201409moon1


 

 ◆装飾品◆ Chapter1 

 
 
  
当館では、不思議な力を高めるために、各種の儀式を行ったり、
エネルギーの流れをコントロールするために、特定の場所に
宝石を組み合わせたオブジェを飾ったりします。
 
 
 
昔から抽斗図書館とかかわってきた古い家々では、
強いパワーを持つとされている宝石が手に入ると
当館に寄付する風潮がありました。
 
 
 
昔から、宝石にまつわるパワーには、
光(プラス)と影(マイナス)の影響があるといわれていて、
抽斗図書館に寄付することにより、
プラスの影響のみ受け取れるようになるという言い伝えが
ずっと残っているためです。
 
 
 
実際、偶然かもしれないにしても、
大きな宝石を寄付をした家は栄え、
宝石を持ち続け た家は没落したという事例がいくつかあったので、
多くの人が、この言い伝えを強く信じるようになりました。 
 
 
 
寄付された宝石は、検査・分析され、持っている力の強さを
調べてから、「石の間」の棚に保管されます。
 
 
 
「石の間」は当館の中でも特にパワーがあふれた場所にあります。
また不思議なことがたびたび起こります。
 
 
 
「石の間」に保管されている宝石については、
<図書館の意志>が全て把握しているようで、
必要としている種類の宝石がすべて揃うと、
「石の間」にはオブジェの設計図が落とされます。
 
 
 
落とされるという表現が正しいのかどうかはわかりませんが、
「石の間」の管理者が、何かに呼ばれる ような感覚があった時に
「石の間」に行くと、床に設計図が落ちているのです。
 
 
 
設計図には、どの宝石をどう加工して、どんなふうに並べ、
何を使って固定するのか、それをどこにどのように飾るのか
などが細かく書かれています。
 
 
 
オブジェの作成は、当館の職人が担当していますが、
誰と誰が作るのか、それぞれの役目・分担はどうなるのか、
ということまで指定されています。
 
 
 
指名された職人は、設計図が落ちてくる前に、
必ずオブジェ作成の夢を見ることになっています。
夢の中で完成品を見せられるので、
そのイメージに向かって作業していくことになります。
 
 
 
また、作業期間中は非常にリアルな夢を見ること が多く、
具体的な指示が与えられることもあります。
 
 
 
「石の間」の宝石を使った仕事は、
非常に複雑で繊細な作業が必要となるため、
高い集中力が求められ、精神的に疲弊することが多々あります。
しかし、設計図通りのオブジェを完成させると、
携わった職人の技術は、本人の想像を超えて、
各段に進歩するのがこの仕事の特徴です。 
 
 
 
「石の間」の宝石を使ったオブジェが作られるとき、
つまり、設計図が「石の間」に落とされるタイミングいうのは、
図書館自身が、館内を流れるエネルギーを変えようとしている場合と、
図書館とつながる空間から流れてくるエネルギーの影響を
コントロールしようとしている場合の二つがあります。
 

当館の閲覧室入口の扉の上に、
新しい宝石のオブジェが飾られることになりました。 
 
今回の場合は、喫茶室の改修工事が行われ、
さらに古い屋敷から寄贈された珍しい木を
東側の庭に植えたことなどから、館内のエネルギーを
変えようとしているようでした。
 
 
 
「石の間」に落とされた設計図は、
非常にシンプルで、使う宝石は3種類だけでした。
これは大変珍しいケースです。
通常ならば、指定された宝石を
「石の間」の引き出しから探し出すだけで、
かなりの時間を要するほど、
多くの宝石が使われるのですが。
  
 
 
 
設計図が現れる前に、オブジェの夢を見たのは
長年修復作業に携わってきた職人でした。
修復に関しては多くの経験を積んでいて、
相当傷んだものでも、美しい状態に戻す技術を持っていました。 
 
 
職人は夢を見たものの、それが図書館に飾られる
オブジェだとは思いませんでした。
夢の映像が非常に鮮明で、記憶にしっかり残っていたので
特別な夢という印象はありましたが、図書館と結びついた
夢だとは考えなかったのです。
 
 
 
いつものように作業場に行くと、「石の間」の管理者が
待っていました。
「この設計図、見覚えないですか?」
渡された図面を見ると、まさに夢の中で見たオブジェでした。
「お願いしますね」
そう言うと、管理者は静かに部屋を出て行きました。
 
 
 
職人は、管理者に渡された設計図を机に置きました。
そして、イスに座るとそれをじっと見つめました。
 
 
 
引き出し線の先に書かれている のは、寸法の指定
ではなく、説明の言葉でした。
 
 
 
「光が入るように」
「ゆるやかなカーブで」
「思わず見つめてしまうような感じに」
 
 
 
なんだこれは・・・??
どうやって作ればいいんだ???
 
