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お話し小箱。「好きに動かしてみよー」29 

 





「・・・石の色・・・
 もしかして、また変わったんじゃないか?」
イワイシは何か気配を感じたらしい。



「なんでわかった?
 今、石がすごく熱くなったみたいなんだけど」


透はポケットに手を入れた。
指先に触れた石は思ったほど熱くなかった。
外に出してみると、石は金色に変わっていた。



「石の色が変わるなんて、
 本当はすごいことなんだろうけど・・・

 勝手に変わっちゃうから、
 どうも自分が関わってる感じがしないよ」




イワイシは窓に近づき、
レースのカーテンを少し開けて外を眺めた。
「・・・ケムリは、俺が双子だとかって話したんだろ?
 兄がいるとかなんとか」




「ああ」
透は、どうして急にそんな話をするんだろうと思いながら
返事をした。



「今と似た状況があったことをふっと思い出したから」



「は? どういうこと?」




「不思議なことが勝手に起こってるって感じ、
 俺も、ものすごく強かった。
 今だってそういう感覚は残ってるんだけど。

 何かの力が自分の中を通過して、
 その結果、不思議なことが起こる。
 自分の意思とは無関係に。
 ・・・これって、今のハシバと同じだろ?


 でも兄は、そうじゃなかった。
 力のコントロールにやたらとこだわってたんだ。
 実際、自分の意思でいろいろと不思議な現象を
 起こすことができたんだ・・・毎回必ずね。


 俺の場合、やろうと思うと全くできなかった。
 その代り、全く予期しないタイミングで、
 予想外のことが起こるんだ。
 自分ではどうしようもなかった。
 ホントに勝手に起こるって感じだった。

 だから、そういうことが続くたびに
 からかわれてるとか、
 意地悪されてるとか、
 そんな風に考えてたよ。

 でも、そのうち・・・
だいぶ経ってからって言うべきかな・・・
 慣れてきたせいだと思うんだけど、
 不思議なことが起こる時の前兆みたいなものに
 気付けるようになった。
 
 勝手に起こってるって感覚がなくなると、
 親しみっていうか、そういう気持ちが出てきて、
 面白いと思うようになった。

 そしたら、力が一点に集中するようになったらしい。
 それまでは、拡散する方向だったのかな。
 いろんなことができるようになっていったよ。

 今のハシバみたいに、
 自分が起点になっている感覚はほとんどなかったのに、
 大きな変化を起こせるようになった。

 そうなると、俄然面白くなって、
 いろいろ試して遊ぶようになった。
 不思議なことを起こすスイッチがわかるようになった。

 スイッチって表現でいいのかなぁ?
 電化製品を使うときにスイッチを入れるみたいな感じで、
 力のオンオフが自由にできるようになった。
 ・・・つまり、使いたいときに使えるようになったって
 ことなんだけど。

 それが不幸の始まりだったのかもしれない」



「不幸の始まり・・・」




「なんて言うか・・その・・・
 そう・・・完全に格下だと思ってた相手が
 自分を超えていくのって、気分悪いよね?」
イワイシの表情は暗かった。



「それって・・・もしかして・・・
 お兄さんとイワイシの関係のこと?」
透が遠慮がちに尋ねると、イワイシは黙ってうなずいた。
何か話すかと思ったが、そのまま黙っているので、
透は言葉を続けた。


「うーん・・・でもさ、兄弟でピアノとか習ってると、
 あとから始めた下の子の方が、
 どんどん上達して上の子を追い越すなんて、
 めずらしいことじゃないだろ?
 才能も関係あるだろうし、
 ピアノが本当に好きかどうかによって
 練習のときの態度も変わるだろうし」



「才能があると周囲から認められて努力していた兄が
 無能だと言われていた弟に追い越されたら?」



「・・・でも、それって、
弟に才能があったってことだろ?
 確かに兄貴は気分悪いだろうけど、
 それが人生のすべてじゃないんだから・・・」 




「だけど、現実には、
 人生のすべてを賭けてるところで、
 そういうことが起こったりするんだよ」



(人生のすべてを賭けるようなことってなんだろう??
 全然ピンとこないんだけど・・・)




