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お話し小箱。「好きに動かしてみよー」 4 

   
 

 
 
夕方のラッシュが始まる少し前。
電車から降りた透は、自動改札に向かってゆっくり歩いていた。
 
 
「?!」
ポケットに入っている青い石が急に重くなった気がした。
透は改札に向かう人の流れから離れて、
自動販売機の横に移動した。
そして、石を出そうとしてポケットに手を入れた。
 
 
指先が石に触れたとたん、熱を感じた。
 
 
ポケットから出した石は青白く光っていた。
中に入っている「お守り」が発光していた。
そのせいで、石全体が光っているように見えた。
 
 
(どうしよう・・・イワイシに連絡した方がいいのかな・・・)
 
 
透はポケットから携帯を出した。

イワイシの番号を探そうとして、
一度も電話したことがないと気づき、手を止めた。
 
 
(先生が番号を教えてくれたから登録したけど、
 電話するわけないって思ってたんだよな・・・
 暁子サンや先生には俺の番号は知らせてないから、
 当然イワイシも知らないはずだ)
 
 
透はしばらくためらっていたが、
このまま石を放っておくのも心配だったので
電話することにした。
 
 
呼び出し音が2回鳴ったところで
「はい」
という声が聞こえた。
 
 
「イワイシさんですか? ・・・羽柴です」
  
  
「あー よかったー」
<イワイシさん>ではなく、イワイシだった。
笑っているようだった。
 
 
そして、すぐに「石のことだろ?」と言った。
 
  
「??・・・なんでわかるんだ?」
 
  
「・・・説明が長くなるから、会って話したいんだけど、時間ある?」
 
  
「うん」
  
  
「他にも話したいことがあるから、
 暁子サンとアップルパイ食べた喫茶店に来てくれないかな?
 場所わかるよね?」
  
  
「今、その喫茶店にいるのか?」
  
  
「ああ。奥の方の席にいる」
 
 
「わかった。すぐ行く」
  
  
透は電話を切り、自動改札を駆け抜けた。
  
 
 
 
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駅を出てから数分で、喫茶店があるオフィスビルについた。
エントランスでは黒っぽいスーツの男性が二人、立ち話をしていた。
 
 
透はエントランスの突き当たりにあるエレベーターに乗り、
5階で降りた。
 
 
前回同様、席はほぼ埋まっていた。
透はレジの横で店の奥を窺った。
ウエイターが、すぐに透のところに来た。
 
 
「ハシバさまですね。こちらへどうぞ」
 
 
ウエイターは、暁子サンとアップルパイを食べた時の
奥の席に案内してくれた。
 
 
広いテーブルの隅で、イワイシは本を読んでいた。
透に気づくと顔を上げた。
  
 
一分の隙もない<イワイシさん>の服装だったが、
日曜日と同じ「少し背伸びしてる感」があったので、
すぐにイワイシだとわかった。
 
 
「あれ? なんでメガネかけてるの? 近眼だったのか?」
 
 
「これはダテ。かけてると話しかけにくく見えるらしい」
 
 
「・・・確かに。すっげー頭よさそーに見える」
 
 
「ふーん。じゃあ、メガネかけてないと、すっげーバカっぽい?」
 
 
「・・・そうは言ってない」
 
 
透はカバンを床に置き、イワイシの隣に座った。
 
 
「お守りが光ってただろ?」
 
 
「なんで知ってるんだ?」
透はポケットから石を出そうとした。 
 

「今はもう光ってないし、熱くなってないよ」
 
 
イワイシの言うとおり、ポケットから出した石は
いつもと変わらない状態だった。
 
 
「さっき、テスト的にエネルギーを送ってみたんだ。
 やり方は、暁子サンに教わった」
 
 
「へえ・・・何で?」
 
 
「日曜日に必要になるから」
 
 
「ふーん。このまま持ってて問題ないのか?」
 
 
「うん。もしかしたら、また光って、多少熱くなるかもしれないけど、
 充電中だと思えばいい」
  
  
透はもう一度石を眺めてから、ポケットに入れた。
 
 
「で、なんでその服装なんだ?」
 
 
「ああ、これ? 先生に会ってきたから」
 
 
「へえ・・・どこで?」
 
 
「□□ホテルのラウンジ」
 
 
「そんなスゴイところで??」
 
 
「・・・スゴイ? あのホテルは外国人の客が多いから、
 俺がいても目立たないって理由で選んだんだろ。
 
 ・・・もうすぐ店の人が来るから、しばらく黙っててくれ」
 
 
イワイシは再び本に視線を落とした。
 
 
 
 
 
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「失礼します」
 
 
透を案内してくれたウエイターが、
銀色のお盆にいい香りの紅茶と
金色のアップルパイを載せて運んできた。
それらを静かにテーブルの上に並べると、
一礼して去って行った。
 
