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お話し小箱。「好きに動かしてみよー」13 


 
 
 
浮かび上がった四角い形が、
キィィッと音をたてて手前に開いた。
 
 
 
「この中に、今日修理する棚を入れておいたんだ。
 もともと、ここに入っていたんだけどね」
イワイシは10センチほど開いた扉を
大きく開け放った。 
 
 
 
落ち着いた雰囲気の木製の棚が置かれていた。
上半分は観音開きの扉で、
その下には、薄い引き出しがたくさんついていた。
 
 
 
「もともと入ってた?? 
 完全に隠れてるのに、なんでわかったんだ?」
透は棚に近づいた。
棚に使われている材料など、
これまで気にしたことはなかったし、
見たところで何かわかるわけでもないのだが、
目の前の棚は、とても重々しい 雰囲気だったので、
合板などではなく、しっかりした木が使われているようだと思った。
 
 
 
「えーとね、棚はここに入ってたんだけど、
 おじいさんが、外に出したんだ。
 何か不具合があって自力で修理しようとしたか、
 もしくは・・・自分の死期を悟って、
 このまま壁の中に入れておいたら、
 誰も気づかないと思って、外に出したか・・・
 そんなとこだと思う。
 
 いずれにしても、かなり長い時間、
 棚は外に出してあった。
 だから、中に入れておいた石は、
 ダメになっちゃったんだ・・・
 それだけが理由じゃないけどね」
 
 
 
「ほかの理由は?」
ケムリが尋ねた。
 
 
 
「この棚の仕組み。
 
 石を守るように作ってあるし、
 実際にちゃんと作用するんだけど、
 有効期限があるんだ。
 
 設計者は、想定してなかったんじゃないかな」
 
 
 
「それで、モディファイしたのか?」 
 
 
 
「・・・俺が手を加えた4つの棚、全部見て回ったらしいな」
 
 
 
「どうなってるのか、わからなかったから・・・
 実物を見ても、結局わからなかったけど。
 
 でも、あの設計図は完璧だった。
 少なくとも俺にはそう思えた」
 
 
 
「確かにあの設計図はスゴイ。
 最初に基本設計を考えた奴は天才だと思う。
 でも、あれは、一人の人間が作り上げたものじゃないんだ。
 何人もが手を入れて、何度も改訂しているはず。
 
 それでも、完璧なものなんて作れない。
 俺が手を加えたものだって、完璧とは程遠い。
 延命処置みたいなもんだ。
 
 でも、妥協してるわけじゃない。
 現時点でできることをやるしかないから、
 それをやってるつもりだ」
 
 
 
なんだか自分自身に言い聞かせてるみたいだ、と
透は思った。
<今、やっていることは、間違ってない>
それを確認せずにはいられないのかもしれないと
感じた。
 
 

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「棚をここから出すぞ。
 中は空っぽだから、それほど重くない」
 
 
 
「どうやって?
 ぴったり入ってるから、手をかけられないよ」
透が言うと 、イワイシはちょっと考え込んだ。
 
 
 
「うーん・・やっぱりハシバには
 もう少し説明しないといけないのかなぁ」
 
 
 
「何を?」
 
 
 
「えーとね・・そうだなぁ・・
 まあ、今日はいいや。また別の機会に説明する。
 
 これはね、手で引っ張り出す必要はないよ」
 
 
 
「ふーん・・・じゃあ、どうやるんだ?」
 
 
 
「ロープでも太い綱でも、何かひも状のものを
 思い浮かべて、それをこの棚にひっかけて、
 ひっぱるイメージをすればいい」
 
 
 
「そんなことで、この棚が動くのか?
 空っぽって言っても、結構重そうに見える」
 
 
 
「じゃ、動くかどうか、実際にやってみよう。
 ・ ・・あんたも一緒にやれよ」
イワイシはケムリの方をちらっと見て言った。 
 
 
 
「了解しました。ご一緒させていただきます」
ケムリは丁寧な言葉を返してきた。
ふざけているのか、それとも真面目に言っているのか、
透にはわからなかった。
イワイシが怒り出すかと思ったが、
かすかな驚きを示しただけだった。
 
 
 
「3人で同時にやりたいから、簡単に誘導する。
 目をつぶって・・・
ひもでもロープでもイメージして・・・
 それを棚にひっかける。
 どんなやり方でもいい。
 ひっぱれば前に出てくるだろうと思える方法なら
 何でもいい・・・
 じゃ、引っ張って・・・ほら、出てきた」
 
 
 
イワイシの言葉を聞いて、透が目を開けると、
棚は壁際に置かれていた。
さっきまで棚が入っていた壁のくぼみは消えていた。
 
 
 
「・・・いつの間に?」
 
 
 
「いつの間にって、今、みんなで動かしたじゃないか。
 イメージのロープをひっかけて引っ張っただろ?」
 
 
 
