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お話し小箱。「好きに動かしてみよー」8 

 
 
 
 
三人とも黙っていた。
 
 
 
透がちらっとイワイシの方を見ると、
<三兄弟の末っ子>の時の子どもっぽさは消えていて、
いつものイワイシの印象に戻っていた。
 
 
 
誰も何も言わない。
空気がなんだか重たい感じがする。
透は早くクルマから降りたいと思いながら、
窓の外を眺めていた。
 
 
 
山はどんどん近くなり、
民家の数はさらにまばらになっていった。
道路は舗装されているものの、
かなり道幅が狭くなってきた。
 
 
 
クルマは大きな欅の木の下で左折し、
その先の空き地に入って止まった。
 
 
 
「ここからは歩く」
イワイシはエンジンを切った。
そして、後ろを振り返って
「置いてあった荷物、あんたが持って降りろよ」
とケムリに言った。
 
 
 
空き地の奥には原っぱが続いていた。
イワイシはどんどん歩いて行く。
透とケムリは後に続いた。
 
 
 
雑木林の中に入り、しばらく行くと、
擬木でできた階段があった。
「この階段、結構長いけど大丈夫だよな?」
イワイシは透に尋ねた。
透が頷くのを見ると、早足で階段を上っていった。
 
 
 
「アイツ、底なしの体力だからな。
 ムリにつきあわなくてもいいぞ」
ケムリが透の横に来て小声で言った。
 
 
 
「・・・いつからの知り合いなんですか?
 イワイシのこと、前から知ってるんですか?」
イワイシの背中が小さくなっていくのを見ながら
透は聞きたかったことを口にした。
 
 
 
「ずっと前から知ってるよ。
 昔から変わり者だった。
 ハシバくんも、ヘンな奴だって思わないか?
 
 ・・・あのさー、
 俺がすっごく年上に見えるのかもしれないけど、
 普通に喋ってもらって構わないよ」
 
 
 
「はあ・・・」
 
 
 
先を歩いていたイワイシが足を止めて
道の脇の大きな木を見上げていた。
 
 
 
「何してるの?」
 
 
 
透が声をかけるとイワイシは視線を上に向けたまま
「早く来いよ」
と言った。
 
 
 
 
 
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透が横に立つと、イワイシは木の上の方を
指さした。
 
 
 
「目立つ形の枝があるだろ?
 折れ曲がってるみたいな。
 あの上の方・・・
 卵みたいな形のものが宙に浮いてるの、わかるか?」
 
 
 
透は、イワイシが言っていると思われる枝の上の方を
じっと見つめた。
 
 
 
卵型とは言い難かったが、淡いグレーの影のようなものが
浮かんでいるのが見えた。
それを中心にして、光る糸のようなものが放射状に伸びている。
 
 
 
「灰色っぽいものが見えるような気がする。
 そこから糸みたいなのが、あちこちに伸びてて、
 それが光ってて・・・」
 
 
 
「・・・ふうん。ハッキリとは見えてないんだ・・・
 でも、あのくらいの状態になっていれば、
 位置はわかるんだな」
 
 
 
「あれ、何?」
 
 
 
「・・・石だよ」
 
 
 
「あれが、石???」
 
 
 
「今までにハシバが見た石とは違うけどね。
 あれは次の世代の石を作るタイプ。
 だから、エネルギー量がものすごく大きい。
 見えるのはそのせいなんだ」
 
 
 
「ふうん・・・」
 
 
 
「もうしばらく経つと、
 新しい石が生まれるんじゃないかな。
 実際に使える状態になるまでには、数年かかるけど。
 
 あの石があるってことは、
 この周辺は、石にとっていい環境だってことだ。
 
 今日は、結構見つかるかもしれないな」
 
 
 
イワイシは嬉しそうだった。
その様子を見た瞬間、
透は、ケムリがほっとしているのを感じた。
 
 
 
何の根拠もないけれど、
どうして唐突にそんな印象を持ったのかわからないけれど、
そんな気がした。
 
 
 
 
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擬木の階段を上り、平らな道をしばらく歩き、
また擬木の階段を上り・・・というのを繰り返した。
 
 
 
徐々に標高が高くなっているのだろうが、
見えるのは木ばかり。
どこか木の枝がぽっかり空いている場所があれば、
畑とか道路が見下ろせるのだろう。
 
 
 