 
「・・・これ、イワイシが注文したのか?」
 
 
「してない。暁子サンのおごりだよ。
 彼女がいなくても、この店に来たら、
 これを食べるのがお約束なんだ」
 
 
「なんで暁子サンのおごりなんだ?」
 
 
「ハシバと会うって暁子サンに話したら、
 このお店に行きなさいっていうご指示だったから」
 
  
「・・・なんだかよくわからないなぁ」
 
 
「ハシバが< 目に付いた順>に質問するからだ」
 
 
「先生に会ったのは何の用だったんだ? 仕事?」
 
 
「いや、日曜日の食事の時のこと」
 
 
「へー・・・そうなんだ」
 
 
「ハシバのこと、心配してた。
 俺との会話、すっごくやりにくそうにしてただろ?
 だから、ばあちゃんちに二人で行った時も、
 萎縮して、黙って話を聞かざるを得ない状態に
 なってるんじゃないかって思ってたらしい」
 
 
「体育会系の部活の先輩後輩みたいになってると思ったのかな?
 でも、先生と会った時、イワイシさんは気さくな人で
 いろんな話が聞けて面白かったって言ったんだけどなぁ」
 
 
「うーん・・・で も日曜日の様子を見て、
 本当は違うんじゃないかって思ったのかもしれない。
 
 ハシバと話す時は友達モードだから普通に喋るし、
 ハシバも敬語は使わないって話したんだけどね」
 
 
「・・・それ、先生は信じた?」
 
 
「どうだろ? 
 あの人は自分の目で見たことや
 自分が感じたことを重視するからなぁ。
 
 俺が、ばあちゃんやハシバに対しては、
 別のモードで接しているって、
 暁子サンから聞いてたらしいけど・・・
 
 そのモードで話してみてくれって言われたよ」
 
 
「で・・・今みたいに喋ったのか?」
 
 
「まさか。先生に対しては絶対ムリですって断ったよ」
 
 
「納得してくれた?」
 
 
「納得したかどうかわかんないけど・・・
 <絶対ムリ>って言い方は、なんだか知らないけどウケてた。
 でも、すぐに本題に入ったよ。
 
 暁子サンと睨み合いみたいになった時のことだけどね。
 先生からは、注意っていうか、いかがなものか、
 って言われると思ってたんだ。
 
 『客に対してあの態度はないだろう』って言われても仕方ないって
 思ってたし。
 
 暁子サンは、すごく重要なお客さんだからね。
 ・・・もちろん先生もそうだけど」
 
 
イワイシは紅茶を飲んだ。
 
 
「・・・先生は、状況を理解してくれてた。
 それがすごく意外だったんだけど。
 
 お互い様って言い方してたから、ちょっと安心した。
 ・・・こんな話し方じゃ、ハシバには全然伝わんないなぁ」
 
 
「・・・あの時・・・何があったんだ?」
 
 
「・・・うーん。説明するのは難しいんだよな」
 
 
「なんで?」
 
 
「他にもいろいろ説明しないと、意味不明になるから」
 
 
「・・・そんなに込み入った話なのか?」 
 
 
 
 
 
 
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「えーと・・・うーん・・・・どう説明しようかなぁ・・・
 とりあえずアップルパイを食べよう」
イワイシはアップルパイを食べ始めた。
 
  
「・・・ハシバにとっては、作り話っぽく感じるかもしれないなぁ。
 
 もっとも、石がくっついたり、
 色が変わったりっていうのを、自分の目で見てるから、
 理屈じゃ説明がつかないことだって起こり得るのは、
 わかってくれると思うけど」
 
 
「うん。石のことは、友達に話しても絶対に理解されないと思う。
 っていうか、理解してもらえる内容じゃない」
 
  
「そうだよなー 石に関することは、みんなそんな感じだよ」
   
 
イワイシは少し考えてから話し始めた。
 
  
「・・・いろんなことを教えてくれた人がいるんだ。
 
 先生って感じではなかったけど、ものすごく博識で、
 何でも知ってて、不思議なことができて・・・
 すごく・・・尊敬していた。
 
 その人が言うことは絶対だって信じてた時期もあった。
 
 いろいろわかってくるにつれて、その人の考え方が
 必ずしも絶対じゃないって感じるようになった。
 ちょっと複雑だったけどね・・・
 
 今は、人間は一人一人違うから、いろんな考え方があっていいし、
 それが当然だって思ってる。
  
 ハシバから見たら、不思議に見えることって、
 ほとんどがその人から教わったことなんだ。
 
 特定の人間に関する情報の集め方も、
 基本的なところは、その人が教えてくれた。
 
 その時に、叩きこまれたのは、
 相手が納得してくれるような説明ができない時は、
 基本的に相手の情報は探らないってことと、
 やむを得ず、相手の承諾を取らずに情報を入手した時には、
 絶対にそれを相手に告げてはいけないってことだった。
 
 それが基本ルールっていうか、大前提だと思ってた。
 外れる人がいるなんて考えもしなかった・・・
 こういうところが、経験が浅い・視野が狭いってことに
 なるんだろうけど。