「・・・知らないほうがいいこともあるって
 何度も言ったけど、ホントにそうなんだよ。

 知ってしまったら、二度と引き返せない。
 もう、知らない状態には戻れないんだ。

 ケムリは中途半端に兄の話をしたみたいだな。
 俺が激怒すると思って、いろいろ伏せてるのは
 気を遣ってるつもりなんだろうけど。

 ・・・全部ハシバに話してくれってメールしておくよ。


 ただ、話としてはわかっても、
 どうしてそうなるのかとか、
 なんでそんな状況に陥るのかってことは、
 理解できないんじゃないかな。
  
 ハシバが住んでる世界とは、ぜんぜん違うから」 



「え??」




「同じ場所にいて、同じような生活をしているように見えても、
 みんな別々の世界に住んでると思うよ。
 
 同じものを見ても、印象とか感想は人それぞれだから。

 自分にとっては、普通で当たり前のことだって、
 他人にとってはそうじゃないことってたくさんあるだろ?」




「そういう部分は確かにあるけど・・・」
透は言葉を濁した。



イワイシが言っている<世界が違う>というのは、
そんなレベルじゃないと感じていた。
自分には、想像することさえできない世界のように思えた。



イワイシは紅茶を飲み干した。
「石絡みのことをこれからもやるかどうかは、
 そんなに急いで決めなくてもいいよ。
 やりたい気分の時だけやるってことでもいいし。

 もっとも、その石を持っている限りは、
 何らかの接点が出てくると思うけどな」







_____________________






イワイシのクルマがS駅のロータリーに入ると、
路線バスの案内板の前に、
ケムリらしき人物が立っているのが見えた。



「せっかちな奴だなぁ」
イワイシは呆れたように呟いた。


「このあと時間ある? 
 ケムリはハシバと話をしたいらしい」



「時間はあるけど・・何の話だろ?」



「全部話していいって、さっきメールしたんだ。
 自分が知ってることを
 洗いざらいぶちまけたいのかもな」
イワイシは笑いながら言うとクルマを停めた。


「気が向いたら連絡してくれ」
透がクルマを降りてドアを閉めると、
イワイシはすぐに帰ってしまった。



ケムリが近付いてきた。
「話したいんだけど、いい?」



透が頷くと、
「じゃ、行こう」
と言って歩き出した。



住宅街の喫茶店に向かうのかと思ったが、
信号を渡って大きなドラッグストアの前を通り過ぎ、
コインパーキングに入って行った。
そして黒い軽自動車に近づくとドアを開けた。



「え? これって自分のクルマなんですか?」


「そうだけど」



「軽って・・・」



「悪いか?」



「いえ、軽とか乗るタイプじゃないと思ったから・・・」



「じゃあ、どういうタイプなんだよ」
ケムリはクルマに乗り込んだ。



透が助手席に座り、シートベルトを締めるのを確認すると、
ケムリはサイドブレーキに手をかけて言った。
「あまり人に聞かれたくない内容だからさ、
 クルマの中で話すよ。
 ちょっとドライブしてからだけど」



「どこ行くんですか?」



「河川敷の駐車場かな。
 イベントとかなければ、
 ほとんどクルマは止まってないし」



クルマはコインパーキングを出ると
駅前通りを少し走って右折し、
交通量の多い道に出た。


何度か信号で引っ掛かりながら進み、
大きな三叉路に出たところで、
クルマは左斜めに進み、
ゆるやかな坂道を下りて行った。


埃っぽい道が続いたあと、
駐車場の看板が見えてきた。



「やっぱり1台も停まってないなぁ」
ケムリは消えかかった白線で区切られた区画の
一番奥にクルマを停めると、
エンジンを切り、シートベルトを外した。



「さてと・・・
 イワイシから、話したかったら全部話せとかいう
 短いメールが来たんだけど・・・

 どういう心境の変化だったんだろ?
 今まで話したことのない話題が出たとか?」



「自分からお兄さんの話をしてました。

 イワイシが力のオンオフができるようになったのが
 不幸の始まりだったとか言ってましたね。

 それと、格下の相手が自分を超えていくのは
 気分がよくないだろうとか。

 イワイシの力がお兄さんの力を
 上回るようになったから、
 二人の関係がギクシャクするようになったのかなと
 思ったんですけど」



「そんなところでだいたい正解。
 まあ・・・ギクシャクとかいうレベルじゃなかった。

 たぶん、イワイシも言ってたと思うけど、
 この世界・・つまりハシバくんが住んでる世界とは
 まったく違う世界の話だから、
 聞いても、おそらく理解できないと思う。