 
 
宝石に書かれている記号と数字を組み合わせたものは、
「石の間」で保管されている宝石の管理番号でした。
 
 
 
とりあえず石を取ってくるか・・・
 
 
 
職人が椅子から立ち上がると、作業場の扉が開いて
配達係が手押し車を押して入ってきました。
 
 
配達係は館内でのモノの移動を担当しています。
抽斗図書館で仕事に就くと、しばらくの間は、
配達係をやることになります。
職人も遠い昔、配達係をやっていました。
 
 
 
「石の間からです」
そう言って、白い箱を職人の机に置くと
配達係は部屋を出て行きました。
 
 
 
箱の中には、夢の映像に合致する宝石が入っていました。
水に濡れた葉のような鮮やかな緑の石、
強い輝きと透明感のある紺色の石、
そして、紫という色の印象を変えてしまうような
やわらかなイメージの不思議な石。
 
 
 
職人はこれまで、さまざまなものを修復してきましたが、
その中には非常に強いエネルギーを感じるものがありました。
 
 
 
この3 つの石からもかなり強いエネルギーが感じられましたが
それは、職人が知っている「強いエネルギー」ではなく、
全く異質の、直線的で純度の高い感じがするものでした。
 
 
 
石そのものの力かもしれないなと職人は思いました。
 
 
 
さて、これをどうしようか・・・
過去の状態に戻すことはできても、
図面を見て何かを作るっていうのは、
かなり長いことやってないからなぁ。

配達係が「石の間」から運んできた宝石を見て
職人は考えました。
 
 
 
どうも気が進まない感じでした。
職人は宝石を貴重品庫にしまい、鍵をかけると、
今、手がけている修復作業を進めることにしました。
彼にとっては何十年もやってきた仕事ですし、
とても好きな作業なので、長時間続けても
一向に苦にならないのです。
 
 
 
一段落ついた時にはもう遅い時間になっていました。
職人は作業場を片づけると、家に帰りました。
 



201409moon2
 

 
その晩、職人は夢を見ました。
設計図を渡される前に見た、
オブジェの夢と同じくらい鮮明な映像でした。
 
 
 
夢の中で職人は修復作業をしていました。
左右からものすごい圧力がかかったせいで
大きく歪んでしまった金属の枠を直そうとしていました。
 
 
 
修復する対象に触れていると
元の姿がなんとなくわかるのですが、
夢の中の作業でも、元の状態がどうだったのかが掴めました。
 
 
 
道具を取ろうと手を伸ばしたとたん、
その金属の枠の形が、オブジェの設計図に書かれたものと
同じであることに気づきました。
 
 
 
「あ!」
 
 
 
職人はびっくりして声をあげました。
夢の中だけでなく、実際に 声を出していたようで
自分の声で目が覚めました。
 
 
 
職人は、ベッドに体を起こして、
しばらくの間、ぼーっとしていました。
 
 
 
夢の中で修復しようとしていた、歪んだ金属の枠。
現実の仕事の時と同じように、
元の状態がどうだったかが、
手のひらから伝わってきました。
  
 
 
夢の中の出来事だったとは思えないくらいに
両手にははっきりとその感覚が残っていました。
 
 
 
職人は朝食もそこそこに作業場へ向かいました。
 
 
 
そして、枠に使えそうな金属を材料置場から
持ってきて、すぐに作業を始めました。
 
 
 
手の中に残っている感覚を、実際の形に再現することは
今まで何度も何度もやって きた作業です。
いつものように、道具を使って金属を曲げて形を
作り始めました。
 
 
 
作業を始めてほどなくして、職人の手が止まりました。
 
 
 
どういう形にすればいいのか、
手の中にハッキリした感覚が残っているのに
その形を作るのは、どうも無理があるように感じました。
 
 
 