 お守りを作る時、ハシバに確認したよね。
 12本あるってことは、ハシバにとっては見えないし、
 全然わからないことだけど、
 だからって、勝手に探っちゃいけないんだ・・・
 少なくとも、やっちゃいけないって考え方は間違ってないと思ってる。
 
 でも、暁子サンは違う考え方だし、理由があったから、
 ああいう発言になったんだけど」
 
 
「ああいう発言って、表に出したくないものを
 さりげなく隠すとか言ってたこと?」
 
 
「そう。あの時はものすごく驚いた。
  
 何となく探られている感じはあったんだけど、
 まさか、それを言うとは思わなかった。
 
 それまでもね・・・どういう方法を使っているのかは
 わからなかったけど、どんなエネルギーと繋がっているのか、
 調べられてる感じがしてた」
 
 
イワイシは紅茶を飲むと、ため息をついた。
 
 
「先生やハシバがいたから、
 あの時は、間接的な表現になったけど、暁子サンはすぐ理解した。
 
 表情には出さなかったけど、彼女も驚いてた。
 俺がキレかけるほど怒るとは思わなかったらしい。
 だから、すぐに謝ったのかもしれないな。
  
 暁子サンがやったことは・・・
 承諾を得ないで情報を探って、それを面と向かって言うっていうのは・・・
 俺にとっては<あり得ないこと>だったんだ。
 ・・・だから、ショックが大きかった。
 
 もっとも、ショックがどうこうっていうよりも
 とにかく自分を保つのが精一杯だったけどね。
  
 暁子サンたちと別れた後、普段だったら、すぐに気持ちが切り替わって、
 言葉のモードも自然に変わるんだけど、
 あの時は、本当にイッパイイッパイになってたみたいで、
 どうしてもできなかったんだ」
 
 
「そんなに大変だったのか?
 めちゃくちゃ話しかけにくい以外は、
 全然そんな風には見えなかったけどな」
 
 
「結構・・・かなり必死だったよ。  
 水を買ってきてもらえたのは、本当にありがたかった」
 
   
 
 
 
 
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透はアップルパイを食べながら、
日曜日のことをもう一度思い出していた。
 
 
「ですから、これ以上は・・・」
背筋が凍りついた瞬間にイワイシが言った言葉。
 
 
(これ以上は探るなってことだったのかな・・・
 
 そういえば、あの時の声は、イワイシではなかったし、
 <イワイシさん>っぽい感じでもなかった・・・
 寒気がして・・・ホントに背筋が凍りそうだった)
 
 
「あの時、なんであんな寒気がしたんだ?」
 
 
「寒気?」
 
 
「背中にいきなり氷水をぶっかけられたくらいだったんだ。
 空気もめちゃくちゃ張り詰めてて、息苦しかったし。
 ・・・それに、その・・・すごく・・・怖いって思ったんだ・・・・」
 
 
 
「・・・そっか。怖かったのか・・・」
イワイシはポツリと言うと、しばらく黙りこんでいた。
 
 
透の視線に気づくと、紅茶を一口飲んで、また話し始めた。
 
 
「空気が張り詰めてたのは、
 暁子サンと俺のエネルギーがぶつかり合ってたからだろ。
 もっとも、暁子サンにとっては、
 蚊を叩き潰すくらいのことなんだろうけど」
 
 
「それは、違う。・・・かなり拮抗してた。
 だから暁子サンは一旦引いたんだ」
 
 
「えぇっ?
 ・・・おい、今、自分が何言ってるかわかってるか?」
 
 
「・・・口が勝手にしゃべってる」
  
 
「・・・ハシバは、よくわかんないエネルギーと
 繋がったり切れたりしてるっぽいな」
  
  
「それって、12本って言ってたのと関係あるのか?」
 
 
「あるよ。たぶんね」
 
 
「たぶんって・・・わからないのか?」
 
 
「調べればわかることだけど、やらない。
 
 これはハシバの問題だし、詳細がわかったところで、
 受け取る準備ができてなかったら、
 『だから何?』で終わっちゃうよ。
 
 もっとも、暁子サンだったら、必要性に気づけば、
 調べるだろうし、その結果をハシバに言うかもしれないけど」
 
 
「でも、イワイシには、それを防ぐ力があるだろ?」
 
 
「・・・やだなぁ・・・ また繋がったのかよ。
 わかったよ。話を聞くよ。
 ハシバはちょっと目をつぶっててくれ。すぐ終わるから」
 
 
透が目を閉じると、瞼の裏側で白っぽい光が何度か点滅するのが見えた。
 
 
「・・・はい、終わり。目をあけていいよ」
 
 
透が目をあけると、イワイシはメガネを外して、額を押さえていた。
 
 
「・・・大丈夫か?」
 
 
「うん。予想以上に強いエネルギーだったから・・・
 どうしてハシバを経由したんだか・・・」
 
 
「話って何だったんだ?」
 
 
「うーん・・・どう説明したらいいのかなあ。
 ちょっと変わった人で・・・ヒトなのかな?
 助けてくれるみたいだった。

 嫌な感じはしなかったから、たぶん、大丈夫なんだと思う。
 意味不明だろうけど、今の段階では、これしか言えないなぁ」
 
 

