉間を押さえた。
痒いとも痛いとも言い難い、何とも変な感じがした。
 
 
 
その瞬間、右手に持っていた白い石が、
フラッシュをたいたように強く光った。
 
 
 
透は思わず目を閉じたが、光の残像が紫色の影になって、
瞼の裏側にくっきりと見えた。
 
 
 
「大丈夫か? 
 ったく、イワイシの奴・・・こういうことだったのか。
 ごめん、石を渡せばわかるって言われてたから・・・」
 
 
 
透はきつく眼を閉じてから、ゆっくりとあけてみた。
しばらくの間、点描のような残像が、
視線の動きに合わせてつきまとっていたが、やがて薄れていった。
 
 
 
 
 
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透はもう一度きつく眼を閉じてから、
右手に持っていた石を見た。
乳白色だった石は、ルビーのような鮮やかな赤に変わっていた。
「・・・色が変わっちゃいましたけど・・・」
 
 
 
「イワイシは、真っ赤になるって言ってたけど、その通りだな。
 マトモに光を見ちゃったみたいだったけど、大丈夫か?」
 
 
 
「大丈夫です。しばらく残像が残ってましたが、消えました」
透はそう言って、石をケムリに返した。 
 
 
 
「!!」
石を受け取ったケムリは目を見張った。
 
 
 
「え?・・・何かヘンですか?」
 
 
 
「あ、いやその ・・・一瞬で変化したから。
 色だけじゃなくて、完全に別の石みたいになってる。
 中に入っている・・・・えーと、その、針金も・・・
 見た目の模様は変わってないように見えるけど、
 こっちもすごく変化してる」
 
 
 
(針金って、ちゃんとした名前があるんだろうな。
 俺には言いたくないのかな。
 イワイシとケムリがしゃべってる言葉でしか
 表現できないのかもしれない)
 
 
 
「ハシバくんのお守りを見て、ここまで合わせられるのかって
 びっくりしたけど、最終調整は本人がやってたんだねー」
 
 
 
「ケムリ・・ケムリさんのお守りも、ちゃんと合ってるんですか?」
 
 
 
「ケムリさん?!・・・まあ、いいけどさ」
透は、どう見ても年上に見えるケムリを呼び捨てにできなくて、
さん付けにしたのだが、ケムリはそれが奇異に感じたようだった。 
ちょっと不満そうな顔をしたものの、すぐに真剣な表情になり、
透明感のある赤い石の中の針金の塊に目をこらした。 
 
 
 
「自分が何をしたか、全然わかってないんだな・・・
 ハシバくんがこの状態のままでいいのかどうか、
 俺にはわかんないんだけど。
 イワイシが何も言わないんだったら、
 これでいいのかもしれないが」
 
 
 
「イワイシは、受け取る準備ができてなかったら、
 何か情報を得ても意味がない、みたいなことを言ってたから、
 今の段階では、僕に話すつもりはないだと思います」
 
 
 
「ふーん・・・準備ができてないとは思えないけどなぁ。
 準備ができてないんだとしたら、
 それは奴が何も喋らないせいじゃないのかなぁ」
ケムリはコーヒーを飲んだ。 
「冷めないうちに飲んでよ」 
 
 
 
「はあ」
ケムリに促されて、透はチャイを飲んだ。
ほんのりした甘さとスパイシーな香りが心地よかった。
 
 
 
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