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お話し小箱。「好きに動かしてみよー」 5 

 


 
 
床全体が白っぽく光り始めた。
 
 
まばらに散らばっていた黒い石が一斉にオレンジに輝き
乾いた音を立てて砕け散った。
 
 
床が少し傾いたように感じた。
小さな光が見えたかと思うと、人影が浮かび上がった。
イワイシだった。
ペンライトを持っていた。 
 
 
「終わったよ。お疲れさまー」
 
 
イワイシの声を聞いて透はほっとした。
身体から緊張が抜けていくような気がした。
 
 
発光していた床がふっと暗くなった。
 
 
室内の灯りは、イワイシのペンライトと
透が床に置いたペンライトだけになった。
 
 
「携帯、返してくれ」 

 
透は、携帯を拾ってイワイシに渡した。
 
 
イワイシはすぐにボタンを押すと、携帯を耳に近付けた。
 
 
「・・・無事に終了しました。
 少し休んでから移動します。
 ・・・ありがとうございました」
 
 
それだけ言うと、携帯をポケットに突っ込み、
ペンライトで照らしながら、壁際に歩いて行った。
 
 
「窓、開けるぞ」
 
 
ガラガラと低い音がした。
「ここの窓、相当古いなぁ・・・
 サッシに変えてもらった方がいいんだろうなぁ」
 
 
続いてガタガタという大きな音がして、光が差し込んできた。
 
 
「雨戸も古いから、すごく重いや・・・」
 
 
部屋の中が一気に明るくなった。
 
 
来客用として作ったのだろうか、
とても天井が高く、しゃれた雰囲気の内装だった。
 
 
今は何も置かれていないが、猫足のテーブルや
クラッシックな雰囲気のソファが似合いそうだった。 
 
 
イワイシは、カバンからミネラルウォーターの
ペットボトルを二本取り出した。
 
 
一本を透に渡して、
「少し休もう」
と言うと、壁に寄りかかるようにして座った。
そして、すぐにペットボトルをあけ、水を飲んだ。 
 
 
「ふー・・・やれやれ」
 
 
「・・疲れた?」
 
 
「まあね。でも、考えてたよりはラクだった」
 
 
「ふーん、そうなんだ」
 
 
透はイワイシの隣に座り、水を飲んだ。
 
 
「そっちはどうだった?
 特に何もなかっただろ?」
 
 
「うん・・・ケムリっていうのが来たよ」
 
 
イワイシの顔色が変わった。
「・・・あのおせっかい・・・本当に来たんだ・・・!」
 
 
 
 
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「ケムリって、誰?・・ていうか、何なんだ?」
 
 
「・・・こうるさいオヤジ」
 
 
イワイシはぶっきらぼうに言うと水を飲んだ。
横顔の印象がひどく子どもっぽく見えた。
 
 
『ガキって顔にかいてある』
透はケムリの言葉を思い出した。
 
 
(三人目のイワイシかな・・・三兄弟の末っ子みたいだ)
 
 
しばらくの間、イワイシは黙って水を飲んでいた。
 
 
「俺のこと、ガキだの単細胞だのって、バカにしてただろ」
 
 
「・・・バカにしてる感じじゃなかったけど」
 
 
「アイツ、いちいちうるせーんだよ」
 
 
イワイシはふぅっと大きく息を吐くと、
立ち上がって、伸びをした。
 
 
「・・・ま、いっか。
 どうせしばらくは出てこないだろうから、放っておこう。
 部屋の準備はこれで整ったし、次は石の整理だな」
 
 
気持ちをうまく切り替えられたらしく、
子どもじみた雰囲気はすぐに消えてしまった。
 
 
「石ってどこにあるの?」
 
 
「ほとんどが金庫の中。
 あまりいい環境じゃないから、
 早めに出さなきゃいけないんだけど。
 メンテナンスが必要な石は、ここから持ち出してある」
 
 
「ふーん・・・
 床に積み上げて柵を作れるほど黒い石があったけど
 まだ大丈夫な石もあるんだな」
 
 
「一応ね・・・でも、それほど多くないよ。
 ほとんどがダメになってた・・・
 
 死んだおじいさんは、石の収納用として、
 特注で棚を作らせてたんだけど
 これもまた作業が必要なんだよな」
 
 
「石を棚にしまうってこと?」
 
 
「その前に棚をね、どうにかしなきゃいけないんだ。
 中に入れてあった石のほとんどがダメになってたから。
 石を保護する機能・・・機能って言葉でいいのかなぁ?
 ・・・まあ、そういう機能があったんだけどね。
 長年放っておいたせいなんだろうな」
 