 
 
 
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日曜日。
 
 
透は9時5分前にS駅に着いた。
2番線へ続く階段を降りると、
イワイシがベンチに座っているのが見えた。
 
 
遠くを見ながら何か考え込んでいるようだった。
 
 
「おはようございます」
 
 
透が声をかけると、ちょっとびっくりしたようだった。
「あ・・・おはよ。
 よく寝た? 朝ごはん食べてきた?」 
 
 
透は頷くと、イワイシの隣に座った。
 
 
「今日はちょっとハードかもしれないけど、
 たっぷり寝てるなら大丈夫だな」
 
 
「部屋を決めるって、大変なことなのか?」
 
 
「さあ・・・やってみないとわからないよ。
 石、持ってきてるよね? 見せてくれる ?」
 
 
透はポケットから石を出して、イワイシに渡した。
 
 
イワイシは石を太陽の光にかざすようにしてじっと見つめた。


「これなら問題ないな・・・
 
 今日やることは、部屋を決めるっていうより、
 部屋を作るっていう感じかな」
 
 
「部屋を作る?」
 
 
「部屋の環境を整えるってことだけどね。
 いろいろ準備しないと、石を長い時間置くのはムリなんだ。
 
 石の博物館として使っている部屋って、
 死んだおじいさんが、今日やろうとしている作業と
 同じようなことをやって環境を整えたんだ」
 
 
「何で知ってるの? ばあちゃんに聞いたのか?」
 
 
「いや・・・死んだおじいさん宛の手紙で知ったんだ。
 石が詰まった箱の底に入ってた・・・
 
 部屋の環境の整え方が・・・暗号ってほどでもないけど、
 解読の方法がわからないと読めない文字で書かれてた。 
 
 ・・・読み方を教わってたから読めたよ。
 今日、やるつもりのことが全部書いてあった。
 表現は多少違ってたけどね。
 
 その手紙の差出人の名前は、
 俺にいろいろ教えてくれた人が
 よく口にしていた名前だった。
 
 自分が知っていることのほとんどは、
 その人から教わったって言ってたなぁ・・・」
  
  
電車の到着を知らせるアナウンスが流れた。
イワイシは足元に置いてあった大きなカバンを
持つと立ち上がった。
 
 
「今日は、いろんなことがあるかもしれないけど、
 ハシバには影響が及ばないようにするから。
 そのかわり、やってほしいことと、やっちゃいけないことを
 後で説明するから、絶対に従ってほしいんだ」
 
 
イワイシの真剣な表情を見た透は、神妙な面持ちで頷いた。
 
 
 
 
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改札を出ると、イワイシは商店街とは逆の方へ歩き出した。
 
 
「昨日、クルマを置いてきたんだ」
 
 
古ぼけた雑居ビルが並んでいる中にぽっかり空いた空間があり、
コイン駐車場の黄色い看板が立っていた。 
 
 
この間乗ったのと同じような印象のシルバーメタリックのセダンが
ポツンと停まっていた。
 
 
「クルマだと、10分もかからない」
 
 
ごちゃごちゃした狭い道を抜けると、片側2車線の道路に出た。


「みんなクルマで移動するようになっちゃったから、
 電車の駅の周辺はどんどんさびれる」
 
 
道路の両側には広い駐車場を備えた大きな本屋やドラッグストア、
ファーストフー ド店、ファミリーレストランなどが並んでいた。
 
 
「・・・幹線道路って、どこに行っても似たような感じだよな」
 
 
イワイシの言葉を聞いて、透は不思議な気がした。
 
 
(一体、何年間日本に住んでるんだろう?
 電話の会話だったら、絶対に外国人だとは思わないだろうなぁ・・・)
 
 
まっすぐな道をしばらく進み、交差点で左折。
広い庭のある、大きな家が立ち並んでいる区画に出た。
 
 
「暁子サンの話だと、このあたりは昔からお屋敷街だったらしい。
 ここ数年は、広い土地を相続できなくて、分割しちゃったり、
 外国人向けの高級アパート建てたりなんてケースも
 出てきてるらしいけど」
 
 
T字路になっているのか、 正面に白いシャッターと
大きな門のある家が見えてきた。
 
 
「あれ、ばあちゃんち。この間入った入口の反対側」
 
 
イワイシはクルマを減速させると、
ポケットから黒っぽいキーホルダーのようなものを取り出した。
 
 
大きさが3センチくらいの楕円形。
中央に赤いボタンがついている。
イワイシはそれをシャッターに向け、ボタンを押した。
 
 
シャッターが上がった。
「リモコン式なんだ。ばあちゃんの親戚だか、知り合いだか
 こういうの扱う仕事してるんだろ?
 
