もくじのページ
http://www.m2-dream.net/?page_id=1458

 
 
 

お話し小箱。「好きに動かしてみよー」12 


 
 
 
 

 
日曜日。
透はS駅のロータリーでイワイシを待っていた。
 
 
2台のタクシーに続いて、
シルバーメタリックのセダンがロータリーに入ってきた。 
「わ」ナンバーだ。 
 
 
 
透は車道に近づいた。
運転しているイワイシが見えた。
クルマが透の前で止まると、
すぐにドアを開けて乗り込んだ。 
 
 
 
「おはよ」
後ろから声がした。
振り返ると後部座席にケムリがいた。
 
 
 
(好青年スタイルとか言ってたけど、
 先週と変わらないみたいだなぁ・・・
 服装は、ケムリのイメージとはだいぶ違うけど)
 
 
 
「シートベルトした?・・・じゃ、 出発」
イワイシはそういうと、サイドブレーキを戻して
アクセルを踏んだ。
 
 
 
「・・・あの、ばあちゃんには、何て・・・」
透が言いかけると、イワイシは笑った。
 
 
 
「ハシバって、結構心配症なんだなー
 気遣いのヒトだったんだ」
 
 
 
「・・・」
 
 
 
「ばあちゃんには、今日の作業の助っ人として
 一人連れて行くって話してあるよ。
 
 コイツの目つきの悪さに、
 ばあちゃん、イヤな気分にならなきゃいいんだけど」
 
 
 
「・・・うるせーな。
 立派な好青年を演じるって言っただろうが」
 
 
 
「口でなら何とでも言える。
 少なくとも今の状態じゃ、
 目つきが悪いとしか言いようがない」
 
 
 
(ケムリはイワイシの先生だったって言ってたけど、
 どうしてこんなにトゲトゲした会話になるのかなぁ)
 
 
 
「あんたが行きたいって言ったんだからな。
 今回も重いものは運んでもらうからな」
信号で止まると、イワイシはケムリを振り返って言った。 
 
 
 
「・・・わかったよ」
ケムリはヤレヤレといった表情で答えた。
 
 
 
「・・・あの、先週言ってた、それらしい名前って、
 何ですか?」
 
 
 
「ああ、あの話ね。・・・川瀬峻」
 
 
 
「カワセ・シュン?」
 
 
 
「・・・あんたはいいよなー
 相当ぶっ飛んだ名前を名乗らない限り、
 本名だと思ってもらえるもんな」
イワイシがつぶやいた。 
 
 
 
 
_____________________
 
 
 
 
 
 
「確かに本名だとは思ってもらえないかもしれないけど、
 岩石砂塵がお前の名前だってことで、
 ちゃんと通用してるじゃねーか。
 その名前が信用されてるから、仕事の依頼が来るんだろ?」
 
 
 
「・・・うるせーな。何も知らないクセに偉そうに言うなッ」
ケムリの言葉にイワイシはかなりムッとしたようだった。 
 
 
 
(どうしてケムリに対してはいちいちつっかかるんだろ?
 イワイシが一方的に怒ってるみたいだ)
透は窓の外を見た。
 
 
 
特徴のない平凡な街並。
歩道を歩いている普通の人々。
 
 
 
(俺だって、普通の生活を送ってるはずなんだけど、
 本名を名乗らないやつらと一緒に行動してるんだよな。
 考えてみると変な話だ・・・)
 
 
 
「コンビニがあったら、寄ってくれ」
ケムリが言った。 
 
 
 
「わかった」
イワイシがかったるそうに答えた。
 
 
 
「どのコンビニでもいいんだろ?
 この先の店に入るぞ」
 
 
 
イワイシはウィンカーを出してハンドルを左に切り、
クルマをコンビニの駐車場に入れた。
 
 
 
「俺はここで待ってる」
イワイシはエンジンを止めて言った。
 
 
 
「すぐ戻るから」
ケムリはそう言うとすぐにクルマを降りた。
 
 
 
「ケムリはどこから乗ってきたの?」
 
 
 
「ウチの近くまで来させた」
イワイシは正面を見たまま答えた。
 
 
 
 
 
_____________________
 
 
 
 
 
後ろのドアが開いた。 
「水、買ってきた」
 
 
 
イワイシがすごい勢いで振り返ってケムリを見た。
何か言いかけたが、透には聞き取れなかった。
 
 
 
「何ビビってんの?」
ケムリが笑った。
 
 
 
人の良さそうな温厚な笑顔。
まったく別の雰囲気になっていた
(あ・・・あの喫茶店で見たケムリだ)
 
 
 
いかにも誰かの服を借りてきましたという感じだったのに、
明るい色の服がとてもよく似合っている。
 
 
 
イワイシは驚いた表情のままケムリを凝視していた。
 
 
 
やっと口を開いたもののイワイシの声は掠れていた。
「・・・おい・・・正気かよ・・・」
 
 
 
