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お話し小箱。「好きに動かしてみよー」10 




 
 
 
 
 
透はポケットからお守りを出して
ケムリに渡した。
 
 
 
ケムリはそれを高い位置にかざして
透かすようにしてじっと見つめた。
 
 
 
「へぇ・・・こんな風にできるんだ。
 中に入ってるやつ、針金を何本か使って、
 一瞬で作ったんだろ?」
 
 
 
「はい・・・何で知ってるんですか?」
 
 
 
「俺も作れるから。
 でも、石の中に入れるっていうのはムリだな」
 
 

ケムリはお守りと透を交互に眺め、
「へー・・・すごいなぁ。
 すっごく合ってる・・・ここまで合わせられるんだ」
と、感心したように言った 。 
  
 
 
そして、透に お守りを返しながら
「もしかしたら、誰かに言われたかもしれないけど、
 それ、いつも持ってろよ。持ってると落ち着くだろ?」
と言った。 
 
 
 
「はい」
 
 
 
「守ってくれる力があるのはもちろんなんだけど、
 ハシバくんの力をコントロールする役目も持ってる」
 
 
 
「コントロール?」
 
 
 
「俺があんまりベラベラ喋ると
 後でクレームがつくかもしれないけど・・・
 
 簡単に言うと、ハシバくんの想定を超える出力には
 ならないってことだ。
 
 イワイシがああしろ、こうしろって指示を出すのは、
 ハシバくんが結果に驚かないように配慮してるって面もある。
 ・・・まあ、やってほしいから頼んでると は思うけど」
 
 
 
「それって、俺が想像している以上のことも
 実際には起こり得るってことですか?」
 
 
 
「・・・想像以上のことって言ってもさ、
 恐ろしいことが起こるわけじゃないよ。
 
 こんなこともできるんだって感じる程度の
 ことしか起こらないはず。
 っていうか、イワイシがそういうふうに
 仕向けてると思うよ。
 
 おっと。おしゃべりしすぎたな。
 奴に追いつかないと」
  
 
 
ケムリが歩き出したので、透も後に続いた。 
 
 
 
 
 
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道は緩やかな下り坂になった。
しばらく歩いていくと、擬木の階段があった。
 
 
 
「水の 匂いがする。
 ここを降りたら、川が流れてるんだろう」
ケムリは目を閉じて言った。
 
 
 
空気がひんやりしている。
透は新呼吸をしてみたが、
「水の匂い」はわからなかった。
 
 
 
階段を降りていくと、水の音が聞こえてきた。
 
 
 
木漏れ日を受けて、きらきら光っている川が見えてきた。
 
 
 
イワイシはこちらに背中を向けて川面を眺めていた。
 
 
 
透たちが近づいてくるのに気づいているのか
「ここの水、すごくいいな」
と言った。
 
 
 
そして、水面に顔を出している石の上を
ひょいひょいと飛び移りながら、
反対側へ渡った。
そして透とケムリの方を見た。  
「こっちへ渡ってくれ」 
 
 
 
ケムリはすぐに川を渡り始めた。
 
 
 
(うーん・・・
 浅い川だけど、失敗したら靴が濡れるなぁ)
 
 
 
川を渡り終えたケムリが透を振り返って 
「石はグラグラしないから大丈夫」
と言った。
 
 
 
透はイワイ シやケムリよりもだいぶ時間をかけて
川を渡った。
 
 
 
「ハシバはすっごく慎重なんだな」
イワイシが笑った。
 
 
 
「失敗したら、靴が濡れるじゃないか。
 靴下までぐっしょりになるし。
 そういう状態で歩くのは嫌だよ」
 
 
 
「濡れたら溶けるってわけじゃないだろ。
 山歩きの経験、ほとんどないのかな?」
イワイシはケムリの方を見て
「鋏、出してくれ」
と言った。
 
 
 
ケムリがカバンから鋏を出して渡した。
 
 
 
イワイシは鋏の刃を確認しながら言った。
「この川沿いには、いろんな草が生えてる。
 しかも役に立つのが多い。
 年に何度かくれば、必要なものがほとんど手に入るな」
 
 
 