 受信機に登録してあるリモコンからの操作しか受け付けないんだけど、
 さらに、ナンバープレートも読み取るしくみがついてる。
 
 予めナンバーを登録しておかないと、リモコンを持ってても
 開かないようになってる」
 
 
シャッターの奥は薄暗かった。
「このまま地下の駐車場に続いてるんだ」
 
 
クルマは緩い坂を下りて行った。 
 
 
 
 
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「駐車場からだと、あっさり入れちゃうんだな」
 
 
石の博物館へ続く廊下を歩きながら、透はイワイシに
話しかけた。
 
 
「今日は特別。この時間に行くことを知らせてあるし、
 前もっていろいろ解除してもらってるから」
 
 
「へえ・・そうなんだ」
 
 
イワイシは石の博物館の部屋のカギを開けた。
 
 
「整理してあるから、気分が悪くなることはないよ」
 
 
透が身構えているのに気づいたらしい。
 
 
床に置いてあったダンボール箱は全部なくなっていた。
積み上げられてあった箱も片付けられていた。
 
 
先週行った、白いマンションの部屋のような
居心地の良さが感じられた。
 
 
「 この部屋、この間と全然違うなぁ」
 
 
「石をきちんと並べれば・・・なんていうのかなぁ、
 落ち着いてくつろげる感じになるんだけどね。
 まあ、そういうのがわかる人の方が少ないから、
 テキトーに並べられてても、それはそれで仕方ない」
 
 
イワイシは部屋の奥の大きな木製の扉に向かって歩いた。 
 
 
「新しい部屋はね、この奥につくるんだ」
 
 
扉の前で、イワイシはカバンを床に下ろした。 
 
 
「何から説明しようかなぁ・・・
 とりあえず身につけてもらうものを渡すよ」
 
 
イワイシはカバンから長い紐のついた小さな巾着袋を
取り出した。
 
 
「この中にお守りの石をいれて、首にかけて」
 
 
透は言われた とおりにした。
 
 
「それからコレ」
 
 
イワイシの手のひらの上には、
白いマンションで作業した時にはめた、
魔法使いのおばちゃんの指輪が乗っていた。
 
 
透は指輪を受け取ると、右手の中指にはめた。
 
 
「あと、コレね。ちょっと重いかもしれないけど」
 
 
透に渡されたのは、直径が3センチくらいありそうな
透明な玉を連ねた長い首飾り。
アクセサリーではなく、儀式の道具という雰囲気だった。
手に持つとずっしり重い。
 
 
「ちょっとどころじゃないよ、コレ。かなり重たい」
 
 
「首にかけてみな。それほどじゃないから」
 
 
 
 
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「そうかなぁ。こんなに重いと、首と肩が凝りそうだ」
 
 
透はそう言いながら、渡された首飾りをかけてみた。
その瞬間、何か暖かいものがふわっと身体全体に
広がったような感じがした。
イワイシが言う通り、手に持った時に感じた重さよりは
はるかに軽かった。 
 
 
「全然重くない。なんで??」
 
 
「俺も知らない。そーゆーもんなんだって」
 
 
「いろいろ教えてくれた人がそう言ってたの?」
 
 
「うん。だいぶ前だけどね」
 
 
イワイシは床に腰をおろした。
「ハシバも座れよ。これからやること、説明するから」
 
 
透も床に座った。
 
 
「これから、隣の部屋の下・・・下なのかなぁ?
 まあいいや、下ってことにしよう。
 とにかく、俺は部屋の下に行って、作業をしてくる。
 ハシバは部屋で待機しててもらう」
 
 
(部屋の下? 床下?・・・何かあるのかな?) 
 
 
「20分以内に終わるから、それまでに戻る。
 もし戻ってこなかったら、暁子サンに連絡してもらうから」
 
 
「暁子サンって、今日はどこにいるんだ?」
 
 
「この家の敷地内にいるよ。
 何事もなければ、俺と顔を合わせないようにしてくれるはず」
 
 
イワイシはカバンの中から大きな砂時計を出して透に渡した。
 
 
「砂が全部落ちたら20分。
 デジタルのタイマーでもいいんだけど、気が狂いそうになる」
 
 
「気が狂いそうになる・・・?」
 
 
「・・・俺も20分間待機してたことが何度かあるから。
 タイマーの数字を何度も見てると、気がヘンになるんだ。
 
 いろいろ教えてくれた人・・・師匠って言えばいいかな・・・
 今日やるのと同じ作業を彼がやってる間、待機してた。
 
 ・・・怖かったよ、すごく」
 
 
 
 
_____________________
 
 
 
 
「・・・ハシバなら、それほど怖がらないと思うけどね。
 正直に言うと、ハシバを待機させるのが、怖い。
 だから一人でやろうとしてたんだ。
 
 今日やる作業は、これまでに3回やってる。
 ただ、毎回いろいろなことが起こるから、同じことを
 3回やったって印象はないけどね。
 
 でも、誰かに待機してもらったことはないんだ」
 
 
「・・・だから来ない方がいいって言ったのか?」
 
 
「うーん・・・このヘンを説明するのは難しいな・・・
 
 暁子サンは、俺が何でもひとりでやろうとするのを
 やめさせようとしてるんだ。
 
 ひとりでできることには限界がある。
 ・・・それはわかってるんだけどね。
 ひとりでやろうとするのは、他人を信用してないからだ
 って言われたよ・・・反論できなかった。
 