「そんなに驚くことでもないだろ?
 ま、お前はコレをやろうなんて
 考えもしねーだろうなぁ。
 ・・・おっと、言葉づかいに気をつけないと。
 川瀬クンは良家の御子息っぽい設定だからね」
 
 
 
「・・・あの・・・どうしてそんな風に
 一瞬で全然違う感じになれるんですか? 
 本当に別人みたい・・・」
透は先週も感じていたことを質問した。
 
 
 
「別人に見えるなら、大成功だな。
 そうだねぇ・・・どう説明したらわかりやすいかな・・・
 
 えーとね、俺・・・僕は、普段、いろいろなもの を
 受け取ったり送ったり・・つまり情報の送受信みたいなことを
 やってるんだけど、今はそれを意図的に止めてるんだ。
 その上で『川瀬峻』っていうキャラを演じると、
 まあ、別人っぽくなるんだと思う」
 
 
 
「・・・その状態で行く気か?」
イワイシが低い声で尋ねた。
 
 
 
「そうだよ。重い物は持つからいいだろ?」
 
 
 
「でも・・・何で・・・」
 
 
 
「お前とハシバくんがいるし、明らかに危険な場所に
 行くわけでもない。
 もし、何かあったら、すぐいつもの状態に戻せるし。
 ・・・石の関係者にマークされたくないんだ。
 ばあちゃんには、死んだおじいさんに似てるとは、
 言ってもらえないけどさ 」
 
 
 
「・・・どうしてわかるんですか??」
 
 
 
_____________________
 
 
 
 
 
 
「ん? 似てるって言ってもらえないってこと?」
 
 
 
「はい」
 
 
 
「俺・・僕が勝手に思ってるだけなんだけど、
 死んだおじいさんも、僕たちと同じようなやり方で
 情報を送受信してたんじゃないかな?
 
 それで、どこか雰囲気が似てるって感じてるんじゃないかと」
 
 
 
「情報の送受信って・・俺、やってないですよ」
 
 
 
「意識してないだけだよ。
 これまで片頭痛があったのはたぶんそのせい。
 片頭痛が消えたのは、
 ある程度コントロールできるようになってきたから」
 
 
 
「・・・でも、何も感じないし、
 特に何かを伝えようともしてないのに。
 それに、コントロールなんて考えたこともないですよ」
 
 
 
透の言葉を聞いていたイワイシが割り込んだ。 
 
 
 
「そのうち、わかるようになるから。
 今、知る必要はない」
 
 
 
それから、後部座席のケムリを睨みつけて言った。
「ハシバはまだ状況がわかってないんだから、
 アレコレ吹き込むのはやめてくれ。
 
 ・・・クルマ出すぞ」
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
石の博物館に着くまで、誰も何も言わなかった。
前回クルマで来た時と同じように、すんなり駐車場に入れた。
 
 
 
クルマを降りると、
イワイシはポケットから携帯電話を取り出し、
いくつかボタンを押して耳にあてた。
 
 
 
「おはようございます。
 駐車場にクルマを入れました。
 よろしくお願いいたします」
 
 
 
それだけ言うとすぐに電話を切った。
<イワイシさん>の声だった。
 
 
 
(相手はばあちゃんじゃないよな。
 暁子サンが来てるのかなぁ・・それとも先生かな?)
 
 
 
「今回も暁子サンが待機してくれてる」
イワイシがぼそっと言った。
そして、クルマのトランクを開けると、
茶色と黒の二つのボストンバッグひっぱり出した。
 
 
 
「川瀬クンは荷物係だからねー」
ケムリに対して言っているのではなく、
<川瀬峻>に言って いるつもりなのだろう。
とても穏やかな口調だった。
 
 
 
 
 
_____________________
 
 
 
 
 
 
「さて、何から始めるかな」
石の博物館の部屋に入ると、イワイシは、
ケムリが運んできた二つのボストンバッグのうち
茶色い方のファスナーを開けた。
 
 
 
「これ、使う?」
ケムリに向かって差し出したてのひらの上には
<魔法使いのおばちゃん>の指輪が乗っていた。
小粒のパールに囲まれた、楕円形の巨大な黒い石は、
静かな光を放っていた。
 
 
 
ケムリはひどく驚いたようだった。
「・・・お前が持ってたのか」
 
 
 
「へぇ・・・
 川瀬クン、結構強いんだな。
 コレを見たら、素に戻るかと思ったよ。
 
 ここに来た理由は、俺が何をやるのか見たいからだろ?」



「・・・調べたな?」



「悪いか?
 あんたが騙したのが発端だと思ってるんだけどな。
 もっともらしい理由があるんだろうけど、
 後からなら何とでも言える。
 まあ、それはいいとして、川瀬クンの状態だったら、
 見ててもほとんどわかんねーぞ。
 
 これをつけていれば、いつもの状態に戻っても、
 暁子サンに気づかれることはないだろう」
 
 
 
ケムリは指輪に手を伸ばした。
 
 
 
「ただし、この指輪は人を選ぶからな。
 川瀬クンじゃ無理だ。
 もっとも、川瀬クンじゃなければ大丈夫だって保証もないけどな。
 
 指輪に触れる直前に、ケムリに戻って即はめる。
 できるか?」
 
 
 