 
「新しく棚を作り直さなきゃいけないのか?」
 
 
「いや、修理すれば何とかなると思うんだけど」
 
 
電子音が聞こえた。
「メールだ・・・暁子サンかな?」
 
 
イワイシはポケットから携帯を取り出し、
画面に目を走らせた。
「食事の支度ができてるってさ。
 暁子サンはこれからお客さんのところに行くらしい」
 
 
 
 
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立派な応接間の大きなソファに座って、
透は、ぼんやりと窓の外を眺めていた。
 
 
豪華なランチの後、イワイシは着替えるからと言って
駐車場へ戻って行った。
 
 
華子サンは
「あのコに応接間を使わせるのは嫌なのよ」
と少々不満そうな様子だったが、
「あなたたちと打ち合わせするなら、仕方ないわね」
と言って、透を応接間に案内した。
 
 
イワイシは打ち合わせのことを話していなかったが、
着替えを用意しているということは、急遽決まった話ではなく、
前から予定されていたことなのだろう。
 
 
 
突然、レースのカーテンが不規則に揺れた。
 
 
びっくりして見つめていると、白っぽい光が浮かび上がった。
 
 
「よっ ずいぶんと豪勢な昼飯だったな」
 
 
「ケムリ・・・???」
 
 
「あの野郎が言ってた通り、
 しばらく引っ込んでるつもりだったけど
 事情が変わったんで出てきた」
 
 
「・・・・」
 
 
「あんたらがセンセイって呼んでるトボけた男、
 好奇心のカタマリみたいなヤツだな。
 イワイシとは違った意味で、ものすごくガキくさい」
 
 
「先生がどうかした?」
 
 
「写真撮ってたぞ。ややこしいことになりそうだから
 データは消しといたが」
 
 
「何の写真?」
 
 
「見せるから、目をつぶってみろ」
 
 
透が目を閉じると、瞼の裏側に鮮明な画像が見えた。
見えたという表現が正しいのかどうかわからないが、
何かを思い出すときのような、あいまいさは皆無で、
実際に写真を見ているかのようにクリアだった。
 
 
写っていたのは、イワイシと透だった。
背景の様子から、部屋を作る作業を終えて一休みした後、
ちょうど出てきたところのようだった。
 
 
二人とも全身に白い靄のようなものが
うっすらとかかっていた。
 
 



 
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「なんで二人とも白っぽく写ってるんだ?」
 
 
「あの作業の影響。
 全体が真っ白になっててもおかしくないんだが、
 こういうところは、さすがというべきだな」
 
 
「???」
 
 
「ただ待っていたという印象しかないだろうけど、
 相当ヤバイことやってたんだぜ。
 あの野郎は、あんたに影響が及ばないようにするって
 言ってたが、約束は守ったんだな」
 
 
視界が暗転して、次にまた別のイメージが現れた。
先ほどと同じく、イワイシと透が写っていたが、
白い靄は完全に消えてい た。
 
 
「さっきの写真から、数秒後。何か気付かないか?」
 
 
透は、自分たちの周囲に奇妙なものが写っていないか
注意深く眺めたが、特に変わったものはなかった。
 
 
「うーん・・・おかしいところはなさそうだけど」
 
 
「周りじゃなくて、被写体を見てみろよ」
 
 
ケムリに言われて透はもう一度、写真の中の
イワイシと自分に注意を向けた。
 
 
「・・・あ!!」
 
 
離れた位置から撮影しているものの、
並んで歩いている透とイワイシの顔立ちは
とてもよく似ているように感じられた。
 
 
たまたま何かの加減でこう見えるのか、
それとも本当にこういう状態になっていたのかわからないが、
写真の中の透の印象は、イワイシそっくりに見えた。
 
 
「どうしてこうなっているのかは、
 なんとなくはわかるけど、
 これについて突っ込まれるのを
 あの野郎はものすごく嫌がるはずだ」
 
 
再び視界が暗転して、別のイメージが現れた。
 
 
「前の写真の数秒後」
 
 
写真の中の透の様子は、いつもの状態に戻っていた。
 
 
「3枚ともデータは消した。
 写真を撮った直後、
 センセイは、ばあちゃんに出くわしたから
 画像のチェックはできなかった。
 だから、撮影時にデータが保存されてなかったってことで
 一応、納得するだろう・・3枚連続でっていうのは、
 腑に落ちないかもしれないが・・・」
 
