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お話し小箱。「好きに動かしてみよー」7 




 
 
 
「はい。ほとんどがダメになっていたと言っていました」
 
 

「そっか・・・もともと整理してあった分プラスαくらいしか
 残っていないのか・・・」
 
 

先生は紙コップのコーヒーを飲んだ。
そして、しばらくの間、黙っていた。
 
 

「やっぱり、しまいこんじゃうとダメなんだよな。
 
 積み上げてあったダンボール箱、全部片付いてた。
 後から送ってきた分もほとんどがダメだったってことかな?
 
 ・・・それにしてもあんなにたくさんあったのに、
 よくまあイワイシさんは短時間で捌けたな。
 
 リストまで作ってあったんだよ。
 送られてきた石のリストと、
 今、残っている石の数と状態のリスト。
 ・・・透クンも手伝ったの?」
 
 

「いえ、僕は何も・・・」
 
 

(イワイシは、一つずつダンボールをあけて
 調べる必要はないって言ってた・・・
 理由は教えてくれなかったけど。
 ・・・だから早く終わったんだろうな。
 でも、黒くなった石はあの部屋に積み上げてあったわけだから、
 調べる必要はなくても、中身を出す作業はあったはずだよなぁ)
 
 
 
「ふうん・・・手伝ってないんだ。
 一人でできるような作業量じゃないんだけどな。
 イワイシさん、何か言ってた?」
 
 
 
「いえ、特には」
 
 
 
「透クンは不思議に思わなかった?
 ・・・送られてきた ダンボール箱、見てないんだっけ?」
 
 
 
「はい。全部でどのくらいあったのかは知りません」
 
 
 
「そうなんだ・・・かなりの量だったよ。
 基本的に大きな石は扱ってないけど、小さくても石だからさ、
 箱に大量に詰め込んだら、持ち上がらないし、底が抜けちゃう。
 だから、送られてきた分は、
 みんな小さめのダンボール箱に入っていたんだ。
 一時期、部屋を埋め尽くすくらいダンボール箱があったんだよ。
 
 修理が必要だって言ってた棚にも、
 かなりの石が入ってたはずなんだけど、
 空っぽになってた・・・
 一体どんな魔法を使ったんだか・・・」
 
 
 
先生はまたコーヒーを飲み、ため息をついた。
 
 
 
「さっきも言ったけどさ、イワイシさんって、
 俺とか暁子サンのこと、すっごく尊敬してくれてるけど
 心を許すって感じじゃないんだよねー
 尊敬しているからこそ、遠慮して、
 一歩引いてるのかもしれないけどさ。
 
 一緒にやってる仕事に関してはものすごく熱心。
 でも、それ以外はやんわりと上手にかわして、
 踏み込ませないんだよね・・・
 舞台裏とかも絶対に見せないし。
 
 あからさまにガードしてるわけじゃないし、
 不快な感じがするわけじゃないんだけどさ。
 もうちょっと打ち解けてくれてもいいんじゃないかと思うよ。
 
 透クンに対しては、そういうこと、ないよね?」
 
 
 
 
 
 
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「うーん・・そうだなぁ・・・
 イワイシさんじゃなくて、イワイシの時・・・
 あ、学生っぽいイワイシさんってことですが、
 話しにくいと思ったことはないです。
 びしっとキメてるときは、
 なんだか話しにくいなぁと思いますけど」
 
 
 
「へぇ・・・
 透クン、イワイシって呼び捨てにしてんだー
 すっごく意外。
 で、普通に話す時ってどういう感じ?」
 
 
 
「どういう感じって・・・ホント、普通ですよ。
 友達と喋ってるのと同じです。
 知り合ってから、大して時間は経ってないはずなんですが、
 ずっと前から友達みたいな感じがします」
 
 
 
「そうなんだ・・・ずいぶんと印象が変わるんだ。
 
 普通に話してる時に 、
 イワイシさんが自分に似てると思ったことある? 
 華子サンのところに行く時って、
 イワイシさんじゃなくて、<イワイシ>なんだろ?」
 
 
 
「はぁ・・・
 あの、似てるって思ったことはないですよ。
 顔のツクリが全然違うじゃないですか」
 
 
 
(写真の話をするつもりなのかな・・・
 ・・・避けたいな・・・)
 
 
 
