もくじのページ
http://www.m2-dream.net/?page_id=1458

 
 
 

お話し小箱。「好きに動かしてみよー」11 

 

 
 
 
 
 
S駅から歩いて5分ほどの小さな喫茶店。 
白いテーブルをはさんで、
透はケムリと向かい合って座っていた。
 
 
 
この店の近くを何度も通っていたが、 
ちょっと奥まった場所にあるせいか、
その存在に、透は全く気がつかなかった。
 
 
 
すっきりした居心地のよい店内。
白い天井に白い壁。
キッチンと客席を区切る壁は小さな白いタイル張り。
ところどころにチョコレート色と
ペパーミントグリーンのタイルがちりばめてあって
おしゃれな雰囲気になっている。
 
 
 
「ご注文は?」
いたずらっ子がそのままオトナになったような雰囲気のマスターが
透たちのテーブルに来て、水の入ったグラスを二つ置いた。
 
 
 
「俺はいつもの。この人には、チャイ。
 ちょっとだけ甘さ控えめがいいかな」
 
 
 
「はい、了解」
マスターは明るい声で 返事をすると
キッチンの方へ歩いて行った。 
 
 
 
「・・・ここ、よく来るんですか?」
 
 
 
「そうだね。まあ、そこそこって感じかな。
 マスターとは友達なんだ」
 
 
 
「・・・あの、ホントに、来週、石の博物館に来るんですか?」
透はS駅のロータリーでクルマを降りる直前に交わされた会話を
思い出していた。
 
 
 
イワイシが「来週の日曜日に石の博物館に一緒に行ってくれ」と
透に頼んだ時、ケムリが「俺も行くからな」と言ったのだった。
それに対して、イワイシが特に何も言わなかったのが、
透にとっては意外だった。 
 
 
 
ケムリは鋭い目で透をまっすぐ見た。
「・・・俺が行ったら邪魔か?」
と、低い声で言った。
  
 
 
「い、いえ、あの、そういう意味じゃ・・・」
しどろもどろになって、透があわてて否定すると、
ケムリは笑い出した。 
 
 
 
「ハシバくんはすっごく面白いねぇ。
 君も、外見と中身のギャップアリアリ仲間だねぇ」
 
 
 
「・・・ギャップなんかないですよ」
からかわれたと感じた透は少しムッとして答えた。 
 
 
 
「そうやって感情を表に出してくれたほうが
 話しやすいな。
 
 ハシバくんってさ、自分の気持ちとか、思ってることとか
 あまり口に出さないタイプだろ?
 
 イワイシも、感情を隠すことが多いけどな。
 アイツは、めちゃくちゃ不機嫌な時のほうが、
 わかりやすくて安心でき る 」
 
 
 
 
 
_____________________
 
 
 
 
 
「おまたせしましたー」
マスターが銀色の丸いお盆の上に
ケムリが注文したものを載せて運んできた。
 
 
 
「最近、どうですか?」
ケムリが話しかけた。
 
 
 
「ご婦人向けの雑誌に紹介されたみたいでね、
 お茶の時間は見事にマダムばっかり。
 男のひとは入ってこれないよ」
マスターは笑いながら答えた。
 
 
 
「正式な取材じゃなくて、
 面白い記事を書く編集者が日記みたいなコーナーに
 ちらっと書いたらしいんだけど」
 
 
 
「正式な取材はないんですか?」
 
 
 
「あるけど、ポツポツって感じ。
 この辺、そこそこ有名な雑貨屋さんがいくつかあるから、
 ショッピングの後のおススメの休憩場所みたいな感じで
 紹介されるんじゃないかな」
 
 
 
「このお店は居心地がいいから、
 一度来たら、たいていリピーターになるんでしょうね」
 
 
 
「そうみたいだねー
 毎週決まった曜日に来るお客さんって結構いるよ」
 
 
 
「目立たない場所だけど、繁盛してるんですねぇ」
マスターの笑顔につられたのか、ケムリもにこにこしていた。 
 
 
 
透は二人のやりとりを眺めながら不思議に思った。
(初めてケムリを見た時、
 どうして、刑事とか悪の集団のボスみたいだって
 感じたんだろう?
 今は、愛想がよくて礼儀正しい、
 普通の人にしか見えないなあ。
 背が高いし、顔が整っているから、
 目立つのは確かだけど・・・)
 
 
 
