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お話し小箱。「好きに動かしてみよー」9 

 
 
 
 
 
「三人で・・?」
ケムリが意外そうに言った。
 
 
 
「それぞれに何か役割があるってことじゃないのかな?
 あんたに助けてもらうかもしれないっていうのは
 すっげー気が重いけど・・・」
イワイシはケムリを一瞥するとさっさと歩きだした。
 
 
 
「何かあったんですか?」
イワイシの背中が小さくなってから、
透は小声でケムリに尋ねた。
 
 
 
「・・・ありすぎたって言えるかもしれないなぁ。
 俺がここにいること自体、アイツにとっては
 かなり気に喰わないはずだから」
 
 
 
「なんで? すごいモメゴトとかあったんですか?」
 
 
 
「・・・そうだねぇ。すごいモメゴトなんだろうねぇ」
ケムリはやれやれという表情でため息をついた。
「遅いって文句言われるのも面白くないから
 追いつこう」
 
 
 
(どういう接点なんだろう・・・
 モメゴトって何なんだろう?)
 
 
 
横を歩くケムリをちらっと窺うと、
無表情のまま、まっすぐ前を見ていた。 
 
 
 
(質問してほしくないみたいだな・・・
 暁子サンたちと食事した後のイワイシみたいだ)
 
 
 
イワイシとケムリはどこか似てると透は思った。
見た目の印象は全然似ていないが、
「なんとなく感じられるもの」には、
かなり共通点があるような気がした。
 
 
  
 
 
道の両側の草は背の高いものが多くなってきた。
大きく葉を広げているものもあり、
道幅が狭く感じられた。
 
 
 
ゆるいカーブを曲がると、イワイシがいた。
道の右手側をじっと見ていた。
 
 
 
「石があったんだけど・・・」
透たちの方をちらっと見て言葉を切ると、
また視線を戻した。
 
 
 
「取りにくい場所にあるのか?」
透が尋ねた。 
 
 
 
 
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「取りにくいって言うか・・・・」
イワイシの視線の先には小さな原っぱ。
 
 
 
周囲はツル科の植物が絡まった木に囲まれているが、
そこだけ背の高い草がなく、
平たい葉っぱの雑草がまばらに生えていた。
 
 
 
透は眼をこらしたが、石らしいものは見えなかった。
「どこにあるのか、全然わかんないなぁ・・・」
 
 
 
「見えてるのは、たぶん俺だけだと思う。
 3人で行動しろってこういうことなんだろうなぁ。
 
 そのかわり、ケムリには、この原っぱに漂っているもの・・・
 それがなんだかよくわかんないけど・・・見えてるはず。
 
 俺には見えないけど、入っちゃいけないって感じが
 すごく強いから、入れないんだ」
 
 
 
イワイシはケムリの方を見た。 
「昼飯分は、働いてもらうからな。
 ・・・何が見える? 
 どうして入っちゃいけない感じがするんだ?」
 
 
 
ケムリは原っぱに眼を向けた。
焦点が合っていないような不思議な眼をしていた。
「なんて言ったらいいのかなぁ・・・
 エネルギーの塊みたいなのが、うろうろしてる。
 塊って言っても、立体的じゃなくて、
 シーツみたいな大きな布って感じ・・・
 そういうのがたくさんうろついてる」
 
 
 
「エネルギーの塊?」
 
 
 
「・・・もしかしたら違うかもしれないけど。
 そこだけ明らかに異質なんだ。
 だから、カタチとか輪郭が見えるんだと思う。
 触ったら、かなり痛いはず。
 突っ込んだら、ケガするかもしれないなぁ。
 石は原っぱのどのへんにあるんだ?」
 
 
 
「だいたい真ん中あたり」
 
 
 
「ふーん・・・ 」
ケムリは眼を細めて、ゆっくりと身体を下ろし、
片膝をついた。
 
 
 
「這いつくばって行けばなんとかなりそうだぞ」
 
 
 
「・・・マジかよ」
 
 
 
「そこまでして取りに行く必要がなければ
 別の石を探せばいいだろ」
立ち上がって背中をぐっと伸ばしながら
ケムリはのんびりした口調で言った。
 
 
 
「ふん。あんたにとってはどうせ他人事だからな」
イワイシは上着を脱ぐと
「ちょっと持っててくれ」
と言って透に渡した。
 
 
 