 暁子サンが、俺についていろいろ調べたのは・・・

 ・・・彼女と先生は手持ちのカードをある程度は見せてるんだ。
 
 でも、俺の場合は、今の仕事に関係のないカードについては
 ほとんど見せてなかった・・・これも理由の一つだと思う。
 
 それに・・・あの人たちが、現状以上の関わりを
 必要としてるかも? なんて考えたことなんかなかったし、
 そんなものを俺に対して期待してるとは思えなかった」
 
 
 「・・・・」
 
 
「今日の作業、どうしても一人でやりたいってわけじゃない。
 ハシバが邪魔とか、足手まといとかそういうことでもない。
 
 待機してもらってた方が体力的な負担ははるかに少ないんだ。
 一人でやってやれないことはないんだけど、二日分の時間が消える」
 
 
「時間が消える?」
 
 
「うん。初めてひとりだけで作業したのは、金曜日だったんだ。
 夜の8時頃帰ってきて、ちょっとのつもりで横になった。
 目が覚めて時計を見たら、9時だった。
 一時間寝たと思ってたんだけど、それは土曜日の夜の9時だったんだ。
 ・・・その時はわからなかったけどね。
 眠かったから、また寝た。で、次に目が覚めたら、午前6時。
 土曜日の朝だと思ってたんだけど、実際には月曜日の朝だった」
 
 
「二日間、ずっと眠ってたってこと?」
 
 
「ああ。月曜日の朝だって わかった時は、しばらく呆然としてた。
 たまたま、何の予定も入れてなかったからよかったけど。
 
 その後の2回も同じ。一人でやるとニ日間寝込むくらい疲れるんだ。
 
 だから、待機してもらえるのは、すごくありがたいよ。
 でも、さっきも言ったけど、待機してもらった経験がないってことが
 心配なんだ。
 
 師匠は、待機することもさせることも何度も経験してた。
 だから、なんていうのかな、待機してる間は、怖かったけど
 絶対に20分以内に戻ってくるはずだって確信があった。
 
 もっとも、初めて待機した時は、ものすごく怖くて、
 時間の流れがめちゃくちゃ遅く感じられて、
 頭がおかしくなりそうだったけどね」
 
 

_____________________
 



 
「・・・待機って何してればいんだ?」
 
 
「ただ20分間ボーッと待ってりゃいいんだ。
 戻ってこなかったら、しかるべき人に連絡する。
 今回の場合は、暁子サン」
 
 
「それだけ?」
 
 
「基本的にはそれだけ。
 あとは、20分経たなくても、
 何かおかしいと感じた場合は、連絡する。
 ・・・自分に危害が及びそうな場合も含めて」
 
 
「そういうこともありえるのか?」
 
 
「100%ないとは言い切れない。
 だから、こういうヘンテコな首飾りだの指輪だの
 つけてもらってるんだ。
 ・・・電車に乗る前に言ったけど、
 ハシバには影響が及ばないようにするから」
 
 
「・・・・」
 
 
「隣の部屋、暗いんだ。
 雨戸を閉めてある。
 それに、現時点では、電気、つけられないから」
 
 
イワイシはカバンの中からペンライトを出して
透に渡した。
 
 
「十分な明るさじゃないけど、
 モノがハッキリ見えない方がいいと思う」
 
 
「どういう意味?」
 
 
「見ない方がいいものまで見えることもあるから」
 
 
「・・・見ない方がいいものって何だ?」
 
 
「いろいろだよ。余計な恐怖感を煽るものとか。
 
 ・・・あまり深く考えるなよ。
 砂時計を気にしてほしいけど、砂時計ばっかり見るな。
 時間が一秒も進んでないような気分になるから」
 
 
イワイシはそう言うとカバンからもう一本ペンライトを取り出し
スイッチを入れた。
そして立ち上がると、大きな扉を開けた。
「あまり長い時間開けておきたくないんだ。
 こっちの部屋にすぐ入ってくれ」
 

透が隣の部屋に入るとすぐにイワイシが続き、扉を閉めた。
ペンライトの丸い光が、ぼんやりと室内を照らした。 
 
 
部屋の中はがらんとしていた。
 
 
「あれはなんだ?」
部屋を区切るように、何かが積み上げてあった。
高さは60~70センチくらい。
 
 
「石だよ・・・黒くなって戻せなくなった石」
 
 
「こんなにたくさんあったのか?」
 
 
「何年も放置されてたものが多かったからね。 
 でも、こういう形で役に立ってくれる・・・
 
 待機している間、絶対にあの石の向こう側に行くなよ。
 こっち側にいれば安全だから。
 
 それと、何かが起こって、暁子サンに連絡した場合は、
 彼女が来るまで、この部屋にいてくれ。
 外に出るな。
 
 暁子サンが扉を開けるまで、絶対にこっちから開けるなよ」
 
 
イワイシの強い口調に透は黙ってうなずいた。 
 
 
 