また肩のあたりがふっと暖かくなった。
 
 
 
「・・・実は、日曜日にね、透クンとイワイシさんが
 並んで歩いてるところ見かけたんだ。
 かなり離れたところからだけどね」
 
 
 
「そうだったんですか。
 全然知らなかった」
 
 
 
「前の予定がキャンセルになったから、
 早めに行ってたんだよ。
 ・・・二人ともいつもとは、だいぶ印象が違ってた」
 
 
 
「はぁ・・・」
 
 
 
「なんていうのかな、別人みたいだった」
 
 
 
「別人? イワイシさんのことですか?」
 
 
 
「いや、透くんも・・
 というより、透クンが、というべきかな?
 ・・・イワイシさん、何か言ってなかった?」
 
 
 
「え? どういう意味ですか?」
 
 
 
「・・・わからない?」
先生はちょっと驚いたようだった。 
 
 
 
「はあ・・・」
 
 
 
「・・・わからないんだったら、いいんだ。
 そうか・・・」
 
 
 
先生は、コーヒーの紙コップに手を伸ばした。
 
 
 
 
 
 
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日曜日。
透はS駅のロータリーでイワイシが来るのを待っていた。
 
 
 
(毎週、石絡みで出かけてるんだよなー
 他に用事があるわけじゃないし、面白いからいいんだけど)
 
 
 
コンビニの角を曲がって、シルバーメタリックのセダンが
ロータリーに入ってくるのが見えた。
 
 
 
(あれかな?)
 
 
 
車内は暗くて見えなかったが、「わナンバー」だった。 
 
 
 
クルマが近づいてくると、イワイシが手を振っているのが見えた。
 
 
 
イワイシからのメールに、駐停車禁止だから急いで乗るように
と書いてあったので、透はクルマが止まるとすぐに助手席側の
ドアを開けてクルマに乗り込み、ドアをしめた。
 
 
 
「おはよ。ちょっとした ドライブになるけど、
 体調は大丈夫?」
 
 
 
「うん。よく寝たから」
 
 
 
透がシートベルトをすると、イワイシはサイドブレーキを戻した。
 
 
 
「では、出発進行」 
 
 
 
「イワイシが言ってた通り、
 月曜日、改札出たところで、先生が待ち伏せしてた」
 
 
 
「あ、やっぱり? 写真の話は出なかっただろ?」
 
 
 
「まあね・・・もしかして先生と話した?」
 
 
 
「うん。先生は好奇心に勝てなかったみたいで、
 呼び出されたよ。
 名目は、俺が作ったリストの内容確認ってことだったけど」
 
 
 
「ふーん」
 
 
 
「石の状態と数量の確認は、
 ばあちゃんに立ち会ってもらっているから
 何の問題もないんだけどね。
 ・・・先生としては、ちょっとばかり面白くないらしい」
 
 
 
「なんで?」
 
 
 
「石の所有者は、ばあちゃんで、
 石に関する一切の決定権も、ばあちゃんにあるんだけど、
 ばあちゃんにとっての石は、
 死んだおじいさんにつながるアイテムっていうだけで、
 詳細についていろいろ知ってるわけじゃない。
 だから先生は、もうちょっと首をつっこみたいらしい。
 
 でも、俺は、ばあちゃんから石の整理の仕事を受けてるから、
 ばあちゃんに対してお伺いを立てるし、
 報告も、ばあちゃんに対してやってる・・・当然だけどね。
 
 先生はそれに対して文句はつけられないし、
 ばあちゃんも、先生を介する必要はないと思ってる。
 でも、先生はいろいろ聞きたいし、いろいろ知りたいんだよね。
 しかも、ばあちゃんは、暁子サンには逐一報告しても、
 先生には全然話さないから」
 
 
 
 
 
 
 
 
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「へー・・・そうなんだ。
 
 先生は、あの量の石をどうやって一人で整理したのか、
 すごく不思議がってたなぁ」
 
 
 
「あれは、ちょっと頑張れば、一人でできる範囲だよ。
 一人で扱うには無理な量って決めつけてるから、
 できなくなるだけ」
 
 
 
「ふーん・・・そうなんだ。
 先生は、どんな魔法を使ったんだかなんて言ってたよ」
 
 
 
「・・・あれが魔法に見えるんだ。
 だとすると、納得いかないことが、他にもあるんだろうなぁ」
 
 
 