「できる」
 
 
 
「指輪が拒否する可能性もゼロじゃないぞ」
 
 
 
「わかってる」
そう言うとケムリはイワイシのてのひらから
さっと指輪を取り、右手の中指にはめた。
 
 
 
「おめでとう。
 指輪に嫌われなくてよかったな。
 
 それにしても、笑っちゃうくらい服が似合わなくなったぞ」
 
 
 
「うるさい。
 俺のことはいいから、早く作業を始めろ」
 
 
 
「じゃあ、あんたにすぐ働いてもらおうか」
 
 
 
 
 
_____________________
 
 
 
 

イワイシは黒いボストンバッグを開けて、
中からゴツゴツした鈍い金色の石を出した。  
「まず、これを二つずつ、部屋の隅に並べてくれ」

 
 
 
ケムリはそれを受け取ると、目を見張った。
「・・・おい・・・なんだよ、コレ。
 なんでここにあるんだ?
 そもそも、コレをどうやって手に入れた??」
 
 
 
「先週の日曜日に行った山で拾った。
 川瀬クンじゃ、触れないだろうな」
 
 
 
「・・・今日は驚かされてばっかりだな」
ケムリはため息をついた。
 
 
 
「ハシバも手伝ってくれ」
イワイシは透に向かって石を差し出した。 
 
 
 
「俺が触っても大丈夫なのか?」
 
 
 
「え?」
 
 
 
「だって、川瀬クンは触れないんだろ?
 だったら、俺も触れないんじゃないのか?」」
 
 
 
イワイシはげらげら笑った。
「ハシバって面白いなー」
 
 
 
「まだ状況がわかってないとか言って
 お前がちゃんと話してないからだ」

  
 
「うるせーな。
 こういうことは徐々にわかっていく方がいいんだ。
 自分が全然実感できないことを、
 他人からあーだこーだ言われたところで、
 ハイそうですかって、受け入れられるもんじゃない。
 たとえそれが自分以外の全員にとって事実であっても、
 本人が納得できなかったら、意味がないんだ」
イワイシはケムリの目をまっすぐ見て強い口調で言った。
 
 
 
(なんか、すごく実感こもってる感じだ・・・
 そういう経験があったのか・・・
 あ! 「シン」のことだ!)
 
 
 
何の根拠もない、直感的な印象だったが、
シンという名前に特別な意味があること、
それを受け入れることに対して、
イワイシが強い抵抗感を持っていることを透は確信した。
 
 
 
「・・・余計なこと言ったな。
 悪かった」
ケムリは目を逸らした。
 
 
 
「・・・いいから、石を並べてくれ」
ケムリが素直に謝るとは思っていなかったのか、
イワイシはひどく居心地が悪そうだった。
 
 
 
 
 
  
_____________________
 
 
 


 
部屋の四隅に石が置かれた。
 
 
 
「これ、何か意味があるの?」
透は、石をつっついてみた。
珍しい色ではあるが、あまり特別な感じはしなかった。
 
 
 
「ゲン担ぎのおまじないって思っててくれればいいよ」
 
 
 
「ホントは違うんだろ?」
 
 
 
「まあね。意味があるっちゃ、あるけど、
 ナイって言えばナイとも言えるからさ。
 そのうちわかるよ。
 
 ・・・次の作業に移ろう。
 そこに隠し扉があるんだ」
イワイシは壁を指差して言った。
 
 
 
「隠し扉?」
透は壁に近付いてみたが、壁には溝もくぼみもなく
開閉するための取っ手のようなものもなかった。
 
 
 
「何もないみたいだけど?」
 
 
 
「この鍵を使うんだ」
イワイシはたくさんの鍵がじゃらじゃらとぶら下がった
小さな木の板を持っていた。
 
 
 
かなり古いものらしく、角は摩耗して
丸くなっている。
 
 
 
「死んだおじいさんが使ってたらしいんだけど、
 これ、もっと前から使われていたと思う。
 
 ばあちゃんは<使途不明の鍵束>って呼んでた。
 この隠し扉みたいに、人目につかないところの
 鍵を集めてあるんじゃないかな。
 
 もっとも、今でも使えるのはこのうちの
 ほんの一部だと思うけど」
 
 
 
イワイシはぶら下がった鍵の一つを壁に向けた。
 
 
 
すると、壁に扉くらいの大きさの四角い形が
浮かび上がった。
 
 
 
「へぇ・・・すごいな。完全に隠せるんだなぁ」
透は感心した。
 
 
 
イワイシは浮かび上がった四角の縁と
その周囲を指でなぞった。
何かを探しているようだった。
 
 
 
「何してるの?」
 
 
 
「鍵穴を探してるんだ・・・あ、ここだな」
 
 
 
イワイシが壁に鍵を突き刺すと、
ガタンッと大きな音がした。
 
 
_____________________



 
つづきはこちら
http://www.m2-dream.net/?page_id=8127