 
瞼の裏のイメ ージがふっと消えた。
透は目を開けた。
 
 
「あの男、かなり<見えてる>んだよなー
 だから、写真を撮りたくなったんだろうけど・・・
 
 データは消したが、あの時の様子は、奴の記憶に残っている。
 そのうち、あんたにいろいろ聞くだろうけど、
 適当にお茶を濁しておけよ」
 
 
「お茶を濁しておけって言われても・・・」
 
 
「わからない、実感がないって言っておけばいいんだ。
 実際そうだろ?」
 
 
透は頷いた。
 
 
「そろそろトボけたセンセイのご登場だ。
 今日はここで消えるけど、
 近々、またあんたと話すことになりそうだ」
 
 
 
 
 
 
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ケムリとの会話が終わって数分後。
ノックの音がして先生が入ってきた。
 
 
「お疲れさまー 大丈夫だった?」
 
 
「はい。僕は、あの部屋にいただけですから」
 
 
「そう?
 イワイシさんは大事な役目をやってもらうって言ってたけどなぁ」
 
 
「はあ・・・」
 
 
先生は低いガラスのテーブルをはさんで
透と向かい合うようにして座った。
 
 
「部屋を完全に閉め切ってたけど・・・」
 
 
と、先生は言いかけたが、はっとしたように口をつぐんだ。
そして、足元に置いた鞄をごそごそと探った。 
 
 
「??」
 
 
透が怪訝に思っていると、ノックの音がした。
「失礼します」
イワイシが入ってきた。
 
 
(先生はイワイシが近くまで来ていることに気づいたんだな・・
 イワイシには聞かれたくないことを俺に話そうとしたのか)
 
 
イワイシは透の隣に座った。
 
 
(服装だけでこんなに変わるかねぇ・・・
 ホントに別人みたいだ)
 
 
「お疲れさま。
 問題なく終わったって暁子サンから連絡をもらったよ」
先生はイワイシに話しかけた。
 
 
「そうですか・・・
 基本的な作業は終わりましたが、以前お話したように、
 完全に安定するまでは、もう少し時間がかかります。

 作業はとても順調でしたので、明日にはご確認いただけます。
 午前中、華子サンに見ていただいて、
 午後、先生と暁子サンに見ていただくということで
 よろしいですか ?」
 
 
「うん。それは大丈夫。予定は空けてあるから。
 僕たちは2時頃でいいかな?」
 
 
「はい。では午後2時に」
 
 
「必要な書類、持ってきてね」
 
 
「わかりました」
 
 
「お金を払うのは華子サンだし、決定権は彼女にあるから、
 今回の作業を特別扱いすることについては、異存はないよ。
 もともとこれを言い出したのは暁子サンだし・・・
 
 ・・・それにしても、相当慣れてるみたいだな。
 いろいろわかってるんだよね?」
 
 
先生の口調は普段と変わらなかったが、
イワイシの表情から何かを探ろうとしているように見えた。
 
 
「わかったつもりになると、痛い目に遭うってことは、
 何度か経験しているので、わかってると思います」
 
 
イワイシの返事を聞いて、先生の顔が一瞬曇った。
 
 
(どういう返事を期待していたんだろう??) 
 
 
「・・・さっき華子サンから聞いたんだけど、
 石の収納用の棚、修理が必要なんだって?」
 
 
「ええ・・・華子サンは大変乗り気でした。
 ただ、こちらもそれなりに費用がかかります。
 先生がおっしゃるように、決定権は華子サンがお持ちですが、
 先生や暁子サンのお考えも伺いたいのです」
 
 
(イワイシってますますわからないなぁ・・・
 
 ケムリの話をした時の反応は何だったんだろう?
 ・・・あのイワイシと、ここにいるイワイシが同一人物って
 ありえないよなぁ)
 
 
 
 
 
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「僕は構わないよ。
 石は華子サンのものだから、彼女がやりたいって言うことに
 反対する気はない。
 
 それにね、僕自身も、石の状態を良くすることとか、
 石を適切に管理するために必要なことに関しては、
 全部やりたいくらいだから。
 
 暁子サンも同じ考えだと思うよ。
 本人から話を聞くべきだけどね」
 
 
「そうですか・・・それならよかった。
 明日、棚の状態をじっくり拝見したいと思います」
 
 
「・・・見ればわかるんだな? 
 何で知ってるんだ?」


先生の目の印象が変わった。
人懐っこさが消え、冷徹な表情になっていた。 
 
 
「・・・・」
 
 
「あの棚は、死んだおじいさんが特注で作らせたものだ。
 でも、目を惹くような外観じゃない。
 高そうには見えるけど、特殊なものには見えない。
 もし、何か石を保護する仕組みがあるとしたら、
 どこか目立たない場所に隠されているはずだ」
 