「写真のことは言わなかったけど、
 二人の印象がいつもとはずいぶん違ってたとか言ってたな。
 特に俺が別人みたいに見えたって」
 
 
 
「へぇ・・・それで?」
 
 
 
「イワイシさん、何か言ってなかった?って訊いてきたから、
 どういう意味ですか?って訊き返した。
 そしたら、わからないならいいって言って、
 それ以上のことは話さなかった」
 
 
 
「ふーん・・・そのへんは俺にも訊かなかったから、
 未だに消化不良なんだろうなぁ」
 
 
 
「・・・ケムリに写真を見せてもらったけど、
 ホントにイワイシそっくりに写ってた。
 なんで?」
 
 
 
「ハシバも気になるのかよー
 ・・・説明しにくいんだよな。
 あの作業の影響なんだけど、それじゃ納得できない?
 実際に顔のツクリが変わってたわけじゃないよ。
 
 先生が撮ったからああなったけど、
 普通の人が撮ったら、普通に写るんじゃないかなぁ。
 白っぽく写ってたのも、先生が撮ったからだよ。
 
 正確にいえば、先生だから、見えたわけで、
 普通の人は、ハシバの印象の変化も、
 身体が白っぽくなっていたのもわからないはず」
 
 
 
「先生はかなり<見えてる>って、ケムリが言ってたなぁ」
 
 
 
「そうだよ。かなりじゃなくて相当というべきだね。
 ケムリのバカ、情報収集はしてるんだな。
 できるだけ距離を置いてるのかと思ったけど。
 
 先生はいろんな光が見えてるみたいだし、
 それを写真に撮ることもできるらしい。
 
 だから俺が敬遠してるのもバレバレなんだろうなぁ」
 
 
 
「もうちょっと打ち解けてくれてもいいのにって
 言ってたよ」
 
 
 
「そっかー・・・やっぱりそう思ってるのか。
 でもなぁ、難しいんだよなー」
 
 
 
「なんで? 何が難しいんだ??」 
 
 
 
 
 
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「誰にだって他人に見せたくない面ってあるだろ?」
 
 
 
「まあね。でも別に見せたくなかったら、
 見せなきゃいいだけの話じゃないか」
 
 
 
「普通はそうだけどさ、先生とか暁子サンとか、
 ものすごく察しがいいというか、
 1を聞いて、10わかっちゃうような人たちに対しては
 そういうわけにはいかないんだ」
 
 
 
「ふーん。
 そんなに見せたくないことがあるんだ」
 
 
 
透は何気なく言ったつもりだったが、
その言葉にイワイシが動揺したように感じた。
 
 
 
短い沈黙の後、
「・・・まあね。いろいろあるからね」
と返してきたものの、声が少し硬いような気がした。
 
 
 
(イワイシ本人に関することって、
 話題にするのはよくないのかもしれないなぁ・・・)
 
 
 
「今日は山に行くっていうこと以外聞いてないけど、
 行って何するの?」
透は話題を変えた。
 
 
 
「山って言っても、小学生でも登れるような
 お散歩コースの山だけどね。
 
 ある草を探したいんだ。
 雑草みたいなもんだけどね。
 昔は、そこらじゅうに生えてたらしいけど、
 最近は、市街地じゃあまり見つからない。
 自然の多いところに行けば道端に生えてると思う。
 
 歩きながら、必要な石も探すよ」
 
 
 
(自分以外の話題なら、結構饒舌なんだよな。
 どうして自分のことを話すのを嫌がるんだろう?
 
 自分を話題にするのは、俺だって苦手だけど、
 相手に気づかれるほど動揺することはないと思うけどなぁ)
 
 
 
「石?・・・前にホントは石じゃないって言ってたやつ?」
 
 
 
「うん」
 
 
 
「簡単に見つかるもんなの?」
 
 
 
「どうだろ? 
 見つかることもあるし見つからないこともある。
 よく探せば見つかると思うよ。
 なんとなくそういう気がするし」
 
 
 
「探した石はどうするの?」
 
 
 
「棚の修理に使う」
 
 
 
 
 
 
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しばらく走ると、民家はだいぶまばらになった。
道の両側には、田畑や雑木林が広がり、
遠くに見えていた山がかなり近くに感じられるようになった。
 