 
_____________________
 
 
 
 




「暁子サンへの連絡は、この携帯を使ってくれ」
 
イワイシはポケットから携帯電話を出して透に見せた。
 
「このボタンを押せばリダイヤル。
 何もしゃべらなくていい。
 
 これから暁子サンに作業開始の連絡をするけど、
 そのあと、この携帯から着信があった場合は、
 すぐにこの部屋に来るように頼んであるから」
 
 
イワイシはボタンを押し、携帯を耳に近づけた。
 
 
「・・・イワイシです。おはようございます。
 これから始めますので、打ち合わせの通りにお願いします。
 
 ・・・はい、それは伝えました・・・では、またあとで」
 
 
<イワイシさん>の口調で話すと、すぐに会話を終え、
携帯を透に渡した。
 
 
「じゃあ、始めるよ。扉に近い位置に座ってて。
 何か変だと思ったら、すぐに暁子サンに知らせろよ」
 
 
イワイシは、部屋を区切るように積み上げられた黒い石を
ペンライトで照らした。
 
 
「これだけあれば、大丈夫だと思うんだけど・・・」
と呟くと、ひらりと黒い石を飛び越えた。 
 
 
ほぼ同時にパシッという乾いた音が室内に響きわたった。
積み上げてある石の上の方の何個かが、
オレンジ色に輝いたかと思うと、
光の粉をふり撒きながら砕け散った。
 
 
透は眼を見張った。
 
 
「石が光って砕けるのは、この後、何度も起こるけど、
 部屋のそっち側を守っている証拠なんだ。
 大丈夫だから、心配するなよ。
 砂時計ひっくり返して、時間を計り始めてくれ」
 
 
イワイシはそう言うと、片膝をついて、右手を床に当てた。
数秒後、床全体が明るくなった。
再び、パシッという音が響き、オレンジ色の鋭い光が飛び散った。
イワイシの姿がふっと消えた。
 
 
パシッ・・パシッ・・パシッ・・ 
オレンジ色の光の点滅が続く。
この音がするたびに、石がどんどん減っているのだと思うと、
透は不安になってきた。
 
 
床に置いた砂時計の砂は一向に減らない。
 
 
砂時計ばかり見るなとイワイシは言っていたが、
だからと言ってオレンジ色の光の点滅を眺める気にも
なれなかった。
 
 
パシッ・・パシッ・・・
音の間隔が、次第に短くなってきているような気がした。
 
 
(本当に大丈夫なのかな・・・気分が悪くなりそうだ)
 
 
携帯もペンライトもきつく握りしめていることに気付いて、
透は二つとも床に置いた。
 
 
指先がしびれている。
手を振ってみたが、こわばった感じは取れなかった。
 
 
 