 言葉の意味がどうこうって言うんじゃなくて、
 話の設定自体が意味不明かもしれないし、
 どうしてそうなるのかとか、
 なんでそんな選択肢しかないのかとか、
 ツッコミどころ満載になるんじゃないかなぁ」



「そうなんですか・・・
 イワイシも住んでる世界が違うって言ってました。

 あの・・
 もしかして・・・・
 二人とも異次元みたいな場所から来てるとか?」

透は思い切って質問してみたが、
口に出してみると、ものすごく馬鹿げたことに思えた。



二人が<全く違う場所>から来たのではないかという感覚は、
以前からずっと持っていたことだったが、
自然な日本語で普通に会話している相手に対する質問としては
突拍子のないものだったし、かなり失礼かもしれないと思った。




「そうだよ」
ケムリは短く答えた。
「ハシバくんは最初からわかってたみたいだったけど?」



「いや、その・・・
 そういう感覚は確かにあったんですけど・・・
 二人とも、普通っていうか、ヘンなところがないから、
 そんなはずないんじゃないかって・・・
 あまりにも馬鹿げてるし・・・」



「でも、<こいつらは絶対違う>って感覚は
 消えなかったんだろ?」




_____________________





「イワイシも俺も違う世界から来てる人間って認識を
 持っているんだったら、
 あまりに作り話的な設定でも、
 とりあえずは、受け入れてもらえるのかな」
ケムリはドリンクホルダーのペットボトルの水を飲んだ。



「実際とはかなり違うけど、
 説明のためにごくごくわかりやすく言うと、
 大きな勢力を持っているお寺とか神社とかの
 後継ぎ問題みたいな話っていえばいいかな・・・

 ハシバくんの常識はいったん棚上げしてもらわないとね。

 イワイシの家は、不思議な力を持つ人間が生まれる家系で、
 何代かごとに双子が生まれることになっていた。


 双子は、大きなターニングポイントなんだ。
 ここで家の力というか勢力が変わるというのが理由らしい。

 双子が生まれたら、力を高めるために
 ある年齢に達したら、強い能力を持つほうを残して、
 弱い方を・・・その・・・消すことになっていた。


 だから、双子の場合、後継ぎになれるかどうかは
 生死に関わる問題になる。


 イワイシと兄貴の場合、
 どちらが残るかは明白だった。

 イワイシの本当の名前・・・
 幼名みたいなものだけど、覚えてるよね?」



「リィン・・でしたっけ?」




「そう。
 兄貴はルドゥという名前だった。
 これからの話は、この名前を使うよ。

 リィンはかなり小さくて病弱だった。
 しょっちゅう熱を出して寝込んでいた。
 しかも、感受性が強すぎるせいか、
 極端な人見知りだった。


 双子の場合の後継ぎ選びについては、
 幼少時代の欠損こそが
 その後、新たな力を生み出すという考え方があったし、
 今後どうなるかわからないから、
 時が満ちるのを待とうという声もあったんだけど、
 <見込みなし>の声があまりにも大きかった。


 泣いてばかりいるリィンとは対照的に、
 ルドゥはいつもニコニコしていて、
 驚くほど賢そうな眼をしていた。

 身体つきもしっかりしていて、
 <特別な子ども>という印象があった。
 人を惹きつける、何か強いものがあった。

 だから余計にリィンじゃダメだという結論に
 なりやすかったのかもしれない。


 結局リィンは、2歳になって間もなく家を出された。
 魔女だと言われているおばあさんに預けられたんだ。
 その人は、リィンの扱い方を心得ていたんだろう。
 すごく懐いていたらしい。