 
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「お二人さん、その辺の落ち葉を適当に拾って、
 この袋に入れてくれ」
イワイシはポケットから折りたたんだビニール袋を出して
ケムリと透に渡した。
 
 
 
「拾った落ち葉って、何に使うんだ?」
透は、渡された袋を広げながら尋ねた。
 
 
 
「いろいろ。
 単なる落ち葉にしか見えないけどさ、
 ホント、いろいろ使えるんだよ」
イワイシは細長い葉を付けた草を鋏で切りながら答えた。
 
 
 
「たとえば?」
 
 
 
「20種類とか30種類の植物を集めて
 燃やさなきゃならない時にテキトーに混ぜるとか。
 よく乾燥させないとダメだけどね。
 もちろん、ちゃんと葉っぱの種類ごとに分ければ、
 それぞれの用途に応じて使えるよ」
 
 
 
「ふーん・・・」
透は足元の落ち葉をつかんで袋に入れた。
すると、キラッと光るものがあった。 
 
 
 
(なんだろ?)
 
 
 
地面に顔を近づけてみると、ガラスの破片のような
ツルツルしたものが見えた。
表面に出ているのは一部分だけで、
ほとんどが土に埋まっているようだった。
 
 
 
光を反射しているというよりは、
それ自体が発光しているようにも見える。
 
 
 
透は不思議に思って、周囲の土をどかしてみた。
出てきたのは、石鹸くらいの大きさの滑らかな石だった。
『淡い灰色』とでもいえそうな色合いだったが、
てのひらに載せてみると、赤みを帯びた暖かい色になった。 
 
 
 
「おもしろそうなもの、見つけたな」
すぐ近くで声がしたので、びっくりして顔をあげると
いつの間にかケムリが横に立っていた。
 
 
 
「たぶん、イワイシが『石』って言ってるのとは違うと思う。
 その仲間って感じかな?」
 
 
 
「仲間?」
 
 
 
「うん。俺は石にめちゃくちゃ詳しいわけじゃないけど、
 コレはちょっと違う感じがする」
 
 
 
 
 
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「詳しくないって言ってるわりには、
 ちゃんとわかってるじゃねーか」
イワイシが近づいてきて、
透のてのひらの石をひょいと取り上げた。
 
 
 
「!!」
しかし、急に顔をしかめると、すぐに石を透に返した。
 
 
 
「・・・これ、メモリーストーンだ」
イワイシはギュッと目を閉じ、
何かを振り払うかのように頭を振った。 
顔から血の気が引いたように見えた。 
 
 
 
「メモリーストーン?」
透のてのひらの上で石はさらに赤味を増していった。
 
 
 
イワイシは両手で顔を覆ってうずくまった。
 
 
 
「・・・おい、大丈夫か?」
ケムリの手がイワイシの肩に触れたとたん、
イワイシはそれを振り払っ て、後ずさった。
 
 
 
ケムリはイワイシのカバンをあけて、
ミネラルウォーターのペットボトルを持ってきた。
ふたを開けてイワイシに渡しながら、低い声で何か言った。
 
 
 
透には全くわからない言葉だった。
しかし、ケムリが最初に発した「リィン」という音が、
イワイシに対する呼びかけだということはわかった。
 
 
 
(リィンというのが、イワイシの本名なのか??)
 
 
 
イワイシはゆっくりと水を飲んだ。
そして、大きなため息をついた。
「ハシバは・・・何も感じないのか?」
 
 
 
「別に ・・特に何も・・・」
 
 
 
「じゃあ、今まで結構幸せだったんだな」
 
 
 
「は?・・・どういう意味?」
 
 
 
「・・・無理に忘れようとしていることなんて、
 ほとんどないんだろ?」
イワイシは川の方へ視線を移した。
 
 
 
「記憶から消し去りたいことがたくさんある方が
 おかしいんだろうな・・・」 
 
 
 
透はどう返事をしたらいいかわからなかった。
ケムリの方をちらっと伺うと、複雑な表情をしていた。
考え込んでいるようだったが、
感情を抑えているような感じがした。
 
 
 
イワイシは立ち上がると、透とケムリに背を向けて
しばらく川面を見つめていたが、
ふうっと大きく息を吐くと振り返り、
「さ、お宝集めの続きをしようぜ」
と言って、小さな白い花をたくさんつけた低木の方へ歩いて行った。
 