 
 
「あの人、何してんだろ?」
 
 
 
イワイシがつぶやいた。
道のずっと先に小さな人影が見えた。
 
 
 
「目がいいんだね。農家の人かなぁ?」
 
 
 
人影は、黒っぽい服を着て帽子をかぶった男だった。
イワイシはクルマを止めた。
「ちょっとここで待っててくれ」
掠れた声だった。 
 
 
 
「どうしたの?」
透の質問には答えずにイワイシは黙ってクルマを降りると
男の方へ早足で歩いて行った。
 
 
 
何か話しているようだった。
透はしばらくクルマの中で待っていたが、
イワイシがなかなか戻ってこないので、
シートベルトをはずして、外に出た。
 
 
 
イワイシが強い口調で何か言っているのが聞こえてきた。
日本語ではなかった。
英語でもなく、フランス語という感じでもなかった。
 
 
 
男は帽子を目深にかぶっていたので顔は見えなかったが、
声はおだやかだった。
男の言葉も全くわからなかった。
 
 
 
透が近づいてきたのに気づいたのか、
「ハシバくんがいるからさ、日本語にしよう」
と、男が言った。
 
 
 
イワイシが振り返った。
 
 
 
(あ・・・三兄弟の末っ子だ・・・)
 
 
 
透の表情の変化に気づいたイワイシは、
すぐに男の方に向きなおり、
「なーにがハシバくんだよッ だましやがって!!」
と怒鳴った。
 
 
 
「だました? 
 ・・・人聞きの悪いこと言うなよ」
 
 
 
男は帽子を取って透の方を見た。
 
 
 
切れ長の鋭い目のせいか、精悍な印象だった。
長身で端正な顔立ち。
映画俳優みたいだ・・・と透は思った。
 
 
 
一匹狼的な凄腕の刑事か、
一癖ありそうな男たちを大勢従えている、
闇の組織の冷酷なリーダーといった役が
とても似合いそうだった。
 
 
 
挨拶すべきだと思ったが、
何を話したらいいのかわからなかった。 
 
 
 
 
 
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(イワイシの知り合いなのかなぁ??)
 
 
 
透の疑問を見透かしたようにイワイシがぼそっと言った。
「・・・コイツがケムリだよ」
 
 
 
透は目を丸くした。 
「えええッ??? ケムリ???
 ・・・もっとおじさんだと思ってた・・・」
 
 
 
それを聞いて、イワイシはゲラゲラ笑った。
「見た目をどう繕っても、本質はオヤジなんだよ」
 
 
 
ケムリはイワイシが笑っているのをじっと見ていた。
「外見とのギャップがありすぎって点では、
 お前も同じよーなレベルだぜ。
 
 それにしても光が強くなった分、影は濃くなったみたいだな。
 もっとも、今みたいに笑えれば問題なさそうだけど」
 
 
 
「・・・あんたに言われたくないな」
イワイシは恐ろしく冷たい声で応えた。
完全に無表情になっていた。
 
 
 
「そうかい? 心配してやってんだぜ?」
ケムリは全く意に介さない様子だった。 
 
 
 
「俺は頼んでない。そっちが勝手にやってることだ」
静かな口調だったが、怒りを含んでいるようだった。
 
 
 
「少しは丸くなったかと思ったけど、相変わらずだなぁ」
ケムリは大袈裟にため息をついてみせた。
それから透を見てニッコリ笑った。
 
 
 
イワイシや暁子サン同様、ケムリも、
笑うと極端に印象が変わるタイプだった。
クールな印象の容貌なのに、笑顔になると、
まるで幼児番組の「おにいさん」のように見える。
 
 
 
「石、探しに行くんだよな?」
ケムリはそう言うと、クルマの方にさっさと歩いて行って
ドアをあけると後部座席に乗り込んだ。 
 
 
 
「・・・一緒に来るつもりなのかな?」
 
 
 
「そうなんだろ」
イワイシはふてくされたように答えた。
 
 
 
「ケムリって、もともと知り合いだったのか?」
 
 
 
「・・・知り合いっていうか・・・
 
 つまり、その・・・
 俺の知っている奴がケムリを演じてたんだ。
 
 本当は・・・
 
 いや、何でもない。 
 アイツは・・・ケムリでいいんだ」
 
 
 
 
 

 
 
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