 でも、数年後、彼女は自分の死期を悟って、
 自分が見込んだ人物にリィンを託した。
 ・・・イワイシが師匠って呼んでいる人のことだよ。
 
 でも、これは、リィンには相当つらいことだった。
 見捨てられたような気持になったかもしれない。


 ルドゥは早くから自分の力に気付いていた。
 すぐにそれをコントロールする術を覚え、
 自分の支配下に置き、強化していった。

 もっと速く走れるようにとか、
 もっと高く跳べるようにとかって、
 自分の体を鍛えるような感じだったのかな。


 リィンはそれとは対照的だった。
 自分の力の存在に全く気づいていなかった。

 でも、魔女のおばあさんは
 リィンが怖がらないように気をつけて
 うまく導いていったんだろう。

 リィンにとって、力というのは、支配する対象ではなく、
 必要な時に呼び出すものって感覚だったと思う。

 最初はうまく扱えなかったみたいだけど、
 呼び出す方法を覚えてからは、
 力を使ってひとりで遊んでいた」

ケムリはペットボトルの水を飲み、しばらく考えてから
また話を続けた。



「さっき、弱いほうを消すって言ったけど・・・

 そのやり方っていうのは・・・
 今、この場で話すと、
 ものすごく荒唐無稽に聞こえるかもしれないなぁ。
 
 ある年齢になったら、双子はそれぞれ決められた場所へ行って、
 そこにいるモンスターみたいなものを倒すことになっていた。
 モンスターを倒した方を後継ぎにするっていう決め方だったんだ」



は?
モンスター??


透は声をあげそうになったが、
この話は別の世界のことだと気がついた。
常識を棚上げしろって言ったのはそのせいか。
あり得ないことだって、あり得る世界なのだろう。


「もし、二人とも、モンスターとかいうのを倒したら、
 どうなるんですか?」


「それはない。
 モンスターは・・・その・・・
 幻影みたいなものだから。

 モンスターと戦っているように見えるけど、
 実際は・・・・双子同士の戦いなんだ。
 モンスターへの攻撃は、そのまま相手への攻撃になる。

 リィンは完全に見込みナシって言われていたし、
 外に出したんだから、あとは好きにさせろなんて声も
 あったらしい。

 でも、どういう経緯があったのかは知らないけど、
 結局、これまでの双子の伝統の通り、
 リィンもモンスターと戦わせるってことになった」

 

透の頭の中で何かが繋がったような感じがした。


<もういない>と言っていた兄の影を見て
イワイシがひどく動揺した場面が鮮明に浮かんだ。



「イワイシが知らないほうがいいことがあるって
 さんざん言ってたのは、これだったのか・・・

 結局、イワイシが勝ったってことですか?

 ・・・勝った方は自分が何と戦ったのか、
 わかってしまうってことなんですか?」




「これまでの双子の戦いの場合、
 本当にごく一部の関係者以外には
 真相はわからない状態になっていたはずなんだ・・・

 もっとも、ルドゥとリィンの前の双子というのは、
 何代も前の話だから、詳細はわからない。
 記録は残っているかもしれないけど、
 絶対に外には出さないと思う。

 ・・・リィンの場合、能力が高すぎたんだろうな。
 戦いの仕組みを感じとってしまった」



「でも、別々に育てられていたのなら、
 相手のことはあまり知らなかったはず・・ですよね?

 いや・・・でも・・・

 全然知らない相手だったとしても、
 自分が誰かを殺したってわかったら、
 しかも、特に殺す理由なんかない相手だったら・・・
 ちょっと耐えられそうにないな・・・」



「俺だってそうだし、
 イワイシだって同じだよ。 
 そういうのが平気な人間もいるかもしれないけど・・・

 ・・・当初、ルドゥの力が圧倒的だった。
 だから、モンスターを倒して、
 後継ぎになるんだとかなんとかって、
 先のことまで吹き込んだ奴がいたんだ。

 それを聞いてルドゥはさらに力を磨くんだけど、
 一時期、力が極端に弱まったことがあった。
 理由はよくわからない。


 体や心の成長と、力の成長とのバランスが
 かなり崩れていたせいじゃないかと
 個人的には思ってる。


 その時、ルドゥをリィンに会わせて、
 自信を持たせようとした大バカがいた。


 ライバルは見ての通り、とても弱い。
 どちらがモンスターを倒せるかはもう決まっている。
 だから、焦らずに鍛錬を積めばいいとか、
 そういうことを言ったんだろうよ。