「・・・冷めないうちにどうぞ」
マスターはクリクリした丸い目で透の方を見て
「チャイは、器が熱くなってるから、コレ使ってね」
と言うと、エプロンのポケットからシックな色合いの
幅広のリボンのようなものを取り出した。
 
 
 
「端っこに指を入れるところがあるんだ。
 こうやって使ってね」
リボンのようなものは革製で、両端に小さなポケットが
ついていた。
マスターはそこに左右の手の指を入れて、器を包むようなしぐさをした。
そして、それを透の前に置いた。 
 
 
 
「ごゆっくりー」
マスターはキッチンへ戻って行 った。
 
 
 
「あの・・・質問していいですか?」
 
 
 
「どうぞ」
 
 
 
「リィンって、イワイシのことですか?
 シンっていうのは、誰かの名前なんですか?」
 
 
 
 
_____________________
 
 
 
 
 
「まいったなー いきなり、それかよ・・・
 さっきからかったから、その仕返しか?」
ケムリはため息をついた。
 
 
 
「ハシバくんは、耳がいいんだな」 
そして、白いマグカップのコーヒーを一口飲んだ。 
「冷めないうちに、それ、飲めよ」
 
 
 
透は、マスターが使い方を教えてくれた
革製のリボンのようなものを使って器を持つと
慎重に口元へと運んだ。
 
 
 
「おいしいだろ?」
透がチャイを飲むのを見て、ケムリが言った。
 
 
 
「はい、すごくおいしいです」
 
 
 
「じゃ、ご質問にお答えしよう。
 
 リィンもシンもイワイシのことだ。
 でも、どちらの名前も、
 ハシバくんは絶対に口にしないように」
 
 
 
「はい・・・
 でも、何で二つ名前があるんですか?」
 
 
 
「リィンは<幼名>って言ったらいいのかな。
 わかる?
 日本でも、昔は、子供時代の名前っていうのがあったんだろ?
 あれと同じようなもの。
 
 シンっていうのは・・・どう説明したらいいかなぁ・・・
 襲名って聞いたことあるよね?
 歌舞伎役者とかって、襲名して、同じ名前を名乗るだろ?
 名前を継ぐ・・受け継ぐってことなんだけど」
 
 
 
「じゃあ、シンって名前を、
 イワイシが受け継いでいるんですか?」
 
 
 
「・・・そういうことになるんだけどね」
ケムリの表情が暗くなり、またため息をついた。
 
 
 
「実際は違うんですか?」
 
 
 
「本人が認めてないっていうか・・・
 ま、これについては、俺が話してもあまり意味がない。
 
 ・・・意味がないって言っちゃうと
 言いすぎ感はあるんだけどさ、
 アイツには、アイツなりの言い分があると思うんでね。
 ・・・俺や周囲の意見とは真っ向から対立するような」
 
 
 
「なんだかよくわからないなぁ・・・」
 
 
 
「そりゃそうだろうよ。
 わかるようには話してないんだから」
 
 
 
 
_____________________
 
 
 
 
「イワイシのことは、話しにくいみたいですね。
 話しにくいっていうか、話したくないっぽい・・・」
透はケムリの言葉から感じたことをそのまま口にしてみた。 
 
 
 
「そのとおり。 
 アイツは複雑怪奇で、紙一重な天才なんでね、
 俺みたいな一般人がアレコレ知ったような口を聞くと
 ブチ切れる」
 
 
 
「・・・イワイシとはどういうつながりなんですか?
 昔から知ってるって言い方してましたけど」
 
 
 
「家庭教師・・・家庭教師だったという方が正確だな。
 知識を教えるというよりは、護身術とか、サバイバル術とか
 そういう実践的なものがメインだった」
 
 
 
(それで「訓練」って言葉に反応したのか・・・)
 
 
 
「へぇ・・・イワイシの先生だったんですか・・・
 それにしちゃ、イワイシはめちゃくちゃ態度が悪いなぁ」
 
 
 
「やっぱりそう思う?」
ケムリは笑った。
そしてコーヒーを一口飲むと、窓の外に視線を向けた。
 
 
 
「・・・先生って言ってもさ、
 アイツに対しては、あんまり教えることってなかったんだよね。
 こういう分野もあるよって紹介する感じかな。
 そうすると、アイツは勝手にいろいろ学んでいくから」
 
 
 
「やっぱり、スゴイ人なんですねぇ」
 
 
 
「本人は全然そんな風には思ってないけどね」
 
 
 
