2014年
11月
06日

ある方のブログを見ていたら、
“オーダーしたお香が届いた”という文章があった。
お香をオーダーできるのか・・・と思って、
ブログの文中のリンクをたどると、
お香のお店のサイトが出てきた。
メニューの中に「対面お誂え」の文字が。
<お誂え>の3文字に、ものすごく惹かれてしまった。
誂える:自分の思いどおりに作らせる。注文して作らせる。
5年くらい前に、「世界に一つだけのコート」を手に入れたときの
楽しい記憶がよみがえってきて、ぜひやってみたい!と思った。
予約した日はあいにくの雨降り。
お店の場所は、メールでわかりやすい説明をいただいていたので
迷わずに行くことができた。
店主は「香司」の肩書を持つ、とても素敵な女性。
13歳のハローワーク 公式サイトによると・・・
> 香司(こうし)とは、香料選びから調合、仕上げまで、
> お香の制作に関する一切の責任を負う人。
> 天然香料についての専門知識と研ぎ澄まされた感性を持ち、
> 伝統の製法に基づく奥深い香りを生み出すスペシャリストである。
対面で作っていただくのは、塗香(ずこう)というもの。
実は、これまで塗香がなんたるかも知らなかったし、
「塗香入れ」なる道具が存在することさえ知らなかった。
「塗香」は、お清め(浄化)のための粉末のお香。
ごく少量を掌にとって、両手をこすり合わせるようにして塗り付ける。
「塗香入れ」は、塗香の少量の取り出しがしやすくなっている容器。
お値段はピンキリ。
塗香は、さまざまな浄化の場面で使えるもので、
写経の前に使うのもよいとのこと。
一昨年から、なんちゃっての写経を地味にやっているが
(でも、文字はキレイにならない・・涙)
来年からは、ほんのちょっと本気度があがるので、ちょうどよかった。
塗香づくりに使うのは天然香料。
半透明の白い容器に入った白檀、龍脳、丁子、桂皮などが
丸いテーブルに並べてあり、ひとつずつ匂いを嗅がせていただいた。
いかにもの仏教系から、漢方薬系・カレースパイス系と実に様々な匂いだった。
本当に個性的な香り。
これを混ぜたら、一体どうなるんだろう??と興味津津。
まず、これから作る塗香の名前を考えてくださいと言われた。
え?
名前??
つけた名前に向かって香りが作られていくとの説明にビックリ。
<光>という文字が頭に浮かんだので、
これを入れようと思った。
写経の前だから、いろいろ整えてからやりたいと考えた。
そこで<光整>になったのだが、
これをどう読むのか、自分でもわからない。
(しいていえば、コーセーになるんだろうけど、
読み方はあまり気にしなくてもいいみたいだった)
調製の途中で、香りを確認させていただいたが、
なんとなくだけど、<収束していく感じ>が
わかるような気がして面白かった。
あんなに個性的で、
自己主張の激しい香りが含まれているにもかかわらず、
調合すると、ひとつのまとまった香りになるのも不思議だった。
塗香を作っていく間のおしゃべりも楽しかった。
店主が作るお香は「細長い香り」と言われることがあるそうだ。
一緒に学んだ仲間の中には「丸い香り」を作る人がいて、
本当にそんな感じの香りでしたと笑っていた。
香りは目に見えないし、形なんてないはずなのに
細長い香り、丸い香りといった図形メタファーが
すんありあてはまるのが面白い。
「ふわりと広がる」とか「すっと立ちのぼる」といったイメージが浮かぶ。
丸みを帯びた優しい雰囲気とか、スパイシーでシャープな感じとか。
<光整>も、確かに細長い感じがする。
名前の文字もカクカクしているので(?)、
何かを区切っていくとか、
まっすぐに並べなおすとか、
直線的なイメージがあると思った。
辞書の説明だと、
名とは、他と区別するために・何かを表すためにつけた言葉・呼び名であり、
その呼び名によってある概念があらわせる言葉、となっている。
<光整>と名付けることで、ほかの塗香とは区別された存在になり、
その香りは、<光整>という言葉であらわされる、ということになるのだろう。
常用字解(白川静)には、「名」という漢字については、
以下のように書かれていた。
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会意。夕と口をとを組み合わせた形。夕は肉の食略系。
口はサイ(これを表わす記号はテキストでは表示できない)で、
神への祈りの文である祝詞を入れる器の形。
子どもが生まれて一定期間すぎると、祖先を祭る廟(みたまや)に
祭肉を供え、祝詞をあげて子どもの成長を告げる名という儀礼を行う。
そのとき、名をつけたので、「な、なづける」の意味となる。
また名声(よい評判・ほまれ)・名望(名声と人望)のように
「ほまれ」の意味にも用いる。
子が生まれて一定の日数が過ぎて、養育の見込みが立つと、
廟に出生を報告する儀礼を行い、幼名をつける。
それを小字・字(あざな)といい、さらに一定期間がすぎると
廟に成長を告げ、命名の儀礼を行うのである。
まだ実名を呼ぶことを避けるために、名と何らかの関係のある
文字が選ばれて字がつけられ、通名として使用した。
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子どもの成長に従って、次の名前をつけるたびに
儀礼が行われていたということは、
「名」というものには、何か“特別な力”が備わっていると
考えられていたのかもしれない。
『空海の夢』という本にはこんな記述があった。
> 古代言語観念の世界においては、「お前は誰か」と問われて
> 自身の名を言ってしまうことが
> そのまま服従を意味していたという事情があった。
名前には、昔からパワーがあると考えられていたんだろうなぁ。
「名前」を重要なアイテムとして扱う物語は
いろいろあったように思う。
エジプト神話に登場するイシスの物語にも
太陽神ラーの秘密の名前を手に入れるくだりがあったし、
「千と千尋の神隠し」にも、名前が持つ力を象徴するシーンがあった。
「つけた名前に向かって香りが作られていく」
子どもの名前を付けた時のことを思い出した。
名前を付けることによって、
方向性のようなものが定まるのかもしれないな。
名前の持つ力が感じられた経験だった。