 リィンは何も知らなかったから、
 自分に双子の兄弟がいたことを素直に喜んだ。


 ルドゥは、もしかしたら、
 リィンがこの先どうなるかを聞いていたのかもしれない。
 だから、憐憫の情みたいなものがあったんだろうな。
 仲良くしてたよ。

 ・・・リィンが力を自在に使えることを知るまではね」






_____________________





「なんか・・その・・
 確かに話としてはわかるんですが、
 現実のこととして受け取るのは無理かも・・・」



「無理だと思ったら単なるオハナシというか、
 ファンタジーとして聞いてくれればいいよ。

 イワイシの態度、わけわかんないと思うけど
 あれがどうしてなのか、何となくわかってもらえれば
 それでいいと思う」



「イワイシは、どうしてケムリさんに対して
 反抗的というかキツイっていうか
 そういう接し方をするんですか?
 毎回ってわけじゃないですけど・・・」



「最初は、俺、ルドゥの家庭教師だったんだ。

 リィンがシンを継ぐ者と決まった段階で・・・
 つまり、ルドゥがいなくなった時点で
 リィンの家庭教師ってことになった。

 俺の家は、代々家庭教師的な立場で
 リィンの家にかかわってきた。
 名家の後継ぎの教育係っていえばわかりやすいかな。


 リィンは・・・
 モンスターとの戦いがどういう仕組みなのかを
 俺が最初から知っていたと思ってる。
 それなのに、何も言わなかったと。
 自分に対しても、ルドゥに対しても・・・

 どちらかに真相を告げていれば
 結果は違ってたはずだと思ってるんだ。

 でも、仮にいろいろ知っていたとしても、
 俺の立場じゃ、何も言えないんだけどね」



「実際はどうだったんですか?
 知ってたんですか?」



「知ってた。
 もちろん、事後だけど。

 リィンと同じく、知るべきではないことを
 知ってしまったって感じかな。
 
 もし、事前に知っていたらどうだったか・・・
 うーん・・・やっぱり何も言えなかったかもしれない。

 だから、知らないほうがいいって気持ちは
 すごく理解できる。

 いずれにせよ、モンスターとの戦いの意味を
 知ってるってことがバレたら、
 立場的に相当まずくなるんだけどね」



「そうなんですか・・・

 リィンがおかしくなるのは、
 戦いのせい・・つまり、自分の兄を・・・
 その・・・知らなかったとはいえ、
 殺してしまったからなんでしょうか?」



「そう。

 ルドゥのことは、想像できないくらい
 ショックだったんじゃないかな・・・

 今だって、パニックみたいな状態になってなくても、
 他人との間に必要以上に距離を取ろうとするし、
 絶対に踏み込ませないし、
 自分のことが話題になるのを極端に嫌がる。
 ・・・そうだろ?」



透はうなずいた。
イワイシの頭の回転の速さや
察しの良さが際立っているだけに、
特に<自分に関する話題の避け方>については、
ちょっと異様な感じがしていた。

 

「さっきも言った通り、ルドゥとの関係は
 当初は良かったんだ。
 そんなに頻繁に会っていたわけではないけど。

 リィンにとっては、ルドゥには力があるけど、
 自分には力がないという認識だった。

 でも、ルドゥのような力がないかわりに、
 どこからか流れてくるエネルギーの扱い方は
 わかってるって程度に考えていたんだと思う。

 でも、ルドゥはリィン自身の力だと気づいた。
 
 実際、扱えるエネルギーの量の差は桁違いだったんだ。
 だから、力の差を痛感したんじゃないかな」



「でも、ルドゥだって強い力を持っていたんでしょう?
 早い時期から後継ぎということになっていたみたいだし」


「もちろん。
 ルドゥはとても優秀だったよ。

 しっかりした考えを持っていたし、
 仮に不思議な力を持っていなかったとしても、
 周囲が放っておかなかったと思う。

 リィンは、周囲の期待を感じることもなかったし、
 <自分自身の力>っていう縛りなかったから、
 さっきも言った通り、大きなエネルギーを扱えたんだ。

 でも、ルドゥは・・・
 自分が完全にコントロールできる範囲の力しか
 扱えなかった・・・っていうより扱おうとしなかったんだ。


 ルドゥが悪いって意味じゃないよ。
 性格の問題なんだろうなぁ・・・
 ルドゥは自負が強い分だけ、
 自分自身でコントロールするって点に
 こだわったのかもしれない。