「へえ・・・取りに行くのか?」
ケムリが意外そうに言った。 
 
 
 
「当たり前だ。
 昼飯分にはまだ全然足りてないぞ。
 本気でサポートしろよ。
 エネルギーの塊とやらにぶつかりそうになったら、
 ちゃんと知らせろよ」
 
 
 
 
 
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イワイシは深呼吸をするとしゃがみ込み、
匍匐前進を始めた。
肘と膝の使い方が上手いのか、かなり速く進んでいく。
 
 
 
ケムリは再び片膝をついて、原っぱをじっと見ていた。
 
 
 
「止まれッ!」
ケムリの声にイワイシはびくっとして動きを止めた。
 
 
 
「石のすぐそばまで来てるんだろ?」
 
 
 
「ああ。手を横に伸ばせば届く」
 
 
 
「エネルギーの塊がシャッターみたいに上下してる。
 かなり動きが速い」
 
 
 
「上にあがった瞬間に石を取らなきゃいけないんだな」
 
 
 
「手を出して、石を取って引っ込めるっていうのを
 一瞬でやらないとエネルギーの塊にぶつかる。
 上下してるやつは、すごくハッキリ見えるから、
 かなり強力みたいだぞ。
 あんたの左にあるけど、利き手側か?」
 
 
 
「俺の場合、どっちの手も同じだよ。
 上がると同時に突っ込んで戻せばなんとかなる?」
 
 
 
「・・・うーん。何とも言えないな。
 <訓練>を続けてるなら、なんとかなるかもしれないが」
 
 
 
「<訓練>か・・・
 あんたからまた聞くとは思わなかったな。
 
 上下しているやつが、地面についた瞬間に合図してくれ。
 そうだな、拍手でいいや。
 タイミングをつかみたいんだ。続けてやって」
 
 
 
「わかった」
ケムリは眼を細めると、パン、パン、パンと
拍手を始めた。
 
 
 
一瞬じゃないか・・・透はびっくりした。
(石とどのくらい離れているかわからないけど、
 あの状態からパッと取って手を戻せるのか??)
 
 
 
 
 
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「かなり速いな・・・
 あとどのくらい左に寄っても大丈夫なんだ?」
 
 
 
「手を身体から離さないなら、だいたい10センチ」
拍手を続けながら、ケムリが答えた。 
 
 
 
「ふーん・・・
 強いエネルギーなのに、
 なんとなくしか感じられないのが悔しいなぁ」
イワイシはそう言いながら、身体を少し左にずらした。 
 
 
 
その後、ケムリの拍手が5回続いたところで、
イワイシが動いた。
 
 
 
しかし、次の瞬間、頭を沈めて呻いていた。
 
 
 
「大丈夫か?!」
ケムリが立ち上がって叫んだ。
 
 
 
「・・・掠った程度だよ。
 石は取ったけど・・・すっげー痛い・・・
 まともに当たってたら、手首が千切れたかもしれない」
 
 
 
「出血は? 指とか折れてないだろうな?」
 
 
 
「ケガはしてねーよ。俺を見くびるなよ。
 
 ハシバに見えるようにしてから
 石をそっちに転がす。拾ってくれ。 
 
 拾ったら、この間みたいに、太陽でも炎でも
 熱そうなものをイメージしながら石を握ってて」
 
 
 
そういうとイワイシは腹這いになったまま、
両手を口の近くに持っていくと、
呪文のような言葉を唱えた。
 
 
 
ケムリと話していた時の言葉に似ていると透は思った。
ケムリの方をちらっと見ると、複雑な表情をしていた。
呪文の意味がわかっているような感じだった。
 
 
 
「ハシバー、拾えよー」
イワイシは石を右手に持ち替えたようで、
低い位置で右腕を滑らせた。
 
 
 
野球ボールよりやや小さいくらいの
くすんだ銀色の石が透の足元に転がってきた。
 
 
 
「危険はないから大丈夫」
透が一瞬ためらったのを見て、ケムリが言った。
 
 
 
 
 
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「あれ?・・・エネルギーの塊が全部消えた」
ケムリが原っぱを見渡していった。 
 
 
 
「一瞬で消えたってことは、
 一瞬でまた出てくる可能性もあるってことだよな」
イワイシも腹這いになったまま周囲を見回している。 
 
 
「そういうことだ。
 何かあったら知らせるから、
 這いつくばったままで戻ってこい」
 
 
 