職人は金属を机の上に置き、
もう一度自分の手に残っている感覚に注意を向けました。
そして、頭の中でその形を思い浮かべてみました。
 
 
 
特におかしい点はないのに・・・
いつもの修復作業と同じ感覚なのに・・・
 
 
 
職人はもう一度材料置き場に行き、
新しい材料を持ってきて、作業を始めました。
 
 
 
しばらくすると、再び手が止まりました。
手元が急に見えにくくなったように感じたからでした。
 
 
 
部屋の中は薄暗くなっていました。
西側の窓からは、夕日の名残のようなオレンジ色の光が
かすかに見えました。
 
 
 
もう日が暮れていたのか・・・
 
 
 
職人は灯りをつけると、作業を再開しました。
手の中に残っている感覚を完全に再現した時には、
もうだいぶ遅い時間になっていました。
 
 
 
今日は一日が信じられないくらい早かった・・・
 
 
 
職人は加工した金属を鍵のかかる棚にしまい、
作業場を片づけて、灯りを消すと、家に帰りました。


201409moon3
 
 
 
 
その晩、職人はまた鮮明な夢を見ました。
大きな宝石を加工しようとしていました。
 
 
 
修復作業の一環のようでした。
もともとあった石がなくなっていたので
新しい石を加工して取り付けることになったようです。
 
 
 
図面で形を確認して、石にノミを当てると、
まだ力を加えていないのに、
石は真っ二つに割れてしまいました。
 
 
 
職人が加工しようとしていた宝石は
非常に貴重なもので、入手が困難なものでした。
 
 
 
どうしよう・・・
 
 
 
途方にくれたところで、職人は目を覚ましました。
 
 
 
額にじっとりと汗をかいていました。
時計を見ると、ベッドに入ってから2時間く らいしか
経っていませんでした。
 
 
 
職人はタオルで顔を拭き、冷たい水を少し飲むと
また眠りました。
 
 
 
次に見た夢の中では、職人は石の間から持ってきた宝石を
手にしていました。
 
 
 
図面を確認しているうちに、手の中の宝石の色は
みるみるうちに濁り、くすんだ灰色になってしまいました。
 
 
 
どうしよう・・・
 
 
 
戸惑っているうちに、入口の扉が開き、
石の間の管理人が入ってきました。
 
 
 
何か言わなければ・・・
 
 
 
そう思って顔をあげた瞬間、職人は目を覚ましました。
 
 
 
 
 
窓の外は明るくなっていました。
 
 
 
二回連続で見た似たような夢。
いつもどおりのやり方をやっていると
石が割れたり、変色する。
 
 
 
これだけリアルだってことは、
きっと図書館からのメッセージに違いない。
 
 
 
「いつもどおりのやり方ではダメ」という意味なんだろう。
だとしたら、どうすればいい?
 
 
 
図面を確認して、加工する。
当たり前のことじゃないか。
 
 
これまで何の問題もなかった。
失敗したのは、夢の中の二回だけ。
 
 
 
この仕事は何年もやっているから、
石の種類とその性質は頭に入ってるし、
歪んだ金属を直す技術だったら、
かなり高いレベルになっているはずだ。
 
 
 
他の修復技術だって、それほどレベルが低いわけじゃない。
たまにしかやらないことは
なかなかレベルが上がらないのは事実だけれど、
それでも、自分のやった修復を
後悔する結果になったことは一度もなかった。
 
 
 
今までのやり方の何がいけないんだろう?
 
 
 
職人は身支度をすると家を出ました。
 
 
 
今日は、久々に喫茶室に行ってみよう。
 
 
 
なんとなくヒントが得られそうな気がしました。


201409hana


 

図書館についた職人は、そのまま喫茶室に行きました。

早い時間だと注文を取りに来るスタッフがいないので
職人は厨房のところまで歩いて行って
「紅茶とアップルパイを下さい」
と言いました。
厨房の奥から「はーい」という返事が聞こえました。