 自分に自信が持てなかったリィンにとっては、
 ルドゥのそういう部分は、
 羨ましかったんじゃないかな」




 > 才能があると周囲から認められて努力していた兄が
 > ダメダメで無能だと言われていた弟に追い越されたら?
イワイシが言った言葉が頭に浮かんだ。




「あの二人・・・ああいう家柄の双子に生まれなかったら、
 それぞれ自分らしいやり方で力を発揮して、
 活躍できたと思うんだけどね。
 
 ・・・今さら言っても仕方ないけど。

 ルドゥがどれほど将来を嘱望されていたかを
 リィンが感じとっていただけに、
 奴の罪悪感は消えないんだろうな」






_____________________





透は何も言えなかった。
イワイシと普通に会話したり、出かけたりしていたのが
信じられなかった。



ケムリは言葉を続けた。
「ハシバくんにとっては、やっぱり<現実>じゃないよね。
 物語であって、フィクションなんだろうなぁ。

 それにしても・・もう少し奴が図太かったらよかったのに。

 もし、そうだったら、
 これほどまでに自分を責めなかったと思うんだけど。

 光崎さんが、イワイシに対して
 もっと幸せになっていいって言ったのは、
 彼女には、いろいろ見えてるからなんだろうな」



(あのときのイワイシは、
 いつも以上に感情を隠そうとしていた感じだったかも。
 その後も、ぼーっとしてたみたいだったし)



「でも・・・まわりがアレコレ言ったところで、
 本人が気持ちとか考え方を変えなかったら、
 見えてる世界はそのままだと思います」



「そうだよな」
ケムリはため息交じりに言った。



「・・・モンスターとの戦いの後、
 リィンはいつも以上に寡黙だった気がする。

 でも、俺に対しては、
 自分から進んで言葉を交わそうとしなかったし、
 たいていポーカーフェイスというか、
 表情を変えない感じだったから、
 戦いが何を意味するかを知っていたなんて、
 あの時は全然気がつかなかった。