「引っ張ったけど、それはアタマの中だけのことだし、
 ただイメージしただけじゃないか」
 
 
 
「そう思えるのかもしれないけど ・・・
 じゃあ、棚がここにあるのはどう説明する?
 俺が魔法を使ったってことにした方が信じられる?」
 
 
 
 
 
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「・・・うーん・・・魔法っていうのもなぁ。
 確かに不思議なことはたくさん起こっているけど」
 
 
 
「そのうち辻褄が合ってくるよ。
 無理に理解しようとか、信じようとしたって、
 腑に落ちなかったら、結局は納得できないんだから。」
イワイシは棚の前にしゃがみ込むと、
一番下の引き出しを手前に引いて、
軽く持ち上げるようにして外した。
 
 
 
ケムリは興味深そうに見つめている。
 
 
 
引き出しを外してできた空間の奥から 、
細い銀色の糸のようなものふわふわと流れ出した。
 
 
 
「・・・あっ!」
イワイシが声を上げた。
そして床にはいつくばるようにして、
右手を棚の中に突っ込んだ。 
 
 
 
イワイシの様子がおかしいと透は感じた。
ひどく混乱しているような印象を受けた。
 
 
 
「どうしたの?」
透が尋ねたが、イワイシは答えない。
 
 
 
イワイシは棚の中から右手を引き出した。
青白い石を握りしめていた。
すぐにそれを顔に近づけ、凝視した。 
 
 
 
(目の感じがいつもと全然違う・・)
 
 
 
「このままにしておいたら死んじゃう・・・」
 
 
 
イワイシが言っているとは思えないほど、
か細く、不安そうな声だった。
見開いた目から、大粒の涙がぼろぼろこぼれた。
 
 
 
「おい、どうしたんだよ!」
ケムリの言葉に、イワイシはハッとして周囲を見回し、
透が全く理解できない言葉で何か叫んだ。
 
 
 
ケムリはそれに応えるように何か言ったが、
イワイシの耳には入っていないようだった。
 
 
 
てのひらの上の青白い石は、ゆるやかな点滅を始めた。
 
 
 
ポケットに石を突っ込むと、
イワイシは、茶色いボストンバッグに駆け寄った。
 
 
 
もどかしそうにファスナーを開けると、
中から透明な玉を連ねた長い首飾りを出して、
自分の首にかけた。
 
 
 
さらに、バッグの中をごそごそやって、
三角錐のような形の 大きな水晶を出した。
 
 
 
イワイシの瞳の色は金色に変わっていた。
髪の色は、色素が抜けたようになって、
白っぽく光っている。
透は息をのんだ。
隣にいるケムリも、ものすごく驚いているのが
はっきり感じられた。
 
 
 
 
 
 
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イワイシはポケットから石を取り出した。
左手のてのひらに乗せ、顔の高さまで持ち上げた。
そして、大きな水晶を握った右手を高く差し上げた。
 
 
 
乾いた音とともに、水晶から白い光がほとばしった。
イワイシは呪文のような言葉を唱えながら、
水晶を青白い石に近づけた。
白い光が石の中に吸い込まれていく。
 
 
 
再び乾いた音が響いた。
部屋の四隅に置かれた鈍い金色の石から
レーザー光のような直線的な赤い光が放射された。
天井や壁を走査するように、角度を変えながら動いていたが、
やがて、石と石の間をつなぐような形で収束した。
壁に沿った低い位置に、
鮮やかな赤い光のロープが張られたようだった。
 
 
 
水晶の光を吸い込んだ石から
少しずつ青味が消えていった。
強い白い光を放った後、淡いピンク色に変わり
赤味を帯びていった。
 
 
 
石を凝視していたイワイシは、ゆっくりと目を閉じた。
パンッという小さな破裂音がした直後、
石はイワイシのてのひらから消えていた。
 
 
 
透は、何が起こったのか訊きたかった。
しかし 、口の中がからからに乾いていて、
うまくしゃべれなかった。
 
 
 
ケムリも茫然と立ちつくしていた。
 
 
 
その時、低い電子音が聞こえた。
 
 
 
イワイシは水晶を足もとに静かに置くと、
茶色いボストンバッグに駆け寄り、
着信の点滅を繰り返している携帯電話を取り出した。
 
 
 
携帯電話を耳元に持っていった瞬間、
白っぽく光っていた髪は、いつもの色に戻った。
 
 
 
「・・・ご心配おかけして申し訳ございません。
 大丈夫です。問題ありません。
 
 棚の奥に残っていたエネルギーが
 想像以上に大きかったので・・・
 
 少しずつ逃がそうとしたのですが、
 コントロールがうまくいきませんでした。
 
 棚も部屋も破損はしていませんが、
 念のため、引き渡しの際に、
 確認していただけるとありがたいです。
 
 もうしばらくかかります。
 終了しましたら、ご連絡いたします」
 
 
 