 
 
 
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「すっげー重いんだけど」
 
 
 
ケムリはイワイシが「お宝」を詰め込んだ、
折り畳み式のリュックを背負うと不満そうに言った。
 
 
 
「昼飯をガツガツ食ったんだから当然だ。
 ハシバはコレ持って」
イワイシはブルーシートのような素材でできた
大きな袋を透に渡した。
川辺に生えていたさまざまな種類の植物が入って いるようだった。
 
 
 
「・・・そのカバンだけかよ」
イワイシがカバンを持つと、ケムリがまた不満そうに言った。 
 
 
 
「そうだよ。悪いか?
 なんならそっちと取り換えようか?」
 
 
 
「そういう言い方するってことは、
 そのカバンもそれなりに重いってことだな」
ケムリはイワイシが再び地面に置いたカバンに手をかけた。 
 
 
 
「・・・重っ
 何が入ってるんだ?」
 
 
 
「石。歩きながらいくつか見つけた。
 最初に見つけたやつみたいな超お宝級じゃないけど、
 結構よさそうなのが見つかった」
 
 
 
「石だけでこんなに重くなるのか?」
 
 
 
「大きさの割には驚くほど重たいのが多 かったんでね。
 リュックと取り換えるか?」
 
 
 
「・・・このままでいい」
 
 
 
(イワイシはいつも通りの感じに見えるけど・・・
 メモリーストーンで何を思い出したんだろう?
 記憶から消し去りたいことって何なんだろう?
 
 ・・・ケムリは何か知ってるみたいだけど。
 ケムリって名前も、当然本名じゃないんだろうな)
 
 
 
イワイシはカバンをひょいと肩にかけると、
すぐに歩き出した。 
 
 
 
「ハシバくん、大丈夫か?
 それ、重くない?」
ケムリは透が持っている大きな袋に視線を向けて言った。
 
 
 
「ちょっと持ちにくいですけど、
 見た目ほどは重くはないので、平気です」
 
 
 
 
 
 
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「どこまでついてくるつもりなんだ? 」 
 
 
 
当然のようにクルマに乗り込んだケムリに対して
イワイシは不機嫌な声で尋ねた。
 
 
 
「ハシバくん、どこまで乗ってくの?」
 
 
 
「S駅まで送る」
透が答えるより先にイワイシが短い返事をした。
 
 
 
「じゃ、俺もそこまで」
 
 
 
イワイシはシートベルトを締めると、黙ってエンジンをかけた。
 
 
 
雨が降り出した。
透は窓ガラスを斜めに伝って流れる雨の雫を眺めていた。
急に眠くなってきた。
起きていようと思ったが、睡魔には勝てず、
眠り込んでしまった。 
 
 
 
 
 
 
 
瞼の裏側に光の点滅のようなものを感じた。
低い声が聞こえた。
会話のようだったが、何を 言っているのか全くわからない。
 
 
 
 
(・・・イワイシとケムリが話してる?)
イワイシのクルマの助手席に座っているという意識はあるものの、
すぐにまた眠りに落ちてしまいそうだった。
頭がぼんやりした状態で透は声を聞いていた。 
 
 
 
聞こえてくる声は平板な印象で、
強い感情の起伏は感じられなかった。
 
 
 
時々相槌らしき声が聞こえたが、
それもまた感情がこもっていないようだった。
 
 
 
透にとってなじみのある発音が全くないせいか、 
「言葉」「声」というよりは、「音」と表現した方が
しっくりくるような気がした。
 
 
 
不思議な音が連続する中で、『シン』という音が
ハッキリと聞き取れた 。
 
 
 
その瞬間、ピタッと「音」が止まった。
空気が凍りついたような感じがした。
 
 
 
重苦しい沈黙。 
 
 
 
透は音の流れが再開するのを待っていたが、
その気配はなかった。
 
 
 
眠っているフリをするのがだんだん辛くなってきた。
透はもぞもぞと体を動かし、イスに座りなおして
目が覚めていることをアピールした。
 
 
 
「もうすぐS駅につく」
イワイシがポツリと呟いた。
 
 
 
 
 
 
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