 ルドゥがいなくなって、
 彼の取り巻きみたいな連中が
 リィンに近づき始めた矢先に、
 いきなり失踪した。

 ・・・つまり、<ここ>に来たってことなんだけど」




(そういうことだったのか・・・)
透は、ケムリと最初に会った時を思い出した。


あれは・・・山にいく途中だった。


イワイシとケムリは一言も聞き取れない言葉で
会話してたんだっけ・・・


それで、イワイシは“だましやがって”って言ってたんだ・・・


  『俺の知っている奴がケムリを演じてたんだ』


イワイシの声を思い出したとたん、右肩が熱くなった。



「情報、ありがとう。
 ・・・今、送ろうと思って送った?」



「いや、勝手に送られちゃったんですけど、
 でも隠すことでもないし」



「最初は煙みたいな、
 はっきりした輪郭を持たない状態で
 イワイシに接触したんだ。
 だからケムリって名乗ったんだけど」




「じゃあ、本当の名前は違うんですね」



「向こう側では、サファンって呼ばれてた」



「イワイシは一度もその名前を使っていませんね」



「そうだな・・・たぶん、口にしたくないんだろう。
 その名前は、ルドゥの記憶を呼び寄せるから。

 でも、自分からルドゥの話をしたんだったら、
 記憶の地雷を踏まない方法を見つけたのかもしれない」




透は川辺でメモリーストーンに触れたときの
イワイシの様子がふっと頭をよぎった。


    『記憶から消し去りたいことがたくさんある方が
     おかしいんだろうな・・・』



「メモリーストーンの時と、
 石の博物館で、棚の動力をつなぎかえた時・・・ 
 イワイシがパニックみたいになったのは
 戦いの記憶がフラッシュバックしたから?」



「そう。

 メモリーストーンは、記憶を呼び起こす石・・・
 イワイシみたいな奴は触るべきじゃない。

 あの石は、そこらへんにゴロゴロしてるような
 ありふれたものじゃないはずなんだけど。

 もっとも、ハシバくんがメモリーストーンを拾った場所は、
 石が生まれるような特別な空間だったから、
 メモリーストーンが落ちてても
 おかしくなかったのかもな。


 棚の作業の時は・・・
 たぶん、こうだったんじゃないかっていう
 推測にすぎない話なんだけど・・・

 モンスターと戦っている時、
 リィンは、ルドゥの存在を、
 微かに感じていたのかもしれない。
 漠然とした感覚ではなく、
 ダメージを受けてるとか苦しんでいるとか
 そういうことを感じ取っていたかもしれない。

 でも、ここに彼がいるはずはないと
 打ち消してたんじゃないかな。

 だから、苦しんでいる存在をみると、
 あの戦いがフラッシュバックするのかも・・・

 棚の作業のときには、<シン>になってたのは、
 中に入っていた石を助けるために
 大きな力を呼び起したからだと思う」



「・・・シンっていうのは?
 喫茶店で話した時には
 受け継いだ名前って教えてもらいましたけど、
 イワイシは・・・人名じゃなくて、
 ある状態を指すっていっていましたよね?」



「<シン>だけが扱えるエネルギーがあるんだ。
 それを扱えるようになるっていうのが、
 名前の継承の条件であって、正統な力を持つ者の証。

 ・・・双子の場合、片方がシンを受け継いだってことは
 もう一方が消えたってことだからな・・・

 それがイワイシには許せないんだろう。
 そんな名前ならいらないって本気で思ってる」
ケムリは淡々とした口調で話した。


    『言っとくけどな、俺が<シン>ってわけじゃない』


(ああそうか・・だからあの時のイワイシは、
 なんだか怒ってるみたいだったのか・・・)



「シンは、大きな力を持つ人間に与えられる、
 特別な名前・・・称号みたいな意味合いもある。

 だから、その名前を継いだことは、
 名誉なことだし、大きな誇りっていうのが、
 これまでの当たり前だったんだけどね。

 そういうこともあって、<シン>の継承者に対しては
 最大限の敬意を払う空気が出来上がってた。

 本来、俺は、イワイシ・・・リィンに対しては
 タメ語で話すような立場じゃないんだ。

 奴が激怒するから、敢えて敬語は使わなかったけどね」




    『了解しました。ご一緒させていただきます』


透は一度だけケムリが丁寧な口調で話したことを思い出した。
再び右肩が熱くなった。



「ああ・・ハシバくんの記憶力はすごいね。

 この時は、自分でも、
 なんでこんなこと言ったんだろうって思ってたんだ。
 気をつけてたはずなのに。

 あの後、リィンは<シン>のエネルギーを使った。
 ああいう状態の彼を見たのは初めてだったんだけど、
 前兆みたいなものがあったような気がする。
 無意識に感じ取るような、エネルギーみたいなものとか。

 だから俺の言葉遣いが変わったのかもしれない。
 ・・・後付けの説明だから、こじつけっぽいけど。


 結局、<シン>の名前がどれほど名誉なものであっても、
 その力がどんなに大きいものであっても、
 リィンにとっては、
 兄の命の代償としか思えないんだろう。
 だから、本人的には全く歓迎していない・・・」







_____________________





「なんだか・・・その・・・どう言っていいんだか・・」
透は自分の中に湧き上がってきたものを
ケムリに伝えたかったがうまくまとまらなかった。


しばらく考えて、やっと言葉になったのは、
「・・・ルドゥって人、そんなにすごかったんですか?」
だった。



「うん・・そうだね。
 パッと見にタダモノじゃないってわかるような・・・
 でも、こういう答えを期待してるんじゃないだろ?」



「あ、はい・・・えーと、その・・・
 俺から見ると、イワイシが凄すぎるから、
 彼が羨ましがったり、引け目を感じるような人物って、
 どういう感じなんだろうって思って・・・」



透の質問を聞いて、ケムリは少しの間、目を閉じていた。
何かを思い出そうとしているようだった。
「ルドゥがいなくなって、リィンは変わったよ。
 ものすごく雰囲気が変わった。
 まあ、あんな出来事があったら、
 どんな人間でも変わっちゃうだろうなぁ。