落ち着いた口調だった。
先程のか細い声とは、全く別人の
<イワイシさん>の声になっていた。
 
 
 
 
 
 
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「・・・ふう・・・喉が乾いた・・・」
 
 
 
イワイシは黒いボストンバッグの中から
水のペットボトルを出すと、ふたを開けて飲んだ。
 
 
 
「あんたはさっき水を買ってたな」
ケムリに向かってそう言うと、
バッグの中からもう一本ペットボトルを出して
透に渡した。
 
 
 
「・・・出だしからしくったなぁ・・・
 暁子サンから電話がかかってきちゃったし・・・」
床に置いた水晶を拾い上げると、大きなため息をついた。
 
 
 
「さっきのおかしな行動に対しては、
 いろいろ疑問があるだろうけど、
 それについては、ケムリに聞いてくれ」
イワイシは透に向かって言った。
 
 
 
それから、水を飲んでいるケムリに
「先週、山から帰ってきて、クルマを降りた後、
 ハシバにいろいろ吹き込んだんだろ?
 
 だったら、さっきのことは、あんたから説明しろよ。
 ただし、あんたの個人的な見解を、
 事実みたいに話すんじゃねーぞ」
と、言った。
  
 

「それは、難しいな。ムリだ」
ケムリは静かな口調で応えた。
 
 
 
「なんでだよ?」
 
 
 
「さっきの・・・引き金になったのは・・・
 自分でもわかってるよな?
 
 それを話さないで、ハシバくんに説明するのはムリだ。 
 話すとなれば、俺の個人的見解から説明するしかない」
 
 
 
「・・・ふーん。そーゆーことか。
 じゃあ、俺は記憶の中に爆弾を抱えていて、
 たまにそれが爆発して、頭がおかしくなるから、
 妙な行動をとるってことにしといてもらおうか」
 
 
 
「その爆弾を解体処理しようとは考えないのか?
 一生そのままにしておくつもりか?」
 
 
 
「・・・うるさいッ!
 そんなの、今 話すような内容じゃねぇだろ!
 これ以上ごちゃごちゃ言うなら帰ってくれ!」
イワイシはケムリを怒鳴りつけた。 
 
 
 
(すっごく動揺してるみたいだ・・
 たぶん、言われたくないことなんだな。
 本気で怒ってるのかもしれないけど、
 なんだか・・・悲しそうな感じがする)
 
 
 
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「仕事中だったんだよな・・・邪魔して悪かった」
ケムリは床に視線を落として、辛そうに言った。
 
 
 
イワイシは戸惑ったような表情を見せた。
そして、ケムリに近づくと、俯いて小声で何か言った。
 
 
 
それを聞いたケムリは顔を上げた。
驚いているように見えた。
 
 
 
透には理解できない不思議な音だったが、
『本当に助けが必要になった時には、ちゃんと言うから』
そんな意味を伝えているように感じられた。
 
 
 
「続きをやろう。
 だいぶ時間をロスしてる・・・俺のせいなんだけど。
 あんまり長引かせると、
 また暁子サンから電話がかかってくる」
 
 
 
イワイシは部屋の隅に歩いていって鈍い金色の石に触れた。
「二個ずつ置いといてよかった。
 一個だったら、砕けてたかも」
 
 
 
それから黒いボストンバッグを開けて、
中から濃い緑色の液体が入った瓶を二本取り出した。
 
 
 
「これ、石にかけてくれ。
 目盛りがついてるだろ、それが一個分。
 コップに水を注ぐみたいにして、 
 石の上からかけちゃっていいから」
そう言うと、透とケムリに一本ずつ瓶を渡した。
 
 
 
(見た目よりだいぶ重い・・・かなりドロッとしてるのかな?)
 
 
 
透は石の前にしゃがみこむと、瓶のふたを開けた。
不思議な香りが広がった。
 
 
 
(これ、知ってる匂いだ。何だったっけ??)
 
 
 
懐かしくて、記憶のどこかにひっかかる香り。
思い出せそうで思い出せない。
 
 
 
(何だっけ・・・どこで・・何の時だったっけ・・・)
 
 
 
ちょっとした手がかりが浮かべば、
すぐに何の香りだったか思い出せそうだった。
でも、思い出せない。
 
 
 
瓶を傾けて、石の上から緑の液体をかけると、
周囲に 垂れて流れることなく、
そのままキレイに吸い込まれていった。
 
 

石と石の間を繋いでいる赤い光が、眩しいくらいに強くなった。
 
 
 
「終わったけど、瓶はどうする?」
 
 
 
「持って帰るから、返してくれ」
イワイシは目を細めて赤い光を見つめていた。
「そろそろいいかな」
 
 
 
 
 
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