 
「そうですね。おっしゃる通りです」
 
 
「じゃあ、どうして知ってるんだ?」
 
 
「・・・死んだおじいさんに設計図を提供したのは、
 私の師匠に当たる人の師匠だったからです」
 
 
イワイシは少し間を置いてから答えた。
言うべきかどうか躊躇したように見えた。
 
 
「棚の設計図は何度も見ましたし、修理の経験もあります」
 
 
「死んだおじいさんとお師匠さんとのつながり、
 いつから知ってた?」
 
 
「おじいさんのフルネームを華子サンから伺った時です。
 私の師匠が何度か口にした名前だったので」


先生の表情が柔らかくなった。
  
  
「おじいさんからの手紙・・手紙は見たことなかった?
 かなりやり取りしていたらしいんだけど」
 
 
「私は、師匠の師匠とは、面識がないので、
 手紙のことは知りません」
 
 
「・・・死んだおじいさんは、送られて来た手紙を
 全部処分したみたいで、一通も残ってないんだ。
 
 華子サンの話だと、模様みたいなものが
 びっしり書かれていて、文字には見えなかったらしいけど」




 
 
 
 
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「S駅まで送るよ」
 
 
イワイシがクルマのエンジンをかけながら言った。
 
 
「・・・いろいろ言いたいことがありそうだな」
 
 
クルマは緩やかな斜面を上っていった。
入って来るときと同じように、イワイシがポケットから
リモコンを出して、シャッターを開けた。
 
 
外は薄暗くなっていた。 
 
 
「手紙、一通だけ残ってたんだろ?
 何で知らないって言ったんだ?」
 
 
「アレは残しちゃいけないんだ。
 死んだおじいさんが手紙を全部処分したのは、
 必ず処分するように頼まれてたから・・・
 ・・っていうか、そうしなきゃいけないルールなんだ。
  
 部屋を作る作業に関する手紙を残しておいたのは、
 もう一度やることになると思ったからなんだろう。
 結局、死んだおじいさんは、あの作業を一回しか
 経験しなかったけど」
 
 
「・・・そうなんだ・・・」
 
 
「先生と俺が来る前に、ケムリのバカが来ただろ?」
 
 
「なんでわかるんだ?」
 
 
「・・・うーん・・・あの作業のせいなのかなぁ?
 これまで一人でやってて、すぐに寝ちゃってたから
 気付かなかったけど・・・
 
 感覚がすごく拡大してるっていうか・・・
 普段だったら、絶対わからないことが、ふっとわかるんだ。
 
 作業の後、師匠が頻繁に出かけてたのは、
 この力を使うためだったのかもしれないなぁ。
 
 それにしても、ケムリの奴、余計なことしやがって。
 俺が疑われるってことは考えなかったんだな。
 
 ・・・さっき、部屋に入った瞬間に感じたんだけど、
 先生は何かをハシバに確認したがってて、
 ハシバは自分が知っていることを、
 知らなかったことにしようとしていた・・・たぶんね。
 違ってる?」
 
 
「いや、違ってない」
 
 
「先生が確認したがっていたことは、
 なぜか証拠がなくなってて・・・それで俺を疑ってた」
 
 
「先生は、自分が撮った写真のことを
 俺に話したかったんだと思う」
 
 
「なくなった証拠って、写真のデータか?」
 
 
「うん。ケムリが消した。
 面倒なことになるって」
 
 
「おめーが面倒にしてるんだ!って言ってやりてぇな。
 ・・・ったく・・・腹立つなぁ」
 
 
イワイシはしばらく黙って運転していたが
「そっか・・・先生は、約束の時間より
 ずっと早く来てたんだ。
 
 作業が終わって、部屋から出てくるのを見てたんだな・・・
 だから写真を撮ったのか!
 
 くそー しくったなぁ・・・ぼーっとしてたもんなぁ・・・
 ちょっと気をつけていたら、わかったことなのに。
 すげー悔しい」
 
 
「やっぱマズイのか?」
 
 
「うーん・・・先生に疑われるっていうのは・・・」
 
 
 
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