透は時折足を止めて、道の両側の木を見上げてみたが、
石らしきものは全く見えなかった。
 
 
 
イワイシはさっさと行ってしまい、
どれだけ先を歩いているのかわからない。
 
 
 
「ハラ減ったなぁ・・
 ハシバくん、何か食糧、持ってない?」
 
 
 
「・・・ないです」
 
 
 
「昼飯、どうする?」
 
 
 
「イワイシが何か持ってくるって言ってたので」
 
 
 
「あ、そう。
 うーん・・・ハシバくんには食べさせても
 俺には分けてくれないんだろうなぁ」
 
 
 
「そのカバンの中に入ってると思いますよ」
 
 
 
「そうなんだろうけど、勝手に食ったらマジで殺される」
ケムリが真顔で言うので、透はどう反応していいのかわからなかった。 
 
 
 
「・・・とにかくイワイシに追いつきましょう」
 
 
 
平らな道をしばらく歩き、擬木の階段を上がると
小さな広場に出た。
少し朽ちているが、東屋風の建造物があり、
中のベンチにイワイシが座っていた。
 
 
 
「おそいぞー」
 
 
 
「イワイシが速すぎるんだよ」
 
 
 
「昼飯にしよう」
 
 
 
イワイシは立ちあがって、
ケムリからカバンを受け取った。
「あんたにも食わせてやる。
 その代わり、午後はタップリ働いてもらうからな」
 
 
 
 
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カバンから出てきたのは、シックな柄の風呂敷包みだった。
包みをほどくと、漆塗りの三段重ねの重箱が出てきた。
 
 
 
「すごいの持ってるんだねぇ」
透が感心して言った。 
 
 
 
「別にコレじゃなくてもいいんだけどさ、
 たまには使わないともったいないし。
 
 弁当の用意しているときに、どういうわけだか
 たくさん作らなきゃいけない気がしてたんだ。
 
 二人分で十分ってアタマではわかってるんだけど、
 なんだか落ち着かないから、多めに作ったんだけど・・・
 
 あんたのせいだったのか」
イワイシはケムリをにらみつけた。 
 
 
 
「・・・俺は何もしてねーよ。
 無駄にならないから別にいいじゃないか」
 
 
 
イワイシは木製の軽いお皿と箸を透とケムリに渡した。
そして重箱を並べて置いた。
 
 
 
「好きなよーに食べてくれ」
 
 
 
透はいただきますと言って手を合わせた。
ケムリは黙って手を合わせると、すぐに食べ始めた。
 
 
 
重箱に詰められたおかずの彩りはとてもきれいだった。
「なんだか運動会の時のお弁当を思い出すなぁ・・・
 おばあちゃんがこういうのを作ってくれたよ。
 一族ってほどじゃないけど、おじさんとか従兄弟たちも
 大勢来てくれて、みんなで一緒に食べたんだ」
 
 
 
「へぇ・・・」
 
 
 
「でも、いつからだったかなぁ、
 親が運動会に来られない子もいるってことで、
 運動会の日も教室で給食を食べるようになったんだよ。
 
 おばあちゃんは重箱にたくさんの料理を詰めるのが
 好きだったみたいでね、お花見とかお月見とか
 何かと理由をつけて、豪華弁当、作ってくれた」
 
 
 
(なんで俺はこんなことをベラベラしゃべってるんだろう?
 この二人には全然関係ないのに・・・
 
 そもそもこの人たちの家族ってどこにいるんだ?
 ケムリは日本人に見えなくもないけど、
 なんだか雰囲気が違うし、
 わからない言葉でイワイシと話してた・・・
 
 二人とも自然な日本語を話すから、
 『運動会』とか『給食』って言葉の意味はわかるんだろうけど、
 それに関する思い出とか
 特別な感情っていうのは皆無なんだろうな・・・)
 
 
 
イワイシとケムリはすぐ近くに座っているのに、
ものすごく遠い存在に感じられた。
自分とは全然違う世界を生きているに違いない・・・
 
 
 
(なんで一緒に行動しているんだろう?) 
 