「なんで? 
 俺様って感じはしないけど、
 すごく謙虚ってタイプでもなさそうですが・・・」
 
 
 
「イワイシには優秀な兄貴がいてね。
 ソイツには絶対にかなわないって信じ込んでるんだ」
 
 
 
「へえ・・イワイシにはお兄さんがいるんだ・・・」
 
 
 
「ちなみに双子。パッと見にはとてもよく似てた」
 
 
 
 
 
 
_____________________
 
 
 
 
 
「・・・双子・・」
透は絶句した。
 
 
 
(イワイシそっくりなのがもう一人いるのか・・・
 二人並んだら、すごいんだろうなぁ・・・)
 
 
 
「兄貴の話もハシバくんからは絶対にしないように」
ケムリは真剣な表情で言った。
 
 
 
「はい」
透は深く頷いた。



(シンって名前、イワイシが受け継いだんだったら、
 お兄さんは別の名前を継いだのかな・・・?)
 
 
 
「イワイシのお兄さんは・・・」
 
 
 
「もういない」
透の言葉を遮ってケムリが低い声で言った。 
 
 
 
「いない・・・?」
 
 
 
「そう」
ケムリは天井に視線を向けた。 
 
 
 
「イワイシと兄貴は、
 パッと見にはよく似てたけど、
 性格っていうか、性質に共通点はなかった。
 
 そのせいか、表情とか雰囲気が全然違ってて
 顔のパーツは同じでも、間違えることはなかった・・・」
 
 
 
「お兄さんはもの静かなタイプだったんですか?」
 
 
 
「は?」
ケムリはとても驚いたようだった。 
 
 
 
「え?・・・だってイワイシって、
 子どもっぽい雰囲気の時はやたらと攻撃的じゃないですか」
 
 
 
「でも、ハシバくんにつっかかってるわけじゃないだろ?」
 
 
 
「はあ・・・まあ、そうですけど」
 
 
 
「兄貴と比べたら、かなり子どもっぽかったのは確かだけどね。
 
 もっとも、イワイシもだいぶ・・・っていうより、すごく変ったよ。
 昔と変わらない部分もかなり残ってるけどさ」 
 
 
 
 
 
 
_____________________
 
 
 
 
 
ケムリは黙ってコーヒーを飲んでいた。
これ以上、イワイシの話をする気はなさそうだった。
 
 
 
(イワイシの話は終わりにしたいんだな。
 たぶん、俺が雰囲気を感じ取るのがわかってるんだろう・・・)
 
 
 
暁子サンたちとの食事の帰りに
イワイシから感じた「質問するな」に
よく似た圧力がハッキリと感じられた。 
 
 
 
透は双子の兄とイワイシがどんな感じだったのか、知りたかった。
イワイシが自分のことを話すのを極端に嫌がることや、
「シン」という名前を受け継いだことを認めないのは、
兄の存在と関係があるに違いないと思った。
 
 
 
しかし、ケムリの様子から、更に質問するのはムリだと判断し、
話題を変えた。
 
 
 
「日曜日、石の博物館に行く時って、
 どうするんですか?
 華子サンには・・・石の博物館の持ち主ですけど・・・
 何て言うんですか?」
 
 
 
「それって、ケムリって名乗るのかって質問?」
テーブルに身を乗り出すようにしてケムリは透の顔を見た。 
 
 
 
「・・・え、あ、えっと・・・」
(ケムリって目つきによってはすっげー怖い)
 
 
 
「人畜無害な好青年スタイルで訪問するから、大丈夫。
 それらしい名前もあるし」
ケムリはにっこり笑った。
雰囲気が一転して、人の良さそうな、とても温厚なタイプに見えた。
 
 
 
「はあ・・・」
(一瞬で別人みたくなれるんだ・・・スゴイなぁ ) 
 
 
 
「それに、ハシバくんの友達ってことにすれば
 問題ないだろうし」
 
 
 
(・・・えぇっ?・・俺の友達???)
 
 
 
「おい・・・
 こんなオッサンの友達はいねぇぞって言いたそうだな。
 すっげー失礼なやつー
 前も言ったけどさ、そんなに年上じゃねーぞ」
ケムリの不満そうな表情は、妙に幼い印象だった。
 
 
 
(あれ?・・・俺が思ってるほど、年齢差はないのかも・・・)
 
 
 
_____________________




つづきはこちら
http://www.m2-dream.net/?page_id=8125