職人は窓際のテーブルに座りました。
その時、入口の扉が開いて、石の間の管理人が入ってきました。

なんだか昨夜の夢の場面みたいだ・・・
ふわふわした夢の輪郭が頭の中に広がっていきました。

管理人は職人に気がつくと
「おはようございます。今朝は早いんですねぇ」
と言いました。
職人はあわてて挨拶を返しました。

管理人は、職人と同じように厨房のところへ行って
「紅茶とアップルパイを下さい」
と言いました。

そして「いいですかね?」と確認すると、
職人の向かいの椅子に座りました。

「私も紅茶とアップルパイを頼んだんですよ」
と、職人が言うと、管理人は笑って
「私たちは素直だから」
と言いました。

「どういう意味ですか?」

「ここの喫茶室にも図書館の魔法があるんですよ。
 今の時間はコレを注文してほしいっていうのを
 微妙な力で働きかけてくるんです。
 もちろん、どうしてもコレが食べたいというのがある人には
 効かないですけどね。
 何かを勧められると、敢えてそれ以外のものを選ぶ人にも
 効かないですね。
 何にしようか迷っている人、
 ただこの場所で落ち着いた時間を過ごしたいという人には
 効果があります」

「そうだったんですか。
 何であっさり注文できるんだろうと思ってました。
 私はここに座って考え事したいというのが主な目的だから
 勧められるままに注文してるんですね」

ほどなくしていい香りの紅茶とアップルパイが運ばれてきました。

おいしそうに紅茶を飲み、アップルパイを一口食べた管理人は
「その後、作業はいかがですか?
 図書館が送ってくる夢は見ましたが?」
とたずねました。


職人は
「図書館が送ってくる夢かどうかはわからないのですが」
と、前置きして、いつも通りの作業をしていると
持っていた石が変色してしまったり、
割れてしまったりする夢を見たと話しました。

「ほう。その時、どんな感じでしたか?」

「どんな感じって・・・夢の中でどう感じたかってことですか?」

「ええ、そうです」

「そりゃ、冷や汗もんですよ」

職人が正直に言うと、管理人は笑いました。

「間違いないですね。図書館が送ってきている夢です」
そして、紅茶を飲み、アップルパイを食べました。

あんなイヤな夢を送ってくるなんて、
図書館は一体何を考えてるんだ???

職人はそんなことを考えながら、アップルパイをきれいに食べ、
紅茶を飲みほしました。

「夢解きはお得意ですか?」
管理人に聞かれて、職人は答えに詰まりました。

「・・・夢なんて、めったに見ないので」

「そうですか。でも今回の夢から何か思うことはあるでしょう?」

「うーん。何となくですが、いつものやり方ではダメって
 ことなんじゃないかと」

「そんな感じがしますよね、確かに。
 では、どんなやり方ならよさそうでしょうかねぇ?」

職人はまたしても答えに詰まりました。

今までの修復作業では、なんとなくやり方がわかっていた。
壊れたものを触れば、元の形が感じられるから、
元に戻してやればいいだけだった。

今回も設計図を見て、なんとなくはわかったけれど、
それだけじゃダメってことなんだろうなぁ・・・

職人はしばらく考えてから管理人の質問に答えました。

「ご存じのとおり、私はずっと修復作業をやってきました。
 壊れたものを触ると、元の形がなんとなくわかるんですよね。
 わかるというか、感じるというか。
 こうだったんじゃないかなっていうレベルですが。
 設計図でも同じで、なんとなくわかるんですよ。
 たぶんこうじゃないかって。
 こうじゃないかって感じる通りに今までやってきて、
 特に問題はなかったんですけどね。
 今回は、それじゃだめだというか・・・
 いや、この方法がだめってわけじゃなくて、
 これだけじゃだめで、さらに何か考えてやりなさいって
 言われている気がします」

管理人は、大きくうなずきました。
「これまで図書館からの指示で装飾品を作ってきた人たちは
 たいてい何か新しいチャレンジをしていましたよ。
 
 もっとも彼らが望んだんじゃなくて、新しいことをやらざるを
 得ない状況になってしまうというのが正確なところですが」

「私もそうなりつつあるわけですね」
職人は気の進まない口調で言いました。

「悪いことじゃないでしょう。新しい挑戦をした人たちは
 その後、かなり腕をあげましたから。
 あなたのような大ベテランも例外ではないですよ。
 ところで、測定士に会ったことがありますか?」

「ソクテイシ???」

「館内のエネルギーの流れやさまざまな力を測定している人ですよ」

「初耳です」

「測定士に会って話を聞くと何かヒントが得られるかもしれません。
 私がご紹介いたしましょう」

管理人はちらっと職人のテーブルを見て
食べ終わっているのを確認すると
イスから立ち上がりました。




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201409green