 
 
透が箸を止めているので、イワイシが声をかけてきた。
「どうかしたのか?
 早く食わないと、ケムリのバカが全部食っちまうぞ」
 
 
 
「お前だってバクバク食ってるじゃねーか」
ケムリはおにぎりと卵焼きを重箱からお皿に移しながら抗議した。
 
 
 
「作ったのは俺だ!!
 食べるだけの奴に文句言われる筋合いはない」
 
 
 
 
 
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イワイシが作ったお弁当はとても美味しかった。
見た目も味も、おばあちゃんのお弁当に
よく似ていると透は思った。
 
 
 
おばあちゃんのお弁当を最後に食べたのは
それほど昔ではないはずなのに、
なんだかひどく懐かしい感じがした。
 
 
 
重箱がカラになると、
イワイシはテーブルの上にあったものを
手際よく片付けてカバンに詰め、
当然のようにケムリに渡した。
 
 
 
「また歩くぞ。
 けもの道みたいな感じになるから
 足元に注意しろよ」
 
 
 
イワイシは相変わらず歩くのが速かったが、
さっきのように姿が見えなくなるくらい
先へ行くことはなかった。
 
 
 
「あ・・・ 」
透が驚いて声を上げ、足を止めた。
 
 
 
「どうした?」
ケムリが尋ねる。
 
 
 
「へえ、見えるんだ」
イワイシが振り返って意外そうに言った。
「ハシバには、<彼女>がわかるらしいな」 
 
 
 
ケムリには見えていないらしく透とイワイシの
視線の先を不思議そうに見ている。
「・・・彼女??」
 
 
 
「あの、女の人がいるんです・・・
 でもちょっと、その、なんて言うのかな・・・
 不思議な感じの人で、髪が緑色で・・・眼が赤いんです」
透は小さな声でケムリに言った。
 
 
 
「話を聞いてみよう」
イワイシは<彼女>に近づいて行った。
 
 
 
「こんにちはー」
イワイシの明るい声に<彼女 >はびっくりしたようだった。
 
 
 
「・・・あら? もしかして、私が見えてる?」



「ええ。お邪魔でしたか?」
 
 
 
親切そうな、とてもやさしい声だった。
透は驚いた。
(どのイワイシが言ってるんだ?? <イワイシさん>か?)
 
 
 
ケムリがささやいた。
「な、あいつヘンだろ?
 コロッと人格を変えやがる・・・」
 
 
 
 
 
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あまりジロジロ見てはいけないと思いつつ、
透は鮮やかな緑の髪から視線を外せなかった。
 
 
 
(あの緑・・・おばあちゃんの帯どめの石にそっくりだ。
 確か、翡翠だったっけ・・・
 眼は、なんだかルビーみたいだな。
 綺麗な人なんだろうけど、なんか不思議だ・・)
 
 
 
風が通り過ぎるたびに
つややかな緑の髪はさらさらと流れ、
身にまとっている白っぽい服はふわふわと揺れる。
 
 
 
女の人はイワイシを見上げてにっこり笑うと、
あちこち指さした。
イワイシは黙ったまま頷いている。
 
 
 
(声が聞こえないけど・・・会話してる??)
 
 
 
そう思った瞬間、女の人と目が合った気がした。
彼女は再びにっこり笑うと、ふっと消えてしまった。
 
 
 
「あ・・・消えちゃった!」
 
 
 
「消えた? 彼女が消えたってことか?」
ケムリが透に尋ねた。
 
 
 
「消えたんじゃなくて、帰ったんだよ」
イワイシが引き返してきた。
 
 
 
「あの女の人、誰?っていうか何?」
 
 
 
「<何>って・・・・そりゃないだろ。
 美人さんに対して、すげー失礼な奴だなー
 ハシバにも笑いかけてくれたのに」
 
 
 
「・・・ごめん。
 <何>って言ったのは、妖精とか女神とか
 すごい存在だと思ったから・・
 つまり、その、ただの人間じゃないと思ったから・・・」
透はしどろもどろになって釈明しようとした。
 
 
 
「へー そういうの、信じるんだ、ハシバは」
イワイシはからかうような口調で言った。



「まあ、ここしばらくは石絡みでいろいろあったから、
 妖精とか女神とか、自分の目の前に突然現れても
 不思議に思わなくなるかもしれないなぁ。
 
 確かにね、彼女は人間じゃない。
 でも、妖精とか女神って存在でもないよ。
 この土地の神様とつながりがあるらしい。
 
 さっき見たような次世代を作るタイプのものじゃなければ、
 石は、持って行ってもいいってさ。
 今日見つかる石っていうのは、
 それなりに縁があるらしいから。
 
 ただし、気をつけるようにって念を押された。
 それと、必ず三人で行動するようにって」
  
 
 
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