 
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「おい、大丈夫か?」
 
 
不意に低い声が聞こえた。
透はびっくりして後ずさった。
 
 
「そんなに驚くなよ」
 


前方に、白っぽい光がぼんやりと浮かんだ。
風にたなびくようにゆらゆらと揺れている。
 
 
バチバチバチバチッ
大きな音が響きわたり、オレンジ色の光が
部屋いっぱいに広がった。
大量の石が一度に砕けたらしい。
 
 
「おー 派手にやっとるなぁ」
 
 
オレンジ色の光が消えると、白っぽい光はさっきより
ハッキリ見えた。
 
 
「・・・だ・・・だれ・・・?」
 
 
「話ができるなら、まだ大丈夫そうだな。
 ・・・俺は、ケムリ。
 奴に、ケムリが来たってちゃんと言っとくんだぞ」
 
 
「・・・奴って?」
 
 
「イワイシ。
 あの野郎、すました顔してるくせに、
 怒らせるとめちゃくちゃ怖いな。
 二重人格みたいだ」
 
 
透はなんだかホッとした。
この声の主は、自分の味方だと感じていた。
 
 
「・・石が・・石が光ってどんどん消えてくんだけど・・・」
一番気がかりなことを聞いてみた。
 
 
「ああ、<壁>を作るためのエネルギーを出してるからな。
 壁っていうのは、あの野郎がいる場所と、ココとを隔てる壁」
 
 
「なんで壁が必要なんだ?」
 
 
「あんたがどこまで知っているのかわからないが、
 まだ、この部屋は準備が整ってない。
 あっち側からの力がかかると厄介なんだ。
 
 準備ができるまで、あっち側から流れてくるものを
 ブロックしてる。
 変色しちまった石たちの最後のご奉公ってとこだな。
 
 ・・・意味、わかんなくても気にするな。
 わかったところで、何かイイコトがあるわけでもない」
 
 
ケムリの説明はよくわからなかったが、
わからなくても気にするなと言われたので、
透は別の質問をすることにした。 
 
 
「・・・ケムリって、イワイシの知り合い?」
 
 
「知り合い? そんな気取ったもんじゃねーよ。
 それに俺、あんたとも会ってるんだぞ」
 
 
「??・・・いつ?」 
 
 
「会ってるなんて言い方するとあの野郎に
 ふざけんじゃねーって怒鳴られるだろうなぁ。
 
 最近、自分でも思いがけないことを
 口にしてることがあっただろ?
 あれ、俺のせい」
 
 
「・・・近くにいたんだ」
 
 
「そーだよ。あの野郎に用があったんだけど、
 とりつくシマがないくらい頑固にブロックしてたんでね、
 代わりにあんたにちょっかい出してみた」
 
 
「・・・・」
 
 
「奴は、俺がいることには気づいてたみたいだが、
 人畜無害って判定だったらしく、そのままスルー。
 
 あの野郎がモノゴトをどういう風にとらえてるのか
 よくわからないが、特に害はないって判断すると、
 意識に上らせないことがある。
 他のことに注意を向けているときは特にね。
 
 ま、その判断は正確だし、放っておいてもいいことか
 どうかもきっちり見極められるみたいだが。
 
 とにかくスルーしまくるから、
 ちゃんとわかるようにしてやったら、
 これまでのあんたのおかしな発言が
 全部俺のせいだったと気づいて、ブチキレやがった。
 ・・・最初から気づけよ!って言ってやったら、
 火に油を注いだみたいで、本気でキレてた。
 
 言っとくけどな、勝手なことしゃべらせたわけじゃないぜ。
 あんたは心の奥底でハッキリ感じていても、
 口に出さないことが多いから、それを言わせただけだぞ」
 
 
 
 
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「あの喫茶店で、イワイシに話しかけたのか?
 別に怒ってる感じでもなかったけどなぁ」
 
 
「あのときは、まだよくわかってなかったらしいな」
 
 
透は喫茶店でのイワイシの様子を思い出した。
 
 
『・・・やだなぁ・・・ また繋がったのかよ。
 わかったよ。話を聞くよ。
 ハシバはちょっと目をつぶっててくれ。すぐ終わるから』
 
 
(あのとき、ケムリのことをちゃんと認識したのかな??) 
 
 
『うーん・・・どう説明したらいいのかなあ。
 ちょっと変わった人で・・・ヒトなのかな?
 助けてくれるみたいだった。
 
 嫌な感じはしなかったから、たぶん、大丈夫なんだと思う。
 意味不明だろうけど、今の段階では、これしか言えないなぁ』
 
 
(ケムリは一体何を伝えたんだろう??)
 
 
 
「イワイシは、嫌な感じはしないとか、助けてくれそうだとか、
 そんなことを言ってたなぁ」
 
 
「そーだよ。奴が何をしようとしてるのかわかったからさ、
 ちょっとくらい手を貸してやろうって気になったんだ」
 
 
「それでイワイシは、警戒しなかったのかなぁ??」
 
 
「かもしれんな。
 でも、あんたと別れた後、奴のアタマの中の点が全部つながって
 線になったとたん、ものすごい勢いで俺を追いかけてきた。
 あのときは本気でおっかなかったなぁ」
 
 
バチバチバチバチッ!!
さっきよりもさらに大きな音が響きわたった。
透の視界いっぱいに、オレンジ色の光が広がった。
そして、次の瞬間、部屋は暗くなった。
 
 
「もうそろそろ終わるはずだ」
 
 
ケムリの声を聞いて、透はペンライトを探した。
砂時計を見るのに使いたかったのだが、
オレンジ色の光の残像で目がチカチカするので、
すぐ近くのものさえよく見えない。
 
 
「まだ20分経ってない・・・12,3分ってとこかな。
 奴は20分かけないで終わらせられるはず」
 
 
「なんでわかるの?」
 
 
「集中力がハンパじゃねーからな。
 でもそれって、夢中になって遊んでるガキとおんなじ。
 えらそーにしてるけど、根はかなり単純だぜ」
 
 
「イワイシのこと、よく知ってるんだ」
 
 
「知ってるっていうか、見りゃわかるじゃねーか。
 ガキって顔に書いてある」
 
 
「・・・・」
 
 
「俺が言ったこと、全部奴にしゃべって構わないぜ。
 アイツはアイツで、俺のこと、おしゃべりオヤジだの、
 おせっかいジジィだの、メチャクチャ言うだろうから。
 
 ・・・黒い石、だいぶ少なくなってるけど、
 奴が戻ってくるまでは持つから心配するな。
 俺は、奴が戻ってきたのを見届けて消えるから」
 
 
オレンジ色の光の点滅が速くなった。
ペンライトをつけなくても、積み上げてあった石が、
あとわずかになっているのがわかった。
 
 
パシッ・・・パシッ・・・ 
その残り少ない石も、どんどん砕けて消えていく。
 
 
「そのうちまたしゃべりに来るからな」
 
 
そういうとケムリはふっと消えてしまった。
 
 
 
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