イワイシは体の向きを変えると
匍匐前進で戻ってきた。 
 
 
 
原っぱの外に出ると、立ちあがって服についた
泥を払った。
 
 
 
そして、草の上に置かれたカバンを指さして
「中におしぼりが入ってるから開けてくれ」
と、ケムリに言った。
 
 
 
ケムリがカバンを開けると、イワイシは続けて
「紺と白のストライプの布が入ってるビニール袋があるだろ。
 うん、それ。・・・袋から出してくれよ」
と言った。
 
 
 
「それ、てぬぐい?」
透が尋ねた。 
 
 
 
「そうだよ。このストライプはよろけ縞って言うんだ」
イワイシはケムリから受け取ったてぬぐいで
手のひらと指を拭きながら答えた。 
 
 
 
「ふーん・・・詳しいんだねぇ」
 
 
 
「おっと、それより石が先だ。どうなった?」
 
 
 
透は、両手で包んでいた石をイワイシに見せた。
銀色の石は、色合いが多少明るくなったものの、
鈍くくすんだ印象はそのままだった。
 
 
 
「あんまり変わらないみたい 」
 
 
 
「見た目はね。これは剥かないといけないんだ」
 
 
 
「むく??」
 
 
 
「ゆで卵の殻を剥くような感じだよ」
イワイシは地面に置かれたカバンの横にしゃがみこむと
中から黒っぽい花鋏を取りだした。
ちょっと古風な雰囲気があるせいか、使いこんでいるように見える。
 
 
 
(おばあちゃんが使ってた鋏に似てる・・・
 今日はおばあちゃんのことをすごく思い出してるなぁ)
 
 
 
「石、貸して」
透から石を受け取ると、イワイシは指を入れる部分を使って
石をコンコンと優しくたたいた。
 
 
 
「ほら、ヒビが入った」
透とケムリに見えるように石を持ち上げた後、
イワイシは本当にゆで卵の殻を剥くように、
手を動かし始めた。
 
 
 
中から出てきたのは、ほんの少し青味がかった乳白色の石だった。
 
 
 
「・・・なんだか月みたいだ」
透がつぶやいた。
 
 
 
 
 
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「ハシバはなかなか詩人だな。
 確かにこの色って、冬の寒い夜の満月みたいだよね」
イワイシは目の前に石を持って来て、じっとのぞきこんだ。
 
 
 
瞳の色が淡い菫色に変わったように見えた。
 
 
 
「これは結構すごい石なんじゃないかなー
 苦労して手に入れた甲斐があった・・・
 
 先に草が見つかると思ってたんだけど
 最初からコレが手に入るなんて、ツイてるな」
 
 
 
イワイシはカバンを開けて、黒い巾着袋を出した。
中からシフォンのような布を取り出すと、
石を包み、袋の中に入れて、紐を締めた。
そして巾着袋をカバンに戻した。
 
 
 
「これから先は少し下り坂になって、
 小さい川の近くに出る。
 あの草・・・朝、ハシバに説明した草も
 見つかるんじゃないかな」
イワイシはカバンをケムリに渡しながら言うと、
すぐに歩きだした。 
 
 
 
「石を扱えるんだ、ハシバくんは」
ケムリが感心したように言った。 
 
 
 
「扱えるって・・・自分じゃよくわかんないです。
 イワイシに言われた通りにやってるだけですよ。
 言う通りにすると、石が勝手に変化するって感じ」
 
 
 
「ふーん・・・そうだとしても、すごいと思うよ。
 誰にでもできることじゃないし」
 
 
 
「でも、できたからって、別にいいことないし。
 ・・・少なくとも俺にとっては」
 
 
 
ケムリはおかしそうに笑った。
「そういう言い方になっちゃうんだ。
 ハシバくんは面白いねぇ。
 
 ・・・さっき、アイツの眼の色が変わったの気づいてた?」
 
 
 
「はあ・・・あの色の時って、
 何か不思議なものが見えるモードなんですよね?」
 
 
 
「知ってるんだね」
 
 
 
「お守り・・・って言ってるんですけど、
 針金細工みたいなのを作ってくれたとき、
 あんな感じの眼をしてましたよ」
 
 
 
「お守り・・・針金細工・・・
 それ、今、持ってる?
 見せてくれないか?」
ケムリは真剣な表情をしていた。 
 
 

 
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