 俺にとって、ルドゥとリィンは
 顔のパーツは似ていても、別人にしか見えなかった。
 でも、周りの人間にとっては、
 リィンがルドゥに似てきたって印象だったらしい。
 結構な数の人間がそう言ってたから、
 かなりそっくりに見えてたと思う。

 もしかしたら、リィン自身も、
 似ていると感じてたかもしれない。
 鏡やガラスに自分が映っているのに気が付くと
 必ずといっていいほど、すぐに目を逸らしていたから」




「それって・・・」
透は言いかけて口を閉ざした。


キツイなんてレベルじゃない。
そのへんに転がってる言葉でコメントできる内容じゃない。
自分だったら、絶対に耐えられない。



「・・・居場所を変えたくなるのも当然だよな。

 イワイシさんとか、イワイシとか
 <リィン>とはまったく別の存在を自分の中に作ってるのも、
 相手に合わせて<自分>を消すのも、
 心を壊さないためにやってるのかもしれない。
 
 ルドゥとは何の関係ない存在になりたいっていうのも
 大きな理由だと思うけど」



「ケムリさんは・・なんでここに来たんですか?
 リィンを連れ戻すためですか?」
透はふと頭に浮かんだことをケムリに尋ねた。



「そう・・・連れ戻すため・・・だったんだけどね。
 本人が戻ろうって気持ちにならないとムリだ。
 奴の方が、遥かに力が強いからなぁ」
ケムリは苦笑いを浮かべた。



「え・・・じゃあ・・どうするんですか?」



「どうしようかなぁって思ってる。
 リィンは、イワイシとしてこっちで生活する方が
 いいのかもしれない」



「その・・・後継ぎ問題とかっていうのは
 大丈夫なんですか?
 イワイシが後継者なんじゃないんですか?」



「そうなんだけどね。
 今のところ、本人だけが認めていない。

 奴は、代わりの人間なんかいくらでもいるって
 思ってるんだろうな。 

 でも、代わりになれる人間なんかいないよ」
ケムリは額を右手で押さえて溜息をついた。

 

「・・・リィンは、ルドゥが周囲の期待を
 一身に集めていたのを感じていただろうし、
 ルドゥ自身がそれに応える努力をしていたのも
 知っていたんだろう。
 
 だから、今更、自分が後継者だと言われても
 全然納得してないし、
 自分のような人間でさえ後継者になれるんだったら
 誰がやっても同じだろうって考えてるんじゃないかな。


 ・・・・すべてが失敗だったかもしれない。

 モンスターとの戦いも失敗だったし、
 それ以前のやり方も失敗だった。

 ルドゥが後継者だって、周囲の奴らが
 最初から決めてかかってたのが
 大きな間違いだったんだ。

 そのせいで、リィンは外に出された。

 結果として、シンの役割を果たすことも、家を継ぐことも、
 ルドゥが引き受けるのが決定事項みたいになってた。
 だから、リィンにとっては、まったく縁のない話だったんだ。
 
 自分には関係ないって思ってた役割を
 いきなり押し付けられるのは誰だって厭だよな」




「イワイシが・・・リィンが後継者になるのは、
 ムリなことなんですか?」



「ムリじゃないよ。
 あのレベルの力があれば、全く問題ない。
 ・・ていうのは、俺の意見だけどね。

 結局は、本人次第かな。
 っていっても、リィンがOKするとは
 今の段階では、全く考えられないんだけど」




「このことについて、話したこと、あるんですか?」



「ない。
 聞くに聞けないっていうのが
 正直なところなんだ。

 この話とルドゥの存在は切り離せないから。

 でも、自分からルドゥの話をしたんだったら、
 大丈夫なのかもしれない。
 ・・・好ましい返事は期待できないだろうけど」  



「そうですね・・・

 でも、イワイシ自身も今の状態がいいとは
 思ってないかも・・

 今、思いついたことなんで、根拠はないですが」



「そう。
 でも、それって、なんだかいい方向を暗示しているような気がする・・・

 ハシバくんの直感に望みをかけてみるよ。
 このまま宙ぶらりんでいられるわけでもないし」

 


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つづく